「人間はお互いを滅ぼすだけではない」ジェイク・ギレンホールが映画『コヴェナント』で一番“こだわったこと”
CREA WEB / 2024年3月5日 11時0分
2018年のアフガニスタンを舞台にした映画『コヴェナント/約束の救出』に主演したジェイク・ギレンホール。映画は『アラジン』などの英国人監督ガイ・リッチーがドキュメンタリーから着想を得て誕生した社会派ドラマで、ジェイクは自分の命を助けてくれた現地通訳を救出するため、再び戦場へ戻る選択をした軍人を演じる。
『ブロークバック・マウンテン』はじめ数々の名作に出演したジェイク。インタビューでは演技者として、人として何を大切にしているかをとても真摯に語り、若くしてスターとなったとは思えない、とても謙虚で温かい人柄が感じられた。
――まず、この映画に出演した理由を教えてください。
ジェイク かなり以前から、アフガニスタンとアメリカの関係についての話を語りたいと思っていました。現地の人々にまつわる話を色々と聞いていたので。同時にガイ・リッチーと一緒に仕事をしたいとも、長い間思っていました。彼とは15年以上前から知り合いなんです。それ以前からガイのファンだった期間も長かった。そして、ガイが『コヴェナント/約束の救出』のストーリーを僕に聞かせてくれた時、これは僕の希望が一度に叶えられるまたとない機会となったわけです。
――ジェイクさんが演じたジョン・キンリーは、映画によく出てくるような鬼軍曹ではなく、心に柔らかい部分を残しているような人物です。この人物像は、監督とあなたのどちらのアイディアだったのでしょうか?
ジェイク どこか柔らかい部分というのは、僕に生まれつき備わっている部分なんだろうと思いたいですね。典型的な軍人像というのに陥りたくはなかったし、軍隊にいる人がみんな鬼軍曹かと言えば、そんなことはないわけです。軍人といえどもみんな人間ですから。
でも僕が二人の関係性を見せる上で一番こだわったのは、決して感傷的にならないこと。ガイ・リッチーもそこにこだわっていました。感傷性(センチメンタリティ)ではなく、感受性(センシティビティ)があるからこそ、お互いを助けるわけです。相手がどんな人間かは関係なく、人を助ける感性があった。多分、僕に柔らかい部分があるからガイは僕を選んだのでしょうし、同時に僕がこの役を演じたいと思った理由でもあるわけです。やっぱり監督はキャスティングするときに、役者の中にある何かを見ているんです。
――ジョンという人物を演じるにあたり、大切にした部分を教えてください。
ジェイク まずジョンは軍人なのでフィジカルなもの、武器の扱い方、敵と戦うときの動き方が正確でないといけない。今まで軍人を何度も演じてきたので、いろんな人に会いましたし、経験値が活かせた部分もあります。そしてこの映画では、かなりのコミュニケーションが言葉以外のもので行われるんです。これはガイと最初から話していたことですね。
それから何と言ったらいいかな……(かなり悩んで)、何かありがちな感じに傾かないよう、物語の語り方を抑制し続けることがとても重要でした。それがこの映画の成否を決めるんです。つまり、僕が演じるジョンと通訳のアーメッドは、お互いのことがあまり好きなわけではないんです。でも、それって最高だなと僕は思ったんですよ(笑)。人間として正しいことをすべき時、相手を必ずしも好きである必要はないんです。そのことを大きな指針、北極星としてとして胸に抱き続けていました。
「素敵と良いとは違うこと」
――「すごく好きな相手でなくても助ける」というのはとても良いですね。私の北極星にしなくては。
ジェイク アメリカの偉大な作詞作曲家のスティーブン・ソンドハイムが「素敵と良いとは違うこと」*という歌詞を書いているんです。(*Nice is different than good. ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」の中に出てくる一節)。これはさまざまな意味で、とても興味深いコンセプトだと思うんですよ。人は試練に対峙した時、最高の自分が試される。ジョンもそうです。アーメッドを助け出すまでは、ジョン自身も人生を思い切り生きることが出来ない。まるで釣り上げられたかのように戦場に戻る。
「釣り針が引っかかってるんだ」というセリフが僕はとても好きなんですが、ジョンの心に刺さった釣り針を外すには、アーメッドの命を助けるより方法はないんですね。だからどんなに困難な状況でも彼は戦って、戦って、戦い続ける。矛盾を孕んでいるところが人間的であるし、それこそがガイ・リッチーが監督として特別なところであり、僕が人間としてのガイに惚れ込む理由なんです。
――現場では、かなり即興やアドリブを求められたと聞きました。
ジェイク 即興やアドリブというよりは、その場で書いたセリフを渡され、すぐに撮っていったという感じです。今回長いスピーチが二つあるんですが、これは脚本には元々は書かれてなくて、実はその場でガイが書いたセリフなんです。その場ですぐに覚えて演じなければいけないから大変だけれども、僕はこれがとても面白かったし、ガイ・リッチーらしさだと思います。
このやり方ができるのは、映画言語が流暢な作り手だから。そしてガイのスタッフはいつも一緒だから、彼のやり方を理解しているし、どう動けばいいのかもわかっている。信頼関係があるんです。僕は彼のチームの一員になったばかりだけど、ガイに言われたらなんでもやりますよ。実際、ガイとはもう2本目も撮ったんです。
――アーメッド役はダール・サリムさんです。日本ではまだ馴染みの薄い俳優ですが、とても素晴らしい役者さんですね。
ジェイク 僕は本当にダールのことが大好きなんです。彼は本物の紳士ですよ。とても寛大で、一緒にいると愛さずにはいられないタイプの人です。心がオープンで、とても謙虚で、努力家です。そういう役者と一緒に仕事をすると、こちらも100パーセントの力で返さなければ、と思わされる。ダールは本当に最高の人間であり、一緒に仕事をするのが楽しくて仕方ありませんでした。
――ジェイクさんが完成したこの映画を自分で観て泣いてしまった、という海外メディアのインタビュー記事を読みました。何かを思い出して涙が出たのでしょうか? もしくは、どこかの場面で胸を打たれたのでしょうか?
ジェイク 実は涙が出たところは何回かありました。戦闘シーンでも感情が動かされたし、最後は安堵感を覚えて泣けてしまった。自分のことを気にせず人のために動くとき、そこに人間的なものを感じるし、泣けるんだと思うんです。みんな日々選択を迫られている中で、人と人が無私の気持ちで繋がることができるという可能性、それが素晴らしいことだと思うんです。人間はお互いを滅ぼすだけではないんだ、ということを示している。
さらに、親友だと思っているガイ・リッチーが今までとは違う映画を作ったことに感動して、涙が溢れてしまった。こんな素晴らしい映画を生み出したガイを誇りに思うし、とにかく最後に色々な思いが込み上げてしまったんですね。
僕自身の中にある嘘のない感情を与えたい
――題名である『コヴェナント/約束の救出』COVENANTの解釈として、絆(BOND)、誓い(PLEDGE)、約束(COMMITMENT)という3つの言葉が最後に出ます。ジェイクさんは、ジョンとアーメッドの関係においては、この中のどれが一番近いと思いますか?
ジェイク (長い間悩んでから)約束、コミットメントかな。言葉であっても、言葉にしなくても、ある約束をしたならば、それを最後までまっとうしなければいけない。だからある意味では、名誉や仁義とも言えると思います。
――最後に、ジェイクさんが俳優として最も大切にしてること、そして人間として最も大切にしていることを教えてください。
ジェイク とても答えるのが難しいですが、俳優としては、自分の中にあるものをできる限り引っ張り出すことが一番重要だと思っています。たとえ演じるキャラクターのガードが固くてそれを拒んだとしても、僕自身の中にある嘘のない感情を与えたい。
そして人間として大切にしていることはいくつかあるけれど、一番重要なのは、好奇心を持ち続けることだと思います。好奇心があったおかげで、僕は自分をさまざまに羽ばたかせることが出来たし、これからもそうあり続けたいと思います。
ジェイク・ギレンホール
1980年、アメリカ、カリフォルニア州生まれ。父は映画監督、母はプロデューサーで脚本家、姉は女優マギー・ギレンホールという芸能一家に育つ。1991年、『シティ・スリッカーズ』で子役としてデビュー。『遠い空の向こうに』(99)に主演して注目を集め、アン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(05)で米国アカデミー賞助演男優賞の候補になり英国アカデミー賞では受賞を果たした。『ゾディアック』(06)、『ラブ&ドラッグ』(10)、『ナイトクローラー』(14)、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(15)、『ノクターナル・アニマルズ』(16)、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19)など。
文=石津文子
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