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草なぎ剛主演作の映画『碁盤斬り』が最高傑作になった7つの理由。『孤狼の血』白石和彌監督との好相性

オールアバウト / 2024年5月18日 19時40分

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映画『『碁盤斬り』が5月17日より劇場公開中。草なぎ剛主演作の最高傑作である7つの理由を解説していきましょう。(※画像出典:(C)2024「碁盤斬り」製作委員会)

2024年5月17日より『碁盤斬り』が劇場公開中です。本作は『孤狼の血』や『死刑にいたる病』の白石和彌監督が初めて時代劇のメガホンを取った作品。目玉は、草なぎ剛が主演を務めていることでしょう。

結論から申し上げれば、本作は白石監督および、草なぎ剛主演作の最高傑作といえるほどの完成度。しかも、予備知識がなくても楽しめる、万人におすすめできるエンターテインメントに仕上がっていました。その理由を、スタッフとキャストのコメントも交えつつ、解説していきましょう。

1:意外とほのぼのともしている作風

本作の物語は、公式の触れ込みによると「ある《冤罪(えんざい)事件》によって娘と引き裂かれた男が武士としての誇りを賭け《復讐》に向かい、囲碁を武器に鬼気迫る死闘を描く」というもの。

それだけだと壮絶な印象を持たれるでしょうが、実は意外な「親しみやすさ」がある、「ほのぼのとした人情劇」が序盤に展開することも、かなり推したいポイントです。
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
何しろ主人公は(度を越して)生真面目な人物。たしなんでいる囲碁にもその実直な人柄が表れていて、「うそ偽りない勝負」を心掛けています。

繊細かつ誠実な印象がある草なぎ剛とは、その時点でとても相性の良い主人公像だと思いますし、さらには國村隼と年の離れた「囲碁友達」のようになっていく様も、とても尊いのです。
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
本作の物語の元となった『柳田格之進』も、囲碁を巡る人情話として根強い人気のある落語なのだとか。ともかく、あらすじとはいい意味でギャップのある、序盤の「平和な時代劇」「囲碁が趣味のおじさん同士が友達になる過程」も楽しんでほしいです。

2:生真面目さと裏返しの恐ろしさ

そして、序盤の「ほのぼの人情時代劇(+囲碁もの)」があるからこそ、主人公が身に覚えのない罪を着せられてしまい、どんどん状況が悪くなっていく過程が、とても重くのしかかる物語にもなっています。

初めにその嫌疑を聞かされた主人公は、激しく声を荒げて激昂します。「何も疑いがかけられたからって、そこまで怒らなくても……」と引いてしまうほど、怖くなる反応でしたが、それまで草なぎ剛というその人らしい穏やかな印象があったからこそ、いい意味でショッキングに感じられるでしょう。
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
生真面目ということは、裏を返せば「融通が効かない」ということでもあるのでしょう。序盤に主人公が「囲碁だけでなくあらゆる事柄にうそ偽りがない」姿を見せていたからこそ、彼がぬれぎぬという“うそそのもの”を断固として拒絶する、「こうなる」ことにもまた納得ができます。

さらに、旧知の藩士から冤罪事件の真相を知らされた主人公は、復讐を決意。客観的にははっきりと間違っているのですが、それもまた彼が武士の誇りを重んじる生真面目な人物だからこそ、という迫力を感じさせますし、理解もできるのです。

3:多層的な感情を抱かせる理由

草なぎ剛は本作で主演をするにあたって、「いまだ嘗(かつ)て感じた事のない世界観で胸がとても熱くなりました。古き良き物に宿る色あせることない魂を演じてみたいです」とコメントしています。

いくら濡れ衣を着せられたからといって、復讐に向かうという決断は間違っているし止めたくなるのですが、そこには草なぎ剛の「古き良き物に宿る色あせることない魂」という言葉に近い、「武士の(極端な思想と表裏一体の)美学」も感じることができるでしょう。
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
草なぎ剛というその人の憂いを帯びた、繊細な印象を覆すような「激情」も、その「美学」に説得力を持たせています。善と悪の境界を超えるか超えないのか危うさもある、「間違いも含めて美しく思える」人物の妙を、すみずみまで堪能できるでしょう。

「間違っている」けど「理解もできる」し「危ういと分かっている」が「美しくも感じてしまう」。映画の中の1人の人物に、ここまで思わせてしまうことも、またとてつもないことだと思うのです。

4:収まりのつかないことになる物語

主人公の嫌疑を伝えることになる若者を演じた中川大志が寄せたコメントも、的確に物語の本質を言い当てています。

「些細なことなのに、大人になったからなのか、組織の中にいるからなのか、素直に言い出せない。そんなきっかけが気付けば飛躍して自分だけでは収まりのつかないことになってしまっている」
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
劇中の登場人物の考えそのものには、江戸時代の風潮や武士らしい極端な思想が大いに反映されています。しかし、この中川大志の言葉通り、何かの疑いが悪い方向と向かっていく物語は、現代でも十分に起こり得るものです。

それは、疑いをかけられた当事者ではない、中川大志が演じた役柄はもちろん、出来事の近くにいた者にとっても他人事ではありません。その時点で多くの人が共感でき、怖くもあり、そして「こうならないため」の教訓も得られる作品でもあるのです。

余談ですが、本作と同じく5月17日より公開されているドイツ映画『ありふれた教室』も、中学校での盗難事件が多発したことにより、疑いが悪い方向へと波及していく様をリアルにつづった作品でした。こちらも併せて見れば、より反面教師的な学びがあることでしょう。

5:美しさが極まった怒濤のクライマックス

全編が映画の豊かさに満ち満ちているのですが、特にラストバトルの壮絶さと面白さが、またとんでもないことになっています。

詳細は秘密にしておきますが、痛快な伏線回収と、「二段構え」以上の怒濤(どとう)の展開が積み重なるなど、映画という娯楽が極まった、酔いしれるような多幸感とカタルシスがありました。
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
重要になるのは、悪人を演じた斎藤工の迫力と魅力。その言動もまた極端かつ、はっきり草なぎ剛演じる主人公とは相いれないのですが、彼は彼でこの世界の「真理」や「不条理」を自分なりに理解している、重圧な人物に見えてくるのです。

その斎藤工は、「現場でお会いした剛さんは、草なぎ剛では無く、柳田格之進(主人公)そのもので、静かに鳥肌が立ちました。『碁盤斬り』は、白石和彌監督ならではの、エグみと深みを含んだ美しい時代劇になっていると思います。同時に、草なぎ剛さんの新たな表題作に参加出来た事を、心から光栄に思います」とコメント。

白石監督はこの言葉通り、「悪」も容赦なく描く残酷性、人物造形の深みにも定評のある作家であり、だからこそ今回のような危うさと表裏一体の美しさのある題材と抜群の相性を見せたといえます。そして、「鳥肌の立つような(斎藤工と)草なぎ剛との対峙」の凄まじさは、観客にもきっと伝わるでしょう。

さらには、全編にわたって感じていた画そのものの美しさも、クライマックスで極に達していました。特に夜の「闇」は、映画館でこそ、最大限に堪能できるできるでしょう。

6:脚本家の言葉が「その通り」になった

脚本を担当した加藤正人は、草なぎ剛と『日本沈没』(2006年)以来2度目の仕事となることについて、こう熱く語っています。

「草なぎさんは、(撮影所の)薄暗いセットの片隅で、1人熱心に台本を読み込んでいた。役に打ち込むストイックなたたずまいが神々しかった。今日まで、俳優として大きな賞を受賞し、めざましい活躍を続けているのも当然だ。その草なぎさんが柳田格之進を演じるということで、期待に胸が膨らんでいる。この脚本は私の代表作だ。必ずやいい作品になると信じている」

実際に出来上がった映画を見れば、この言葉は完全に「その通り」になっていました。かつての草なぎ剛の「役に打ち込むストイックなたたずまい」は、今回の「生真面目で融通が効かない様が危ういけれど美しくもある」主人公像にも重なっています。

複雑な人間の感情が絡み合った物語の完成度と面白さからすれば、同じく白石監督とタッグを組んだ香取慎吾主演作『凪待ち』にも通じている、脚本家の加藤正人にとっても本作が最高傑作だと断言できます。

7:今の時代に必要なものがある

そして、白石監督は「加藤さんが書いてくれた実直な浪人柳田格之進が選択する未来に、少しだけ今の時代に必要なものが見えた気がしました」とも語っています
(C)2024「碁盤斬り」製作委員会
これまで書いてきた通り、主人公は生真面目すぎて、疑いをかけられた結果として復讐に向かう、危ういどころか間違っていると思ってしまう行動をするのですが……その物語の帰着を思えば、白石監督の「選択する未来に、少しだけ今の時代に必要なものが見えた」、という言葉の意味も、きっと分かると思うのです。

そして、そうしたメッセージ性を抜きにしても、ほのぼの人情時代劇からの、胸に迫るヒューマンサスペンス、そしてクライマックスのアクションと、次々にジャンルが変わっていくようなエンタメ性を思えば、やはりただただ「面白い!」と感服するばかり。劇場公開中の注目の映画が大渋滞を起こしていますが、ぜひ最優先で見てください。

※草なぎ剛の「なぎ」は、弓へんに前+刀が正式表記

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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