「産休クッキー」に「お子が熱」。なぜ批判は、会社の構造ではなく“子持ち様”に向いてしまうのか
オールアバウト / 2024年5月8日 21時5分
「お子が熱」「産休クッキー」が話題になるなど、ここ最近のSNS上では、子どもを持つ女性を揶揄(やゆ)する風潮がある。なぜ「子持ち様」「妊婦様」などという話題が物議を醸しているのだろうか。
ここ最近、子どもを持つ女性を揶揄(やゆ)する「子持ち様」「妊婦様」が批判の対象になっている。少子化が進む日本で“子は宝”のはず。なぜ「子持ち様」「妊婦様」論争が起こっているのだろうか。
「子どものことで休むのは甘え」
「私、“子持ち様”って思われてたのかな?」先日、友人たち数人で食事をしていた日のこと。3人の子どもを育てるA子(32歳/仮名)がため息交じりに話し始めた。
「前職の上司に『子どものことで仕事を休むのは甘え』だと言われたことがある」
数年前、A子が勤めていた会社の上司が、彼女に対して放った言葉だ。当時コロナ禍だったこともあり、A子は子どもが微熱を出すと、念のため病院に連れていく機会も多かった。
この男性上司には、子育ての経験がなかったという。A子の話を聞いた友人たちは「上司は子育てを経験してないから大変さが分からないんだよ!」と怒り心頭だったが、A子にこのような言葉を投げかけたのは、この上司だけではなかった。
なんと「うちの子はそんなに熱出さなかったけどねぇ」と、いやみ交じりに言ったのは、子どもを育てた経験のある同僚だったのだ。同僚は、A子が休むたびに、A子の仕事を代わりに引き受けていた。
A子はほどなくして別の会社に転職。彼女はこの時の経験を「有給休暇を使っているのに、いやみを言われるのはおかしい」と話す。
SNS上でトレンド入りする「子持ち様」「妊婦様」
A子が冒頭に発した「子持ち様」はSNS上でたびたびトレンド入りするワードだ。具体的には、以下のようなケースである。◆「お子が熱」
2023年11月「『お子が高熱』とか言ってまた急に仕事休んでる。部署全員の仕事が今日1.3倍ぐらいになった」といったX(旧Twitter)の投稿が話題に。まさにA子の同僚と同じく、子どもの体調不良で休んだ人の仕事をみんなでカバーする構図が生まれたことに対しての不満を吐露したもので、大きな話題を集めた。この投稿の表示回数は3000万回以上(2023年12月時点)となり、「子持ち様」のワードがトレンド入りした。
◆産休クッキー
「子持ち様」だけでなく、「妊婦様」が話題になるケースも。
2024年4月、産休に入る女性が職場に配った「産休クッキー」が物議を醸した。クッキーには赤ちゃんのイラストや、妊婦のイラストがプリントされている。「産休をいただきます ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします」のメッセージが添えられ、一見とてもかわいいクッキーなのだが……。
女性が産休クッキーを職場で配ることをXに投稿したところ、「幸せアピールがうざい」「あなたの代わりに仕事をする人に対しての配慮は?」など、思わぬ形で炎上し、妊婦様と揶揄する声も上がっている。
このようにXで炎上したケースを見てみると、妊婦様や子持ち様は、A子のケース同様、職場が舞台の議論であることが多いようだ。
「休んだ人の分のカバーをしても給料が上がらない」
そもそも「子持ち様」「妊婦様」はどのような人を指す言葉だろうか。SNSで話題になったケースから解釈してみると、「子持ち様」「妊婦様」は、妊婦や子どもを持つ人(主に女性)を揶揄する言葉で、妊娠や子どもを理由にした行動が周囲に迷惑だと受け止められたり、非常識だと思われたりする際に使われることが多いようだ。
子どもの体調不良や妊娠を理由に仕事を休むことは、仕方がないことのはず。では、これだけ批判が起きる理由はどこにあるのだろうか。
SNSの声で多かったのは「休んだ人のカバーをしても給料が上がらない」という会社の構造の問題である。前述のA子の会社も、固定残業代があらかじめ給料に含まれていることから、A子の仕事をカバーした同僚の給料は上がらなかった。
また、SNSによって「不満が可視化されるようになった」という見解もある。産休クッキーにしろ、「お子が熱」にしろ、自身の仕事が増えても、休む人に対し「休まないでほしい」とは言えない。現実の世界では「おめでとう」「お大事に」と声をかけるが、心の中で「仕事が増えちゃうな……」と不満を持つ人もいるだろう。それが匿名で本音をつぶやける世界=SNSで可視化され「私もそう思っていた!」といったSNSユーザーからの共感を得て、大きな話題となる構図が現代では出来上がっている。
「言いづらい本音」とSNSの親和性は高い。この2点が、「子持ち様」に対する批判が高まりやすい大きな理由となっているように思う。
批判の矛先が“子持ちの人”に向かうのは間違っている
冒頭のA子も「前職は私が休んだら、仕事が回らない環境だった」と語る。「だから上司も同僚も心に余裕がなくて、思わず私に当たってしまったのではないかと思う」――。「子持ち様」「妊婦様」の問題には、子育てをする人が、職場内で適切な支援を受けられる体制を整えること、そして、休んだ人の分まで仕事をカバーをした社員がその対価を得られる仕組みにすること、という2つの課題がある。
しかしSNS上では、会社の構造を問題視する声だけでなく、「子持ち社員」と「子持ち社員の仕事をカバーする人」の対立構造が見られる。しかし、本当に是正されるべきは企業の体制であって、批判の矛先が、“子持ちの人”に向かうのは間違っている。
子持ち様と揶揄される例は、もう1つある。それは「子どもを免罪符にして非常識な行動をとる親」だ。これは前述した「妊娠や子どもの体調不良で仕方なく仕事を休む親」と、混同されるべきではない。
子どもを理由にして非常識な行動をとる親は、おそらく親になる前から非常識な人だからだ。
「子どもが熱を出したら休んで当たり前」「仕事をカバーしてもらって当然」……そんな態度をとる”子持ち様”はごく一部である。
ほとんどの親は、仕事を休むことに対して、申し訳ない気持ちを持っているのではないか。そういう人たちを「子持ち様」と揶揄するのは、間違っている。むしろ子持ち様と尊敬し、「仕事は任せて!」と快く送り出す社会になってほしいと思う。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
(文:毒島 サチコ)
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