東海道新幹線「個室」導入で考える「ハイグレードサービス」 国鉄時代の新幹線には「グリーン個室」も
J-CASTニュース / 2024年4月30日 12時10分
東海道新幹線は、完全個室タイプの座席を順次導入
JR東海は2024年4月17日、東海道新幹線に使用されるN700S車両の一部に、完全個室タイプの座席を順次導入すると発表した。高いプライベート感、セキュリティー環境を備え、個室専用Wi-Fi、レッグレストつきリクライニングシート、個別調整可能な照明・空調・放送などの設備を整備する。主たるターゲットは、オンラインなどでの打ち合わせを気兼ねなく行いたいビジネスパーソンや、プライバシーを重視する利用者、ゆっくりくつろぎたい人だ。1編成につき2室導入する予定である。
なぜ、このような個室を導入するのか。JR東海は、新幹線の新たな座席のあり方の検討を進めており、ビジネス環境を一層高めた座席や、移動時間を一層快適に過ごせるようなグリーン車の上級座席を検討してきた。そんな中から、グリーン車よりも上質な設備・サービスを備えた個室を導入することを決定した。
新聞報道によると、車内販売の準備室や喫煙ルームのスペースを利用する予定だという。
普通車とグリーン車、寝台車ならB寝台車とA寝台車というのが、いま鉄道で供給されているサービスの大半である。しかし、さまざまな上級サービスが鉄道では試みられてきて、いまもそれは続いている。どんなものが現在あり、過去にあったのだろうか。
JR東日本が熱心な「上級座席」
JR東日本は、一般のグリーン車より上等なサービスを提供することに力を入れている。東北新幹線・北海道新幹線・北陸新幹線・上越新幹線では、「グランクラス」を提供している。主要な列車では、飲食のサービスがある。
グリーン車では座席は2列+2列の配置となっているが、「グランクラス」では2列+1列の配置となっており、ゆったりと座れる。飲食の有無による価格差が大きくないのか、それとも高価ゆえになかなか乗る人が少ないのかわからないが、最近では飲食のサービス水準が以前に比べて低下している状態だ。
いっそ値上げしてリッチな飲食をとは思うものの、そうはできない事情もあるのだろう。
在来線でもこうした試みに取り組んでいる。東京都内と伊豆急下田を結ぶ「サフィール踊り子」は、最低レベルの座席でもグリーン車となっている。「プレミアムグリーン車」という1列+1列の座席や、グリーン個室もあり、またカフェテリアも備えられている。なお、この列車では最低ランクのグリーン車も、2列+1列となっており、一般の特急「踊り子」よりはぜいたくなものとなっている。
過去にもJR東日本は、上級サービスを意識して提供してきた。
豪華寝台列車「北斗星」「カシオペア」
1988年3月の青函トンネル開業に合わせて、JR東日本とJR北海道は、「北斗星」を上野~札幌間で運行するようになった。個室寝台も多く、A個室「ロイヤル」にはトイレやシャワーが設けられ、「あさかぜ」などの九州方面ブルートレインにあるA寝台個室よりもランクが高いものとして設定された。B寝台の個室も多く備えられた列車だった。
またJR西日本も北海道方面の特急運行を手掛け、「トワイライトエクスプレス」を1989年7月から運行を開始した。トイレ・シャワーつき2人用個室「スイート」は非常に人気が高かった。
さらにJR東日本は「北斗星」と同区間で「カシオペア」を運行、全車A寝台ツイン以上という編成になった。「ツイン」と「デラックス」「スイート」があり、「スイート」が最上級だった。
こういった車両は、現在のクルーズトレインの原型なのかもしれない。
それ以前にも、ぜいたくな車両の試みはあった。しかも、新幹線で、だ。
東海道・山陽新幹線に食堂車と個室があった
いまとなっては信じられないが、東海道・山陽新幹線には食堂車があり、個室もあった。国鉄時代に開発された100系新幹線では、2階建て車両が導入された。1階を調理室、2階を食堂とした食堂車はよく知られているが、初期の編成にはグリーン個室が導入されていた。1人用が4室、3人用が6室だった。のちの編成では2階建て食堂車が1階カフェテリア、2階グリーン車になったり、個室のレイアウトが変更されたりした。
「のぞみ」設定の際にこのような豪華さを捨てた300系が導入され、現在の東海道・山陽新幹線における速達性重視の方向性が決まっていく。
そんな状況で今回、東海道新幹線に「個室」が導入されると決まる。JR東海はデラックスなサービスに力を入れなくなり、このまま新幹線は速達性重視のままなのかと多くの人が考えていたため、この「個室」に驚いた人は多いはずだ。
ただ、東海道新幹線は全車16両編成で統一され、グリーン車も3両連結されている。ビジネスパーソンの利用は多く、大企業の経営陣などが乗っていることも多い路線だ。
こういった路線にこそ、ハイグレードサービスは本来必要なはずだ。グリーン車3両のうち1両を「グランクラス」のような車両にしてもいい。実際、JR東海はさまざまな検討をしていることがうかがえる。
ただ、それなりに利用者がいるということで、1編成2室の「個室」しか設けられない、となる。
東海道新幹線にはどんなハイグレードサービスがあったらいいのか、ということをみなさまにも考えていただきたい。とくに過去の100系個室などの例は参考になるだろう。(小林拓矢)
筆者プロフィール
こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。
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