コロナ禍で売上激減、廃業寸前のピンチからなぜ?「元祖 鯱もなか本店」が奇跡のV字回復を果たしたワケ
オールアバウト / 2024年5月14日 21時15分
元祖 鯱もなか本店は創業110余年の名古屋の老舗和菓子店。SNSのフォロワー数5万人超の話題の人気店だ。しかし、ほんの数年前は“廃業寸前”の状態だった。どうやって奇跡的なV字回復を果たしたのか? その秘密を探る。
「愛知県の人気の和菓子」として、老舗でありながら今が旬の「元祖 鯱もなか本店」(名古屋市中区)。地元アイドルやJリーグ、映画などとのコラボ商品も次々に発売。
2024年にはなんとアイドルグループ、ももいろクローバーZとのコラボも! ニューアルバム発売記念として、全国ご当地菓子5品とのパッケージコラボのひとつに選ばれました。
さらにXのフォロワー数は5万人超。常に話題を振りまき、多くのファンを獲得しています。
そんな「元祖 鯱もなか本店」ですが、実はほんの4年ほど前は“廃業寸前”の状態でした。後継者はおらずコロナ禍で売上は激減。100年以上続いたのれんを下ろすのも時間の問題だったのです。
ところが、そこから奇跡のV字回復を果たします。売上はどん底だった時期から実に10倍増!
一体どんな方法でピンチを乗り越え、業績を飛躍的にアップさせたのでしょうか? そして、なぜ今こんなに多くの人に愛されているのでしょうか?
歴史がある割に地元では“知る人ぞ知る”存在だった
「元祖 鯱もなか本店」は1907(明治40)年創業。1921(大正10)年に鯱もなかを売り出すと、たちまち人気の名古屋土産に。戦前までは、青柳ういろう、納屋橋饅頭(現在は販売休止)と並んで名古屋土産御三家に数えられる定番でした。
しかし、名古屋城や名古屋駅などの売店への卸売りに特化していたため、買い求める人のほとんどが観光客。そのため、歴史がある割に地元では知る人ぞ知る存在でもありました。
この販売戦略が、コロナショックの影響をより深刻なものにします。お出かけができない世の中になり、お土産需要がほぼゼロになってしまったからです。
4代目の思いと戦略がピンチを救う
ところが、コロナ禍のピンチがV字回復のきっかけにもなったのですから、世の中分からないもの。当時SNSでは、売るあてがなくなった特産品を購入して生産者を支援し、フードロスを削減しようという通販サイトがいくつも設立されました。「元祖 鯱もなか」もそこに商品を出品。
するとおよそ200件もの注文が寄せられたのです。
「お客様から『おいしかったです』『これからも頑張ってください!』という温かい声をいただきました。それまで卸売りが中心で直接お客様の声を聞く機会がほとんどなかったので、皆さんのメッセージがより心に響きました」
こう振り返るのは3代目の長女、古田花恵さん。当時は専業主婦で、生家の仕事は時々手伝うくらい。父親も大変な和菓子作りを娘に継がせるつもりはありませんでした。
しかし、お客さんの声にふれたことで「こんなに愛してもらっているうちのお菓子を私の代でなくしてはいけない!」という気持ちが膨らみ、家業を継ぐことを決意します。
以来、ホームページや通販サイトをリニューアルし、SNSでも情報をこまめに発信するように。体制を整えた上で、2021年8月に花恵さんが正式に4代目に就任します。
これをプレスリリースにまとめて地元メディアなどに送ると、ネットニュースに取り上げられ、これを機に次から次へと取材が舞い込むことに。
「専業主婦が実家の和菓子屋を継ぎ、コロナ禍の危機にもめげず奮闘している」というストーリーが、暗いニュースばかりの時世にあって大きな共感、そして応援したいという“推し活”の心理を呼び起こしたのです。
SNSを駆使して常に話題を発信
SNSを活用して話題の発信、ファン作りに努めてきたのは、花恵さんの夫、憲司さんです。
「日々のこまめな投稿で親しみやすさを持ってもらい、時にはバズることを意識した投稿も。商談を控えて『いいね!』をお願いしたら1万近くが集まったり、和菓子離れと呼ばれる風潮に対する悩みや決意を長文にして投稿したり、素直な気持ちを投稿すると、皆さん反応してくれるんです」
また、他ブランドやグッズなどとのコラボも、SNSを通してフォロワーがつないでくれるケースが多いのだとか。
名古屋のアイドルグループ、「TEAM SHACHI(チームシャチ)」やJリーグのサッカーチーム「名古屋グランパス」とのコラボは、それぞれのファンの投稿をきっかけにグループ、チームの公式アカウントが反応して実現にいたったものでした。
伝統の味を守りつつ、新たな魅力もプラス
もちろん、この4年間で取り組んできたのはSNSによる話題作りだけではありません。鯱もなかをはじめ、ロングセラー商品は“手作りのおいしさ”を大切に継承しています。
名古屋のシンボル、金シャチ(金のしゃちほこ)をかたどった最中は、かつてはいくつも類似商品があったそうですが、今も残るのは元祖であるこの店の商品をはじめごくわずか。
イカつさの中に愛嬌もある金シャチの形は、名古屋人の郷土愛をくすぐると同時に、意外やSNSでも映えると購入・写真投稿する人が後を絶ちません。歴史ある商品を残していけるよう、伝統の味を守り続けていると言います。
また、中身のおいしさは変えない一方、装いは一新。主要な商品のほとんどはパッケージをリニューアルし、店頭での存在感をアップさせました。さらには新商品の開発もこの4年間で20種類以上。
「新旧の商品の魅力アップ」にも積極的に取り組んでいるのです。
そして何より確かな商品力があるからこそ、ファンが継続し、リピーターになっていると花恵さんは胸を張ります。
「『パッケージが変わったから久しぶりに食べたけど、やっぱりおいしいね』とか、『あんこはあまり好きじゃないんだけど、鯱もなかはおいしく食べられる』とおっしゃっていただけることが多くて。
お菓子の専門学校へ通ってあらためて勉強したからこそ、自信はあります。今後もさらにおいしい商品を作っていきたいと思っています」
“推し活”するファンが集うコミュニティー作り
今、商品のヒットに欠かせないのが「コミュニティー作り」と言われています。お店や商品のファンの主にオンライン上のつながりです。
「元祖 鯱もなか」は、花恵さん、憲司さんらの頑張りがコミュニティーの核となり、コラボや新商品などの話題、素直な思いの発信がコミュニティーの参加者の“推し活”の輪を広げています。
そして、お菓子にとって何より大切な“おいしさ”が、ファンをつかんで離さない原動力になっています。
SNS全盛の時代にマッチした取り組みに力を入れつつも、和菓子の老舗としての味作りも決しておろそかにしない。この両輪のバランスが高い次元で取れているからこそ、「元祖 鯱もなか」は奇跡の復活を果たし、そして愛されているのではないでしょうか。
名古屋を訪れる際にはぜひ、販売店や本店に足を運び、その魅力、おいしさにふれてみてください。
大竹 敏之プロフィール
愛知県常滑市出身。大学卒業後、名古屋の出版社に勤務し、その後フリーライターとして独立。雑誌や新聞、Webメディアなどに名古屋の情報を発信する。著書は『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)『名古屋の喫茶店 完全版』(リベラル社)など多数。(文:大竹 敏之(名古屋ガイド))
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