赤狩りと恐怖の均衡について(下)「核のない世界」を諦めない その5
Japan In-depth / 2024年5月1日 11時0分
表向き「キューバ防衛のため」だとされていたが、実際には当時、核戦力のバランスは米国側に大きく傾いており、この状況を覆そうとした、というのが真相であろうと考える人が前々から多い。
なによりも、米国が西欧やトルコに配備したミサイルは、短時間のうちにソ連邦の主要都市に到達する。これと同じ状況を作り出すためには、キューバにミサイルを配備するのが最善策であろう。
話を戻して、キューバに核ミサイルが配備されたことを知ったケネディは、ただちに海上封鎖を実施し、米ソ両国は全面核戦争の一歩手前まで行った、とされている。されている、と述べたのは、どこまで本気で戦争を想定していたか「諸説」ありなのだが、まあ、人の心の中までは分からないので、結論は出ないであろう。
最終的には、ケネディとフルシチョフは戦争回避で一致し、米国がトルコ、ソ連邦がキューバから、それぞれ核ミサイルを撤去することを、それぞれラジオ放送を通じて公表した。10月28日のことである。この日をもってキューバ危機は収束した。
お分かりだろうか。
キューバ危機において「恐怖の均衡」は最初から存在せず、むしろ「不均衡」が危機の引き金になったことは明らかである。
危機が収束された理由も然りで、当時の米ソ両国の首脳が怖れたのは、相手方の核戦力よりもむしろ「誤算の結果として核戦争が引き起こされる事態」であった。このことは、危機収束後、ホワイトハウスとクレムリン宮殿との間に直通電話(世に言うホットライン)が設置され、両国の首脳が直接話し合うことが可能になったという事実によって証明されるであろう。
核戦争に対する抑止力とは「恐怖の均衡」ではなく、ひとえに政治指導者たちの理性である。これを常識として皆が共有するようになってこそ、核廃絶への道が開けてゆくものであると、私は考える。
トップ写真:テレビ演説で国民に向けキューバの戦略的封鎖と、ミサイル制裁についてのソ連への警告について語るジョン・F・ケネディ米大統領(1962年10月24日 アメリカ・ワシントンDC)出典:Photo by Getty Images
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