「教わったことをすぐ覚えちゃうのがすごいネ」師匠の元関脇高見山が驚いた曙の本当の強さ
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年4月25日 9時26分
貴乃花(右)とは通算21勝21敗で互角だった(C)共同通信社
【親方と力士のホンネ「蘇る角言」】#49
元横綱の曙太郎さんが亡くなった。身長2メートル、体重200キロを超す巨体と突き押し、のど輪の破壊力はずっと語り継がれるだろう。
だが、それだけで序ノ口から18場所連続勝ち越しの歴代1位記録や、同期の「若貴」より早い大関、横綱昇進は成し得なかった。
1990年秋場所、ともに新入幕で対戦した若花田(のち若乃花)に頭をつけられても、左上手を引き付け、足を飛ばしたり上手投げを打ったりして先に攻め、最後は差し手を抜いて寄り倒した。
初優勝した92年夏場所の貴花田(のち貴乃花)戦も、左前まわしをつかまれながら、おっつけて右を差し、腕を返して寄り倒した。組んだら相撲にならないようでは綱を張れない。横綱昇進後、白星の決まり手は寄り切りが最も多かった。
若手の群雄割拠が始まり、まだ四つ相撲が多かった時代に稽古でもまれ、みるみる四つ相撲を身につける曙に、師匠の東関親方(元関脇高見山)が目を細めた。
「曙は教わったことをすぐに覚えちゃうのがすごいネ」
同じことを白鵬(現宮城野親方)についても聞いた。
入門後まもない白鵬に部屋の関取、光法が稽古をつけていて師匠の先代宮城野親方(元幕内竹葉山)に「親方、この子は強くなりますよ。教えたことがすぐできる」と言ったという。「その他大勢」だった少年が、22歳で横綱になった。
2人とも相撲経験のない「たたき上げ」だった。曙は生前、「なまじ相撲をかじっていないから、何を教わっても当たり前のように聞けて、のみ込みが早かったと思う」と述懐したが、「たたき上げ」がみんなそうではない。相撲に限らず、言われたことをすぐできるのは早熟の王者に共通の希少な資質だ。眼力のある師匠でも入門させてみないと分からない。確率の問題ともいえる。
分母(入門者)が減り続け、アマチュア相撲経験者があふれる今日、新入幕力士の快進撃が続き、春場所ではまだちょんまげの尊富士が優勝したが、同じスピード出世でも曙や白鵬とは印象が違う。「寝て起きるたびに強くなる」と言われるような青年横綱は、もう生まれないのだろうか。(若林哲治)
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