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実務を知らなくても価値はある!?いまアパレル企業改革にコンサルタントが必要になった理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2022年9月19日 20時55分

metamorworks/istock

経営コンサルタント会社の好調具合がバブルの様相を呈しているという。学生人気ランキングの上位には外資コンサルの名前が連なり、また大手では1万人単位の人間がいても、一人もアベイラブル(コンサル用語で、稼働していない人員)はなく、どこも「これ以上、仕事は受けられない」状況のようだ。また、経営コンサルタントなど絶対に活用しなかったアパレル業界でも、ファーストリテイリングを筆頭に堂々とコンサル会社との協業を発表し、コンサル活用が広がっているという報道もなされた。アパレル業界から「コンサルアレルギー」は消えていったようだ。かくいう私も、自著2作目となる『生き残るアパレル死ぬアパレル』で、コンサル不要論を展開した人間として状況が変わってきたことを感じており、「不要論」はあやまりだったと告白したい。今日は、私が分析した「コンサル活用論」と、その理由について述べたい。

metamorworks/istock
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世の中の変化に取り残されているアパレル企業

 私が『生き残るアパレル死ぬアパレル』で、「コンサル不要論」を述べたのは3年前、新型コロナウイルスが日本列島を襲う前のことだった。私は、業務の実態を知らない新卒を大量に雇い、単なるレポートを置いて「後はよろしく頼む」といって立ち去るコンサルタントを批判してきた。
 しかし、三冊目『知らなきゃいけないアパレルの話』(ダイヤモンド社)を98日に発刊してまもなく、金融機関から勉強会の依頼をいくつかいただき、また、TVでのコメントや執筆の依頼も来て、その反響に驚いている。本書では、私のアパレル本の最後の書籍と覚悟し、アパレル業界の実態の裏まで私が見聞きしたことを赤裸々に語り、同時に、私自身の置かれている立場も隠すことなく書き記した。

  今、世の中は恐ろしいほどのスピードで変化している。特に、コンサルタントに相談が来る話は、ほとんどがデジタルについてだ。
 デジタル技術の進化は日進月歩で、例えばPLMでさえ、再三私が指摘している「シーイン」の取り組みの前では古ぼけて見えるほどだ。世界では、日本のそれとは違う「D2C」により、サプライチェーンという概念さえ消滅し、ビッグデータから工場直販で世界中に商品をばらまいている企業が2兆円を突破するほど成長しているのだ。しかし、産業界はこうしたニューカマーが出現した衝撃の本質的意味を理解していないようだ。いわく「その話は聞いた、新しい話はないか」と他人事になっている。

 また、これからの競争優位は顧客のデータの質と量、さらに、その解析技術であるということを説明しても、全く耳を貸さない企業もあった。AIに関しても、未だに需要予測以上の発想を持たず、あちこちでAI万能論がはびこっている。しかし、論理的に考えてもらいたい。
 需要予測が使えないのは、(日本政府のバラマキ行政によるゾンビ企業の量産から発生する) 毎年需要の倍(=200%)の供給過多という信じられないような不良在庫増産のメカニズムによるゴミと地球資源の無駄遣い、そしてその供給過多による潰し合いが原因だからだ。こんな統計はあちこちにでているし、最近では、有識者やコンサルがみな言いだした。
 当たり前だが、人が必要としている2倍の量の商品が毎年製造されている状態で、需要予測がそもそも的外れだ。こんなことは大学生でも分かることなのだが、日本の政策を決めているキーパーソンさえ、いまだに「AI=需要予測が10%プロパー消化率を改善した」など言っている。

  ビッグデータの分析活用や、KPIを商品ベースから顧客ベースのものへの変更―― このようにバリューチェーン全体のデジタル化の論が立った今だからこそ、AIが活躍する場がようやく出てきたのだが、それさえ分かっていない。

  まずは日本全体の供給量を50%以下に減らすこと、または、論理的に考えれば、成長著しいアジアに出る手助けをすることこそ産業政策の根幹だと私は思う。だが、驚くことに「自然由来の素材を開発したから大丈夫」など、年18億枚の過剰供給を肯定し、「サステナファッションだ」などと呼び、供給過剰を前提にSDGs対応だと考えている人も多い。

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たとえ業務を知らないコンサルでさえ、有用な理由とは

tumsasedgars/istock
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さて、私は業務を知らない「コンサル」などに、何ができるのかと述べてきたが、私が間違っていたことを告白したい。ポイントは「論理思考」と「批判思考」である。私たち外資コンサルファームで鍛えられた人間は、「論理力」と「批判力」が段違いに高次元にある。

 論理思考は、すべての考え方の根底にあるもので、世界のどこでも通用する共通語だ。論理思考がなければ、会議はおなじことを幾度も繰り返し、論点は絞られず、「足し算」で課題が2030もでてまとまりがつかないか、「この問題解決には時間がかかるから次回にしよう」と、課題解決を先送りにする。こんなことは、コンサルティングファームの会議ではあり得ない。
 例えば、日本に2万社もあって18億枚も余剰在庫を量産している実態を分析すれば、MDにおける衣料品費率を下げ、別領域に出るか、市場を国内偏重から海外に移すかの二択しかなく、次は、それぞれを実施するための調査や分析を行うなど、必ず合理的にものごとを進めて行く。また、需要が供給量を上回っている時は「商品供給を中心としたビジネス」に、逆に供給量が需要を上回っているときは「顧客囲い込みを中心としたビジネス」に、事業を組み立てるなども経営学の基本だ。論理的に考えればすぐ分かる。しかし、多くのアパレル企業は、「我々は日本で戦う」「シーインはすごいね」と聞き流し、KPIは、未だに商品消化率、商品粗利、商品回転率など、「商品」を軸にし、「顧客」ベースのKPIは「あれば、通販のものだ」と今でも思っている。

  批判思考とは、英語で「クリティカルシンキング」と言われ、ものごとを根本的に捉えるための最も重要な思考だ。常識に対し、「本当にそうなのか」「なぜそうなのか」と徹底的にチャレンジするものだ。
 しかし、クリティカルシンキングで話をすると、「前にいったことと違う」「アパレルというものを分かっていない」と反論し、仕事の仕方もバブル時代のまま変えようとしない。ひどい例になると、会議で上司がペラペラしゃべるだけで若者は自分の意見を一言もしゃべらず、居酒屋で会社や上司の悪口を言うわけだ。

  コンサル会社では「無言はノーバリュー」といって、その会議で意味のある発言ができないなら、どんなに若者でも、そもそも会議に出るなと追い出されるほど厳しい。そうした中から、「極論だ」「業務を知らない」とコンサル批判を言われるが、例えば、私に限らず、コンサルの「極論」の中には、実際に、その通りになったことが多い。そうなると今度は、「後出しじゃんけんだ」と批判し、自分たちの「常識」を守ろうとし、妬みなのか恨みなのか、匿名批判を投稿する。

アパレル産業でコンサル活用が増えてきた特有の事情

Pattanaphong Khuankaew/istock
Pattanaphong Khuankaew/istock

 ある業界専門誌に、アパレル業界にコンサル活用が広がってきた、という記事がでていた。今、1000億円規模、あるいはキャッシュリッチな会社に行くと、すでに大手のコンサル会社が入っており、驚くことが多い。一昔前なら、アパレル産業でコンサル会社を使う事例などあり得なかった。しかし、今、状況をしっかり分析し論理的に考えれば、コンサルを活用するメリットは計り知れないはずだ。特に、ひと昔はアメリカでちょっと知ったことを、「日本で4年後に来る技術だ」と言っていれば良かったが、今は、そのアメリカで旧態依然としたアパレルが次々と破綻している。

  そして、その次は、「この投資は、ユニクロがやっているから正しい」が、意思決定の殺し文句だったが、そうした投資も次々と失敗してきた。勝ち組の真似をしても消費者は本物にゆくだけだし、そもそもコンビニをベンチマークしているファーストリテイリングとファッション企業ではビジネスモデルが根本的に違う。某アパレル企業の役員の言葉を借りれば、「万策尽きた今、アパレル業界は、アメリカもユニクロも先生たりえない、一体どこを観れば良いのかと隣が気になって仕方ない」状態になっているという。

  しかし、ファーストリテイリング以外のほとんどの会社は等しく苦戦を強いられている中、横を見ても答えなどあるはずがない。そこで大事になるのが自動車業界やパソコン業界などの他業界のKFS(成功の秘訣)を抽象化するアナロジーシンキングや、点と点を繋ぎ前提条件のもとに全体幹を作り上げるフェルミ推定などを駆使し、正しい問題解決のステップで方向性を出すコンサルタントの価値は高い。

  また、決して競争相手の守秘に関わることは言わないプロフェッショナルであるが、初期仮説(コンサルタントは最初に答えに近しいと思うことを出し、調査や分析を通して立証する独特の思考)に、今までの経験や実績が影響を与えていないといえば嘘になる。特に、「先生」がいない今、デジタル領域やマーケティング領域、あるいは、今後、ビジネスが世界化することが予想される今、世界の常識を分析している外資コンサルの利用価値は高いというのが、本日私が言いたいことだ。コンサルの高額なフィーをいまだに「人件費」だと思っている企業がいるが、コンサルファームとクライアントの契約はBtoBであるし、人材開発や営業など、ファームは一般に知られていないほどの投資を行っている。よく考えてもらいたい。例えば、私が行った再建の仕事では、毎年50-100億円近い赤字が続いていた。例え、コンサルに10億円を払っても、その赤字が止まったことを考えれば、ROIは成立する。実は、腕の立つコンサルのROIは高いのだ。

  なお、本論で私が述べている「コンサルタント」とは、グローバルにオフィスを展開するグローバルファームのことを言っており、昔の会社での経験を語る「グレイヘアコンサル」のことではない。念のため、私は「グレイヘアコンサル」を批判してはいない。昔の経験のほうが、論理的に時間をかけて精度にこだわる解を導き出すコンサルファームより即効性があるのは、肩こりを治すという例でいえば、リラクゼーションマッサージのようなものだ。本来は姿勢や過労などを直すべきだが、毎週のようにリラクゼーションに通えばそのコリも一時的に和らぐのと同じだ。しかし、大きなビジネスモデルの変革に、さらにデジタルやM&Aなどが複合的に絡む今の課題には、グローバルファームの存在感はますます増すだろうと思う。ここは理解してもらいたい。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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