議員の「知りませんでした」もう終わりに 看板にペンキ投げつけられた苦い記憶 元特捜部長の五十嵐紀男弁護士に聞く【裏金国会を問う】
47NEWS / 2024年5月5日 10時30分
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、東京地検特捜部は政治資金規正法違反罪で議員3人を含む計10人を立件した(このうち谷川弥一氏は議員辞職)。かつて特捜部長として金丸信・元自民党副総裁の規正法違反事件を指揮した五十嵐紀男弁護士は、今回の捜査をどう評価しているのか。法改正のポイントなどと合わせて話を聞いた。(共同通信=帯向琢磨)
▽ハードル高い政治家案件、議員3人の立件は評価できる
インタビューに応じる五十嵐紀男弁護士
―今回の捜査をどう評価しましたか。
「政治資金規正法は、政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治資金の授受の規正を講ずると定めています。その最大のよりどころである政治資金収支報告書への不記載や虚偽記入は、形式犯だからと軽視すべきものではなく、法定刑を見ても非常に重いものです」
「捜査の焦点は、会計責任者など事務方だけでなく、どこまで議員本人を立件できるかでした。議員の関与を裏付けるのは簡単ではなく、過去の政治家案件を見ると秘書の供述だけでは不十分で、メールや録音などの客観証拠も必要でハードルが高いものです。そういう意味では、議員3人を立件したことは評価できると思います」
―ただ一方で安倍派の幹部は軒並み立件を免れました。
「安倍晋三元首相が中止を指示したパーティー券売り上げの還流を誰がどう復活させたかに注目が集まりましたが、還流自体は違法ではありません。あくまで不記載が問題なのであり、派閥の事務総長経験者がどこまで『記載しなくていい』と指示や了承をしていたのかがポイントでした。全員が関与を否定しており、共謀を裏付けることが難しかったのでしょう」
議員辞職願を提出し、記者会見する谷川弥一氏=1月22日、長崎県大村市
▽佐川急便の闇献金事件では「処分の不平等」と厳しい批判も
―現役時代にも同じように困難な捜査があったようですね。
「特捜部長在任中、佐川急便の闇献金事件を捜査しました。金丸信・元自民党副総裁は5億円の不記載を認めましたが、処罰対象となる会計責任者は地元の農家の男性で、事件が明るみに出るまで自分が会計責任者であることすら知りませんでした。名目上の会計責任者に過ぎなかったため処罰できず、そのため金丸氏も共犯に問うことはできませんでした」
特捜部長として、自民党副総裁だった金丸信氏らの追起訴発表の記者会見に臨む五十嵐紀男さん(左)=1993年3月27日、東京・霞が関
―国民の反応はどうだったのでしょう。
「不記載罪は無理でしたが、規定を超える寄付を受けたとする量的制限違反罪で略式起訴しました。法律の不平等を訴えようと思ったのですが、罰金だったことや事情聴取をしなかったことから厳しい批判にさらされました。法律の不平等ではなくて検察の処分の不平等だと取られ、検察庁の看板にペンキを投げつけられる事件に至りました。ただその後、法定刑が引き上げられるなど法改正が実現しました。高い代償を払いましたが、検察は使える武器を手に入れることができました。国民に理解されず残念でしたが、あの処理は今でも間違っていなかったと思っています」
検察合同庁舎に投げ付けられた黄色いペンキ=1992年9月28日
▽「会計責任者に任せていた」との弁解通らない法改正を
―規正法違反を立件する難しさはどこにありますか。
「金を使っているのは議員なのに、規正法の罰則の対象は事務方であるところです。議員側からは『会計責任者に任せていた』という弁解が考えられ、規正法が『ザル法』と呼ばれるゆえんです。自ら責任を持てない収支報告書を提供すること自体、国民に対しての冒涜だと思います」
―今回の法改正はどのような方向で進めていくべきですか。
「弥縫策ではなく、議員の責任も免れなくするような抜本的な見直しが必要です。一つは、党からの寄付について収支報告書に記載しなければならないということを盛り込むべきです。『政策活動費』という弁解の根拠になっているからです。また、上場企業が損益計算書や貸借対照表を取締役会の承認を経て株主総会に提出していることにならって、議員を含めた政治団体の機関に収支報告書の承認を求めたり、収支報告書に議員が内容を確認した旨の署名を義務付けたりするなど、『知りませんでした』という弁解が通らないようにしないといけません」
いがらし・のりお 1940年北海道生まれ。東京地検特捜部長や大分地検検事正、千葉地検検事正などを歴任。99年、横浜地検検事正で退官。
× × ×
事件を受け、岸田文雄首相は「再発防止策に早期に取り組む」と述べ、今国会中の規正法改正を表明している。自民党は政治資金収支報告書の提出時に国会議員による「確認書」添付を義務付け、不記載・虚偽記載への監督責任を明記するなどの独自案を示したが、野党や公明党が求める抜本改革が実現するかどうかは不透明だ。一方で派閥幹部らを不起訴とした特捜部の処分を巡っては検察審査会に審査が申し立てられており、検審の判断によっては特捜部は再捜査をすることになる。
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