ワタシ、あの頃を忘れたくないの…亡き夫は上場企業重役。貯金8,000万円の72歳“元セレブ妻”→たった3年で「老後破産」危機のワケ【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月17日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
収入が減ったら、そのぶん支出を減らす……当たり前のように感じますが、生活水準を下げることは決して簡単ではありません。上場企業の重役であった夫を亡くした“元セレブ妻”Aさんの事例をもとに、資産に余裕があっても起こり得る「老後破産」の恐ろしさと、その対応策をみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
「夫の死」を受け入れられない72歳の元セレブ妻
現在72歳のAさんは、3年前に最愛の夫Bさんを亡くしました。いまはBさんが遺してくれた都内一等地の低層マンションにひとり生活しています。Aさんには2人の子どもがおり、40歳の長男Cさんは妻と子と近所に、42歳の長女Dさんは夫の海外赴任先に同行しています。
Aさんよりひとつ年上であったBさんは、上場企業の重役まで勤めあげたエリートでした。Bさんは国外への出張が多く、また夫人同伴の機会もあったため、公私ともに夫婦で海外に出かけることや、外国の賓客を迎えるなどしていたそうです。
さらに、Bさんがある百貨店の法人外商部など渉外も担当していた縁から、その百貨店の個人の外商顧客として高級な和洋服や宝飾品を購入するなど、まさにセレブといえる生活を謳歌していました。
しかし、悲劇は突然訪れます。3年前、70歳になったBさんは取締役を辞任。これまでのプレッシャーから解放されたその数ヵ月後、脳梗塞で帰らぬ人となったのです。
夫の死後も生活を変えないAさん…子どもは心配するが
Bさんの退職金や死亡保険金などにより、葬儀や相続税の支払いなど諸々が済んだ段階で、Aさんの口座には8,000万円ほど残っていました。Aさんはこれまで金銭的な苦労をしたことがなく、節約・節制とは無縁の人生。夫が亡くなった後も相変わらず派手にお金を使う生活を続けていました。
そんなAさんに対し、長男のCさんは何度か注意をしていたそうです。そのたび、Aさんは「わかっているわ……これが最後の買い物だから」と言いますが、しばらくするとまた外商がAさんの自宅を訪れます。
みかねたCさんが「もう父さんはいないんだから、身の丈にあった生活をしないと! このままじゃ破産してしまうよ」と真剣に諭したところ、Aさんは「ワタシ、お父さんが生きていたあの頃を忘れたくないの……だからお願い、好きにさせて」と涙ながらにCさんに訴えました。
Cさんは、この現状を姉や母方の伯父、叔母に相談。すると、異口同音に「お母さんは寂しいんだよ。Cは近所に住んでいるんだし、しっかり見守ってあげて」と言われたそうです。そのため、またしばらくは静観することにしました。
なにかおかしいぞ…Cさんが感じた「母親の異変」
しかし、Cさんが実家に行くたびに増える新たな品々。なにを買ったのか聞いても「さぁ、なんだったかしら」とよく覚えていない様子です。さらに、以前はおしゃべりだった母が、最近はよくボーッとテレビをみています。
なにかおかしいぞ……母親の様子が心配になったCさんは、Aさんのかかりつけ医に診てもらったうえで、念のためにと大学病院で認知症の検査を受けさせました。
結果は「年相応の症状は出ているものの、認知症にまでは至ってない。また心身ともに治療や介護の必要はなく、介護認定を受けてもおそらく非該当だろう」ということでした。ただ、Cさんは医師から「心配であれば自治体が設置している『地域包括支援センター』に介護予防の相談に行ってはどうか」と助言を受けたそうです。
Cさんはひとまず安心したものの、長男としてどうすべきかを悩んだ末、親族以外の冷静な視点からアドバイスがほしいと、父Bさんの知り合いであった筆者に連絡をくれたのでした。
おいおいウソだろ…Cさんが驚愕したAさんの資産状況
電話で事情を聴いた筆者は、後日Aさんの自宅へ伺うことに。AさんとCさんと、Aさんの“第2の人生”について話し合いました。
このまま生活水準を下げられない場合、80歳までに「破産」の危機
Aさんはいわゆるどんぶり勘定で、家計の収支を把握していませんでした。そこでCさんは、Aさんの承諾を得て、Aさんの財布や引出しに残っていたレシート、BさんからAさんに名義を変えた銀行の通帳から、毎月の支出額を調べたそうです。
すると、百貨店での買い物やホテルや料亭などでの外食、テレビショッピングなど、毎月かなりの額を使い込んでいることがわかりました。具体的には、Bさんが亡くなってから現在までの3年間で毎月50万円以上、多い月には100万円以上も使っていたのでした。
しかし、現在Aさんの年金は172万円※、月額にして約14万3,000円です。
※内訳……自身の老齢基礎年金(71万円)+老齢厚生年金(13万円)+遺族老齢年金(88万円)
約8,000万円あった口座残高も、ここ3年で2,000万円ほど減っています。現在の生活を続けていくと、決して大げさではなく、80歳を待たずに家計が破産してしまう計算です。
母親の思わぬ“破産危機”を知ったCさんは「おいおいウソだろ……母さん、どうしちゃったんだよ」と、にわかには信じられない様子でした。
破産回避のため…Aさんは月にいくらまでなら使える?
では、Aさんの家計を改善するためには、毎月いくらで生活をすればいいのでしょうか。
たとえば、単身無職の平均77.0歳女性の、税金や社会保険料を除いた、毎月の平均消費支出額は14万8,028円※で、Aさんの現在の年金受給額とほぼ同じです。 ※総務省「家計調査(家計収支編)男女,年齢階級別1世帯当たり1ヵ月間の収入と支出(単身世帯)」より
平均消費出額の住居費1万2,849円と光熱水道費1万4,417円は、Aさんもほぼ同額でした。しかし、食料費の3万9,362円や被服及び履物の4,054円は、Aさんは10倍以上の月もあり、この支出がずば抜けて高くなっています。
従って、生活水準を急激に下げていきなり年金だけで生活することは難しいでしょう。しかし、食費や外食、被服及び履物の購入費を抑えて、毎月30万円以下の生活を送ることができれば、100歳を過ぎても貯金は十分に残る計算です。
贈与税を払わずに「生前贈与」する方法
またAさんは、自身の預金について「手元に大金があるとまた知らず知らずに使ってしまいそうで怖いので、子どもたちにお金をあげる良い方法はないでしょうか」と筆者に尋ねました。
そこで筆者は、現在Aさんが所有している銀行預貯金のうち4,000万円を、現金で2,000万円ずつ、相続時精算課税制度※を使って生前贈与をする提案をしました。
※贈与者(Aさん)から受贈者(CさんとDさん)に2,500万円までは、贈与税を納めずに生前贈与ができ、贈与者が亡くなった時、その贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度。
その資金はこれから大学受験を控えた孫の受験や学費などに使えて、子どもたちの家計の助けになります。
Aさんは「住宅型有料老人ホーム」への入居を検討
さらに、Aさんは今回のことで将来についていろいろと考えたようで、「実は最近、この部屋がいくらで売れるか不動産業者に調べてもらったら、1億円以上で売れると言われたの。だから売ったお金で老人ホームに入ろうかと思っていて」と話しはじめました。
Aさん「夫との思い出が詰まったこの部屋を売るのは悲しいけれど、ひとりで暮らすには広すぎるし、認知症や介護の状態になって子どもに迷惑をかけたくないの。それにいまは、マンションのような老人ホームもあるのよ」
Aさんはすでに2,3ヵ所の施設を下見したそうです。その結果、気に入った施設の入居一時金が800万円から1,000万円ほど、月額の利用費が食事代込みで27万円前後ということでした。この費用感であれば、子どもたちに4,000万円を生前贈与してもAさんの破産の心配はありません。
CFPの筆者からの助言
筆者は、売却もひとつの方法ですが、マンションは売却せずに貸し出して、その家賃を有料老人ホームの費用にする提案もしました。
また、Cさん家族がAさんのマンションに引っ越す案も出ましたが、住居のことは急いては事を仕損じると、Cさんの子どもが大学に入学するまでは、Aさんはこのマンションに住み、Cさん家族がAさんを見守ることになりました。
財布のひもは息子に任せて“第2の人生”へ
後日、Aさんが筆者の事務所に来訪。近況を話してくれました。筆者が提案した子どもたちへの生前贈与のほか、子どもたちと話し合いCさんが「代理人(キャッシュ)カード」作成し、Aさんの口座を管理してくれることになったそうです。
Aさんは「いま思えば、夫を急に亡くした寂しさを散財でごまかしていたんだと思います。今回の相談で自分を客観的にみることができたことは大きかったです。まだ完全に吹っ切れたわけではありませんが、少しずつ身の丈に合った楽しみを見つけていきます」と話してくれました。
心配していたお金の管理は息子に任せて、Aさんはこれから幸せな“第2の人生”を送っていくことでしょう。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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