社説:年金改革 持続へ長期展望も示せ
京都新聞 / 2024年5月15日 16時5分
「老後生活の柱」となる公的年金をどう維持するのか。厳しい情報や想定も示し、国民的な議論を深めてもらいたい。
来年の年金制度改革に向け、厚生労働省の社会保障審議会で議論が本格化している。今夏には5年に1度、年金財政を点検する「財政検証」が公表される。
日本の年金構造は現役世代が保険料を払い、高齢者の年金に充てる「仕送り方式」である。少子高齢化の加速で、いっそう負担者が減って受給者が増えるのは避けられない。2004年の大規模改革で「年金は100年安心」をうたったが、約束した給付水準(現役収入の50%)の維持は厳しい。
最大の焦点は、1階部分にあたる国民(基礎)年金の給付低下をいかに食い止めるかだろう。このままでは20年後に給付水準が3割近く目減りするとみられる。自営業者が多かった国民年金は、今やパートや無職の人が6割を占める。2階にあたる厚生年金に加入していない人も多く、貧困や生活保護の増加が指摘される。
政府は対策の柱に、40年の納付期間(20~59歳)を64歳まで5年間延ばす案を挙げる。現在の保険料で負担総額は約100万円増えるが、給付低下は緩和される。
65歳までの雇用延長が進んだとはいえ、60歳で定年を迎えた後は非正規雇用になるなど、給与が大きく減る例が多い。月約1万7千円の新たな負担に耐えうるのか。丁寧な議論が欠かせない。
国民年金の財源は保険料と公費で折半する。保険料負担を5年延長すれば、追加の国庫負担は40年度に6千億円、60年度には1.3兆円と試算される。政府は少子化対策や防衛費増に向け、社会保障費の削減を打ち出しており、どう整合性をとるのかも問われよう。
比較的安定した厚生年金の財源を国民年金に「流用」し、全体の水準を底上げする案も検討されるが、会社員の中には給付減になるケースもあるようだ。2階建て制度の根幹に関わるだけに、広く理解を得られるだろうか。
16年から順次進む厚生年金の対象拡大では、さらなる企業規模要件の見直しも議論されている。
いずれも国民や企業に一定の痛みが伴う上、短期、中期の対策にとどまる。若者の6割が老後に経済不安を感じ、75%が年金について「維持困難」や「破綻」を想定しているとの民間調査もある。
04年改革が行き詰まった原因を検証し、複数の選択肢とともに長期展望を示すべき時ではないか。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
公的年金は「100年安心」からどんどんかけ離れていく…政府がNISAで「貯蓄から投資へ」を後押しする残念な理由
プレジデントオンライン / 2024年5月28日 17時15分
-
社会保障拡充に協力的な財界と反発する労働組合 子育て支援金をめぐる日本の摩訶不思議な現象
東洋経済オンライン / 2024年5月20日 8時0分
-
65歳まで年金を払い続けるのはキツイ…実は国民にメリットだらけの「納付5年延長」が実現しない背景
プレジデントオンライン / 2024年5月19日 8時15分
-
【厚生労働省】次の消費増税のトリガーに 年金制度の大改革が目白押し
財界オンライン / 2024年5月15日 18時0分
-
これはパート主婦の兵糧攻めだ…働かない主婦の"3号年金"温存のまま「年収の壁70万円へ引き下げ」案の奇っ怪
プレジデントオンライン / 2024年5月13日 11時15分
ランキング
-
1【速報】今月開始の定額減税「評価しない」が60% 6月JNN世論調査
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年6月2日 22時57分
-
2「検証してもらわないと無駄死に」新型コロナワクチン接種後に夫が難病を発症し死亡 集団訴訟へ参加を目指す妻【大石が聞く】
CBCテレビ / 2024年6月2日 6時2分
-
3東京・港区長選、前区議の清家愛氏が自公推薦の現職ら破り初当選…自民は目黒区長選に続き敗北
読売新聞 / 2024年6月3日 0時35分
-
4「サンドバッグのように扱われた末に人生を終えた」検察が糾弾 遺体に20か所以上の骨折 隣人暴行死の罪に問われた男が記者に語った言葉「愛着に似たような気持ち」「誰かと一緒にいたかった」6月5日判決【後編】
MBSニュース / 2024年6月2日 15時6分
-
5奥能登4市町「エコノミークラス症候群」検診で被災者の8・8%に血栓、一般を大幅に上回る
読売新聞 / 2024年6月2日 20時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください