AIは欧米諸国の「知能劣化」を加速させるのか E・トッド「民主主義」の終わりとその先の希望
東洋経済オンライン / 2024年4月27日 21時0分
「世界最高の知性」の一人と言われるエマニュエル・トッド氏。「ソ連崩壊」から「金融危機」まで数々の歴史的出来事を予言してきた彼は、近年、急激な発展を見せている生成AIとどのように向き合っているのか。技術という暴走列車に乗り込んだ私たち人類はいったいどこへ向かっているのか。『人類の終着点 戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)に収録されたトッド氏の新たな予言を公開する。
人工知能によってもたらされた「知性の劣化」
――テクノロジーの話題に移りたいと思います。2020年代、世界で最も大きな変化の一つは「人工知能の進歩」でした。2022年のChatGPTに代表されるようなAIの登場は世界中に急速に広まり、インターネット上に蓄積された膨大な英知を活用して、私たちに瞬時にアイデアや解決策を提供してくれるようになりました。あなたはそれを試してみたことがありますか。また、どう感じましたか。
エマニュエル・トッド:私も試しました。これについて、私は、フランスの新聞『マリアンヌ』にも記事を書きました。そのときの質問に返ってきた答えはとても面白いものでした。
質問は、このように始めました。「エマニュエル・トッドは、本当に親ロシア派なのか?」と。フランスでは、私は「親ロシア派だ」と非難されているからです。
ChatGPTから返ってきたのは、とても良い、至極普通の答えでした。「〝そうだ〞と言う人もいます。しかし、彼は独立した知識人であり、彼の意見は個人的なものです。まずはクレムリンにまったく依存していないと証明する必要がある」と。良い答えだと思いました。そして、私の身に覚えがない発言もいくつか付け加えてきました。つまり、真実ではない要素も含まれていました。
それから、私の研究分野である家族システムなどについても質問しました。そしてそのときに、ChatGPTでどのようなものが得られるか、について正確に理解できました。
私は「ChatGPTは非常に一般的で、かなりしっかりした答えが得られる」と最初の印象を抱きました。そして次に気づいたのは、得られた答えが基本的にウィキペディアにあるような平均的なものであるということです。
その答えはウィキペディアにあるバイアスをもすべて再現します。家族制度研究の分野で見られる標準的な間違いも完全に無批判に再現しました。つまり、基本的かつ平均的知識は得ることはできますが、その知識は非常に不完全です。これに加えて、イデオロギー的な先行事項――英米の世界でジェンダーや性別などについて見られるような特定の事柄――が加わります。たしかに得られる答えは、技術的な観点から見ると、感動的なものかもしれません。
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