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焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「ニヒリズム」

ロイター / 2024年4月29日 8時2分

 4月23日、 エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(米国名はレケンビ)が米国で正式承認されて9カ月が経過したが、同薬の普及は予想外のハードルに直面している。写真は2023年10月、ミズーリ州セントルイスのメディカルセンターでレカネマブの治療を受けるリン・カステラノさん。提供写真(2024年 ロイター)

Julie Steenhuysen

[シカゴ 23日 ロイター] - エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」(米国名はレケンビ)が米国で正式承認されて9カ月が経過したが、同薬の普及は予想外のハードルに直面している。「認知症の治療は無意味だ」という一部医師の強固な思い込みだ。

アルツハイマー専門家の間では、レカネマブ治療に伴うさまざまな要件が普及のネックになると予想されていた。追加的な診断テスト、月2回の点滴、致死的な副作用を防ぐための定期的な脳ドックなどだ。

米国内19州の農村部、都市部、大学、地域診療所の神経科医と老年科医20人へのインタビューによると、実際にこれらの問題は、レカネマブの採用が遅れる一因になっている。

しかし、アルツハイマー病患者を治療している7人の医師は、自身がレカネマブの処方に消極的なのは、薬の有効性、コスト、リスクに懸念があるからだと述べた。

オハイオ州立大学の神経科医で、レカネマブを声高に批判してきたジェームス・バーク氏は「良いアルツハイマー病治療薬だとは思わない。そこが問題だ」と話す。「われわれが求めているホームランには程遠い」と話す。

いずれもこの分野のリーダーである他の6人は「治療ニヒリズム」、つまりアルツハイマーは絶望的な難治性疾患であるという信念が、プライマリケアに当たる医師からの需要を抑制する予想以上に大きな要因になっていると述べた。

マス・ジェネラル・ブリガム病院(ボストン)の神経科医でアルツハイマー病の研究者であるレイサ・スパーリング氏は、レカネマブに対する一部医師の懐疑的な態度を、30年前のがん治療に対する運命論的な態度になぞらえる。「何もできないのに、なぜ検査をする必要があるのか」と。

米エーザイ・インクのアレックス・スコット最高管理責任者は、大規模な医療制度による採用が予想以上に遅れていることに加え、懐疑的な見方が普及の重荷になっていることを認めた。

アルツハイマーを引き起こす有害タンパク質「アミロイドベータ」を脳から除去することで病気の進行を遅らせることができることを証明するための研究は、何十年もの道のりを経てきた。

スコット氏は、一部の医師がレカネマブの利用に後ろ向きなのは、その記憶をひきずっているためかもしれないと語る。エーザイがレカネマブの有望な臨床試験結果を発表する前、この分野の研究は 「愚の骨頂」だと考える人もいたという。

ただ、スコット氏は「月を追うごとに進展が見られ始めている。だから今でも非常に前向きだ」とも話した。

<リスクは大きく、効果は小さい>

エーザイとバイオジェンは、3月末までに米国人1万人がレカネマブの治療を開始することを期待していたが、エーザイは1月末時点で数千人にとどまっていると発表した。

アルツハイマー病の協会によると、米国では推計600万人以上がこの病気に罹患している。

市場調査会社スフェリクス・グローバル・インサイツが1月に行った調査によれば、米国の神経科医のうち、患者にレカネマブを勧めているのは半数以下にとどまっている。

スタンフォード大学記憶障害センターのマイケル・グレイシャス教授は、レカネマブが患者に有意な効果をもたらす証拠はほとんどないと言う。

「試験結果を額面通りに受け取るならば、プラセボ(偽薬)と実際に薬を投与した場合の差は、患者や家族、医師には認識できないほど小さい可能性が高い」と指摘する。

他の医師は、脳腫脹や出血のリスクに加え、年間2万6500ドルの薬代、頻繁なMRI検査、月2回の点滴といったコストに懸念を示した。

<敵はニヒリズム>

エーザイの科学諮問委員会のメンバーを務める神経科医のジョナサン・リス氏は、レカネマブの画期的な研究結果が発表された2022年11月の学会で、初めてニヒリズムについて警告した。

この薬は将来のライバル薬とどう闘えるか、という同社からの質問に対し、ライバル薬ではなく「ニヒリズムが敵だ」と答えたのだ。「同じテーブルの神経科医全員が拍手し始めた」とリス氏は振り返る。

ウィスコンシン大学アルツハイマー病研究センターの老年医学者、ナサニエル・チン氏は、医学誌でレカネマブのような治療法の採用を呼びかけた後、ソーシャルメディアで批判されたと語る。

統計学的に有意な効果があっても、特にリスクを考えた場合、患者にとって臨床的に意味のある効果ではない、との反論を浴びたという。

バイオジェンの執行バイスプレジデント兼開発責任者のプリヤ・シンガル氏は、レカネマブに対する医師の無関心を認めつつも、インフラや神経科医へのアクセス不足の方が大きな問題だと述べた。

シンガル氏によると、同社とエーザイは医師や患者支援団体と協力し、早期発見、副作用の管理、薬剤の利点の理解を目的とした教育プログラムや教材を開発している。

両社は、2026年までにレカネマブ治療を受ける患者数を10万人に増やすことを目指し、営業人員を30%増やす方針を示した。

<平穏と静けさ>

セントルイスの乳がんチャリティー団体の設立・運営者であるリン・カステラノさん(64)は、自分が予定を把握するのに苦労しているのに気づき、軽度認知障害と診断されてから、ほぼ1年後の昨年9月にレカネマブ治療を始めた。

一番心配なのは副作用だったが、家族はこの薬が病気の進行を遅らせる可能性があると信じたという。

カステラノさんは、レカネマブが役に立っているかどうかはわからないが、この治療によって希望を与えてもらい、月2回の点滴も苦にならないと語る。

「素敵な椅子に座って、愛犬と一緒に2、3時間本を読むことができる。平穏と静けさを味わえる唯一の場所かもしれない」と述べた。

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