スマホがLE Audioに対応していなくても、なぜAuracastを使えるのか?
ASCII.jp / 2024年5月5日 9時0分
Bluetoothを使ったブロードキャストサービス「Auracast」が広がるためには、LE Audioの普及がカギとなる。
それはAuracastがLE Audioをベースにしているからだが、アップルはいまだLE Audioに対応するかどうかについて明確にしていない。また、AndroidにおいてはOSの断片化問題がある。これもLE Audioの普及を阻害する要因となっている。
こうした状況を踏まえて、Bluetooth SIGはAuracastの普及を促進させるもう一つのシナリオを示した。端的に言うと、イヤホンがLE Audioに対応していれば、スマホはLE Audioに対応していなくともAuracastを使用できるようにするというものだ。実はすでに昨年の体験イベント「Auracast Experience」でもすでに披露されていた。
そして、Bluetooth SIGは今年、その内容を明文化した最終ドラフトを発行した。その文書を読みながら、Bluetooth SIGが唱えるAuracast普及のためのシナリオを見ていこう。
Auracastはスマホを経由して音を聴く仕組みではない
まず、前提としてこの文書は、Auracastが提供するブロードキャスト・オーディオにおけるイヤホンとスマホのふるまいを明確に定義して設計するためのものだ。プログラムの仕様も含めた詳細な文書だが、細かなプログラムの実装上の手順はなるべく省いて、ポイントだけを紹介する。
まずAuracastによるブロードキャスト・オーディオは3つの要素から構成される。
・Auracastレシーバー: Auracastの受信機、具体的にはイヤホン、ヘッドホン、補聴器など ・Auracastトランスミッター: Auracastを送信するスマートフォン、PC、テレビ、そしてAURIシステムのような独立した送信装置など ・Auracastアシスタント: Auracast レシーバーのUIとなるスマホアプリやOS機能(画像の右上部分)
この名称はBluetooth ClassicのA2DPに相当する、LE AudioのBAP(Basic Audio Profile)でも定義されている。ちなみにAuracastではBAPの他にPBP(Public Broadcast Profile)というオーディオプロファイルが必要となる。
Auracastを使ったブロードキャスト・オーディオは、TVのチャンネルに似た概念だ。チャンネルを選択するように受信するAuracastブロードキャストを選択できる。仮にチャンネルが1つしかない場合は、特に悩む必要はないだろう。しかし、2つ以上ある場合には、どれかを選択しなければならない。
問題はAuracastを受信するイヤホンには通常そのためのUIがない。例えば、イヤホンの2回タップでチャンネルが切り替えられたとしても、そのチャンネルが翻訳か解説かまでは分からないだろう。そこで、Auracastアシスタントを用いて、スマホからイヤホンをリモート制御できるようにする。Auracastアシスタントは、ユーザーに対してチャンネルがどのような内容であるかを示し、選択もできるようにするソフトウェアだ。
将来的には、このAuracastアシスタントのUI機能が、Auracast対応のスマートフォンやPCなどに組み込まれることになる。ただし、そうした「Auracastネイティブ機能」を搭載した機器が市場に出回るには時間がかかる。そこで、Bluetooth SIGは世の中にすでにあるLE Audio非対応、Auracast非対応のスマホにも、Auracastアシスタントの機能を組み込めるようにした。
昨年のInter BEEで開催された「Auracast Experience」の体験記事でも紹介したが、イベントで使用したスマホはAndroid 12が動作する「Pixel 6a」であり、LE Audio対応ではなく、スマホ自体もAuracastには対応していなかった。この時のシステムが明文化されたことになる。
ここでポイントとなるのは、従来のBluetoothワイヤレスイヤホンはスマートフォン(またはPC)と1対1で接続するが、Auracast対応のBluetoothイヤホンはさらに外部の送信機とも接続された状況になるという点だ。つまり、Auracastの音声はスマホを経由してイヤホンに伝送されるのではなく、Auracastのレシーバーでもあるイヤホンが直接ブロードキャスト・オーディオを受信するというわけだ。この仕組みであれば、スマホがLE Audioに対応している必要はない。
スマホとイヤホンは、従来と同じプロトコルを使ったBluetoothで接続されており、スマホはイヤホンのコントローラーとしてのみ機能する形になる。そうすれば、iPhoneでも、古いAndroidスマホでも、Auracastアシスタント機能を利用し、Auracastシステムに加われるというわけだ。
スマホはLE Audio対応である必要はないが BLEに対応する必要はある
ブロードキャスト・オーディオのチャンネル一覧を取り出すためには「スキャン」と呼ばれる機能が使われる。仕様上、このスキャン作業をAuracastレシーバーだけでなく、Auracastアシスタントもできることになっている。ただし、すでに述べたようなLE Audioに対応していないスマホでは、LE Audio対応のイヤホンにスキャン作業を肩代わりしてもらうことになる。
ただし、制限もある。この「肩代わり」には、BluetoothのGATTプロシージャが使用される。GATTプロシージャとはBluetooth LEで使用されるデータ交換の仕様で、ここ10年で製造されたスマホならばたいてい実装されているので、Auracastアシスタント・アプリを搭載できる。言い換えれば、Auracastを使うためのUIを提供するために、LE Audioのサポートは必須ではないが、Bluetooth LEのサポートは必須ということになる。
ペアリングしない代わりにチャンネル情報を配信する
Auracastを知るうえでもう一つのポイントは、トランスミッター(送信側)とレシーバー(受信側)の間の相互接続(ペアリング)が必要ないということだ。通常のBluetoothではスマホとイヤホンをペアリングして、音楽信号を伝送するだけでなく再生や一時停止といった制御もできる。一方、Auracastはテレビ/ラジオ放送などと同じブロードキャスト通信なので、こういった操作はできない。一方的に送られてきた信号をただ受信するだけである。
ただし、送信機が送り出す情報の内容を示すために「Advertising」(意訳するとサービス案内)というデータ構造が用意されている。チャンネルのタイトルや概要が記載されており、このAdvertisingが読み込めれば、そのチャンネルをイヤホンが正しく捉えられているということになる。
Advertisingに記載されているの下記のような情報だ。
・Broadcast Name: トランスミッターの名前、例えば「パブのTV 1台目」 ・Program Info: チャンネルの内容、例えば「バスケ」や「サッカー」 ・Language: チャンネルの言語
プログラムの細かな仕様には踏み込まないが、こうした情報が表示するデバイスとしてイヤホンは力不足であり、外部に別のUIが必要であることは分ってもらえると思う。
繰り返しになるが、Auracastで重要なことはイヤホンが手元のスマホというくびきから解放されるということであり、イヤホンが単独で外の世界の音を聞く機器として踏み出しえいけるということだ。これは大きな変化である。そのためのシステム作りが今後時間をかけて、進んでいくことになるだろう。
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