肥満の患者に「はっきり言ってテロです」 現役看護師が“炎上覚悟”で伝えた切実なお願いとは
集英社オンライン / 2024年5月16日 18時0分
現役看護師がSNSで訴えた患者へのお願いが多くの反響を呼んだ。「肥満の人に痩せてほしい」と訴えるものだが、実はこれ、患者の健康のためだけでなく、看護師の健康のためにも痩せてほしいという意味も含んでいる。
【画像】「はっきり言って肥満はテロです」太りすぎて起き上がれない猫
「はっきり言ってこれは【テロ】です」
訴えをXに投稿したのは、看護師19年目のSKY BLUEさん(@skyblue_nurse)。
「看護師からのお願いです。どうか、肥満体型の方、痩せてください。貴方様の健康を維持するためでもあるのですが、私たち看護師の腰も守るためでもあります」と切り出した。
肥満体型の人が病気になって自分で動けなくなり、寝返りを打つこともできなくなった際、看護師が寝返りさせてあげなくてはならないのだが、これがかなりの重労働だという。100kgを超える患者に対しては複数のスタッフで対応することも余儀なくされ、その結果、看護師たちが「腰痛」や「ギックリ腰」、さらには「椎間板ヘルニア」などを発症させてしまうらしい。
「これでは病人が増えるだけです。炎上覚悟で言いますが、はっきり言ってこれは【テロ】です。何人もの看護師や介護士が腰を痛めていきます。私たちにもこの先の人生があります。病気で体重増加された方は仕方ないかもしれませんが、暴飲暴食など自己管理の甘さが原因での肥満の方は、自分の力で動けなくなったときのことをもう少し考えてほしいです」とSKY BLUEさんは訴えている。
こちらのポストに対して、医療従事者と思われる人々から多くの共感の声があがっている。一方で、患者という立場でしか病院に関わることがない多くの人からは反省の声も寄せられ、意識を高める効果をもたらした。
そこでSKY BLUEさんに、患者に寝返りさせるという一見するとなんてことなく思える行為がいかに大変なのか、また寝返りがどれほど重要なのか、さらに詳しく聞いてみた。
看護師の腰を破壊する患者のケア
「寝たきりの患者さんの体位変換は、4時間を越えない範囲ですることと言われています。その理由としては、褥瘡(じょくそう)=床ずれを予防するためです。しかし、ICUなど意識がなく重症な患者さんが入院している場所では、2時間毎に行っています。なので8時間勤務なのであれば、最低1患者さんに対して4回×担当患者さん分と、ペアの看護師の患者さん分の寝返りをさせないといけません。
一般病棟では、もう少し軽症だったり、看護師の人数がいないので、一人で体位変換をしたりしています。一般病棟はICUよりは、回数が少ないと思いますが、何回しているかは、病院や病棟によっても違います」(SKY BLUEさん、以下同)
また、寝返りを打たせるだけではなく、ベッドの頭部側をギャッジアップして患者の上半身を起こしてあげた際にも、補助は必要となる。体が下にずり落ちてしまってベッドから転落する危険や、体勢がキツくなったりするため、頻繁に体を上方に持ち上げて元の位置に戻してあげなければならないのだ。こちらは2時間毎よりもさらに頻繁にする必要がある。
入院中の患者は基本的に点滴やオシッコの管、そして手術後に挿入されるドレーンという菅や、さらには人工呼吸器など、さまざまな管類が体に挿入されているため、そこにも注意を払わなければならない。
「意識がない方を持ち上げるというのは、考えているよりもかなり大変です。体の全部の力が抜けてる状態なので、思っている以上に重かったりするのです。そして、意外と知られてないのですが、全身状態が悪くなると、おしっこが出なくなり、点滴や体の中の水が、体内に溜まってパンパンになってくるんです。水の重さはかなり重くて、さらに体重が増すので、当然腰への負担もプラスされます」
20年近く看護師をして思うこと…
こうした腰への負担でギックリ腰などを発症した際、看護師の中には責任感から、強い痛み止めを医師に処方してもらい、それを飲みながらコルセットをして働く人までいるという。また、ギックリ腰は労災対象になりにくいというが、看護師も例外ではないそうだ。
「自分が病気になって誰かのお世話になることや寝たきりになることを想像しながら生活している人なんてほとんどいないでしょう。でも、人はいつどうなるかわかりません。よく言われていることですが、肥満の方は病気のリスクが高まります。20年近く看護師をしていて、やはり肥満の方の糖尿病や高血圧、そして心筋梗塞、脳卒中になられている方をたくさん見てきました。そうなったときに後悔先に立たずになると思います。『太っていても誰の迷惑にもなってないんだからいいじゃないか』と言う方もいます。でもそれは、“現時点”ではなんです。
今、看護も介護業界も人手不足で、人がたくさん辞めていってる状態です。若いときに腰を傷めて、腰痛とお付き合いしながら働いてる看護師や介護士、それが原因で辞めていってしまうスタッフなども見てきました。私も若いときに椎間板ヘルニアを発症しましたが、やはり体重が重い方が入院してきたときには、再発することもあります。看護師たちの体を守るためにも、体重コントロールはしてほしいと思っています」
肥満の人相手の、手術や検査、処置は、普通体型の人に比べて困難。ふだんならスムーズにいく動作も、いろいろなリスクが高まってしまう。過去に150kgの方の胸骨圧迫(心臓マッサージ)をした際は、脂肪が厚く、難しかったようだ。
「肥満によって、助かる命が助からなくなることもあります。ですが、きっとこの文章を見て、『痩せよう』と思ってくださる方はまだ多くないと思います。ですので、今後は、体位変換をするロボットや体を持ち上げる介護ロボットなどの活躍を心から期待します」
取材・文/集英社オンライン編集部
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