「オッペンハイマー」はいわゆる“ネタバレ”が存在しない作品 知っておくべき史実を多数発見できる【コラム/細野真宏の試写室日記】
映画.com / 2024年4月3日 14時0分
この効果もあり、助演のロバート・ダウニー・Jr.の存在感を際立たせる事に成功し、アカデミー賞で助演男優賞受賞にまで輝く結果になっています。
もちろんメインはオッペンハイマーで、聴聞会での自身の説明で、映像は大学生の時にイギリスのケンブリッジ大学に留学したシーンになります。
このような感じで過去が語られ、同時に公聴会も進んでいく構造になっています。
これらの現実の事象はかなり入り組んでいるので、それを3時間の映画で描き出すのは困難ですが、割と「シンプルで分かりやすく構成されている」と思います。
ただ、その結果、展開が早くならざるを得ず、いろんなディテールがバッサリと切られている面はあります。
象徴的なところは全般的に、通常の映画であれば、もう少し丁寧に説明があるシーンでも、本作ではバッサリと切ってあったりしていて、「こんなの文脈で明らかだよね?」「自分で考えてね」といった感じの、良くも悪くも「クリストファー・ノーランらしさ」があります(これの究極形が前作「TENET テネット」でしょう)。
また、唯一、原爆を投下された日本としては、日本の描写がない事が気になる人もいるでしょう。
これについては、「オッペンハイマーに降りかかる悪夢のような映像」として間接的に描かれていますし、尺を考えると仕方ない面もあるのかもしれません。
個人的には、せっかくの題材の作品なので、むしろアメリカ軍が原爆投下の予行演習として行なった、日本全土を巨大な実験場とした「パンプキン爆弾」の投下を描いてほしかったです。
1945年7月16日に、オッペンハイマーらが人類史上初の核実験「トリニティ」を成功させる描写はありますが、その直後の7月20日から始まった(長崎に投下された「ファットマン」と同じ重量・寸法で作られた)リハーサル用の模擬爆弾「パンプキン爆弾」を東京、福島、新潟、愛知などで合計49発の投下を行なっていたのです。
結果として1700人規模の死傷者を出していて、この史実も無視はできないものですが、これも尺を考えれば無理難題なのかもしれません。
しかも、もしこの「パンプキン爆弾」の投下を描くと、「マンハッタン計画」の責任者であるマット・デイモンが演じるレズリー・グローヴス中将が「原爆を落とすのは2回だけだ」と言い切っている描写に矛盾が生じます。(現実にはグローヴス中将は「8月17日か18日以降の、最初の晴れた日に、日本に原爆を投下できるように準備が整うはず」と、3発目の原爆が用意されているという書簡をアメリカ軍のトップに送っています)
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