ウチもついに富裕層の仲間入りね…60歳女性、総資産10億円の89歳義父が亡くなってニヤリ→まさかの事態に「ちょっと、聞いてないわよ!」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月3日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
老後の不安を少しでも減らすため、資産形成に励んでいる人が多いなか、「実家(義実家)がお金持ちだから」と、自助努力を怠っている人もいるかもしれません。今回、裕福な義実家の遺産を密かに狙うAさん(60歳)の事例から、老後の資金計画の重要性と家計改善の方法をみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
60歳まで“順調”な人生…上昇志向なAさんの「老後戦略」
Aさん(60歳)は、3歳年下の夫Bさんと、都内にある戸建て住宅に暮らしています。
Aさんは、若いころから上昇志向で戦略家。「長男だと家を継がなきゃだめでしょ? だから、結婚するなら絶対に次男よ。あとは実家がどれだけお金持ちかも外せないわね」と、学生時代から結婚までの緻密なプランを練っていました。
20歳で短大を卒業後、狙っていた大手企業に一般事務として就職したAさんは、虎視眈々と玉の輿チャンスを探っていました。6年間耐えたあと、有名私立大学を卒業したばかりのBさんが入社。Bさんは地方の資産家の次男で、将来の幹部候補と噂されていました。Bさんの兄は父親の会社の重役で、妹は結婚して地元で暮らしているようです。
Aさんの作戦が実り、2人は4年間の交際を経て見事ゴールイン。2人の子どもに恵まれ、やがていま住んでいる戸建て住宅を購入しました。現在はすでに、住宅ローンの返済も終わっています。
義父が逝去し、「多額の遺産」を手にするはずが…夫が放った「衝撃のひと言」
このたび、夫Bさんの父が89歳で逝去しました。報せを受けたAさんは、悲しみを存分に醸しながらも、心中では「お義父さんにはかなりの資産があるはず。きょうだい3人で分けるとしても、きっとすごい額だわ……ウチもついに富裕層の仲間入りね」とほくそ笑んでいました。
ところが、遺産についてさりげなくBさんに話しかけると、衝撃のひと言が返ってきます。
「ああ、そうだ。ウチは相続放棄したから」
夫のまさかの言葉に、目の前が真っ白になるAさん。
「えっ? ちょっと、どういうこと……?」
聞いてないわよ! なんて勝手なことを! お義父さんの遺産で悠々自適な老後を送れるはずが……長年の戦略が崩れ去ったAさんは、思わず叫んでしまいそうなところをなんとか抑え、相続放棄した理由をBさんに訊ねました。
夫Bさんが「相続放棄」を決断したワケ
するとBさんはAさんに、次のように話します。
「実は母さんが亡くなったとき、四十九日の法要のあと、父さんから自分の遺産分割の話があったんだ。
俺は早くから実家を出てこっちで暮らしていたけど、兄さんと妹は母さんの介護で5年くらい大変だったみたいでさ。母さんのためのリフォームとかベッド買うとか、結構お金も出してたみたいだし※。
※ 主な介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)の平均値は、住宅改造や介護用ベッド購入など、一時的なものが74万円、月々の費用は8.3万円となっている。介護を行った場所別でみると、在宅の場合月4.8万円、施設の場合月12.2万円。また、介護を行った期間(現在介護を行っている方は、介護を始めてからの経過期間)は平均5年1ヵ月(61.1ヵ月)。そのうち約5割が、4年を超えて介護を行ったと回答している(<生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度>より)。
しかも父さんは、『都内の暮らしは大変だろう』って、俺たちの子どもにかなり援助してくれていただろ? 生まれたときとか、大学の授業料とか。
俺、その話を聞いて、兄さんたちは母さんの世話のためにお金使ってんのに、自分は出さずにもらってばっかりだなと思って。それに、相続資産がだいたい約10億円くらいあったから、相続税も大変だろうと思って。俺はその場で相続放棄するって決めたんだ」
Bさんから相続放棄の意思を聞いた父は、「なんにもいらないといってもな……」と考え込み、結局相続放棄は受け入れたうえで、「二束三文にもならないが、これを持って行ってくれ」と、父が社会人になって初めて買ったという手巻きの腕時計を形見として渡したそうです。もちろん動かず、資産には到底計上できません。
Bさんは続けて、
「お前だって結婚してこの30年間、なにかと理由をつけて実家にはまったくといっていいほど寄りつかなかっただろう。それに今回も、俺が仕事で忙しかったのが一番悪いけど、父の看病は全部兄貴と妹がやってくれた。だから、これでよかったと思ってる」
と話しました。
Bさんから一連の話を聞いて、Aさんは放心状態。しばらくのあいだ、なにも言うことができませんでした。
義父の遺産をあてにして、老後の準備を怠っていたAさん。不安でたまらなくなったAさんは、知り合いのツテを頼ってファイナンシャルプランナーである筆者に相談することにしました。
生活水準はキープしたい…このままだと80代で「老後破産」に
筆者は、沈痛な面持ちのAさんから「これからどうすればいいんでしょう。どうにかお金のストレスなく老後を過ごしたいのですが、できますでしょうか?」と相談を受け、まず、夫婦の今後の収支見込みをヒアリングしました。その結果は図表のとおりです。
※ 厚生年金保険の加入期間20年以上の夫が65歳になり、妻が昭和41年4月1日までに生まれ、厚生年金や共済年金に20年以上加入していなければ、「振替加算」が妻の老齢基礎年金に加算される。ただし今回の事例のように扶養されている妻が夫より年上の場合は、年金事務所に申請が必要。なお加算額は、生年月日ごとに変わる。Bさんは昭和39年10月生まれなので、受給額は1万5,732円(月額1,311円)となる。老齢厚生年金の受給額には老齢基礎年金分を含む。
また、現在の夫婦の支出額は毎月38万円です。生活水準は変えたくないとのことで、生涯この金額を維持したいそうです。現在の貯蓄は、住宅ローンを繰上げ返済したこともあり550万円となっています。
[図表1]をみるとわかるように、夫Bさんが65歳で退職金を受け取ったあとは、家計収入は月額35万円となります。このままの支出額で生活すればこれ以降は貯蓄を取り崩す生活となり、80歳を過ぎるころには家計が破産しかねません。
老後の収入を増やすため、「年金の繰下げ受給」を検討
家計破産することなく、老後も38万円の支出を維持するには、なにかしらの方法で「収入を増やす」必要があります。
具体的には、
<Bさん>
・副業を始める
・65歳以降も働く
<Aさん>
・パートを始めて収入を得る
<夫婦ともに>
・新NISAを始めるなど、投資を行う
・年金の繰下げ受給を行う
といった方法があるでしょう。
「年金の繰下げ受給」は、老齢年金を65歳から受給せず、66歳から75歳0ヵ月までの任意のタイミングに繰り下げる(=受給開始を遅らせる)ことで、その分増額した年金を受け取ることができるというものです。
この際、老齢厚生年金と老齢基礎年金は一緒に繰り下げることもできますが、別々に繰り下げることも可能です。1ヵ月繰り下げることに0.7%ずつ増額した年金を受給できます。
たとえば、妻Aさんが65歳のとき、夫Bさんはまだ62歳です。Bさんが退職金を受け取れる65歳までAさんが年金受給を3年待つ(=36ヵ月繰り下げる)と、
0.7%×36ヵ月=25.2%と、25.2%増額した年金を68歳から受け取れるということになります。Aさんが65歳から年金を受け取ると104万9,600円ですが、68歳から受け取ると131万4,099円と、年間26万4,499円(月額2万2,041円)受給額が増えます。
こうすれば、あくまで机上の計算ですが、Aさんが83歳になるまでは毎月約37万円の支出資金は確保できます。もし、Aさんが68歳よりさらに老齢基礎年金を繰下げれば、より増額した年金を受給できます。ただし、繰下げ期間中「振替加算」は支給されず、また繰下げによる増額の対象外となるため注意が必要です。
「余裕を持った老後」を送るための“最短ルート”は
また、現在の支出内容を客観的に精査すると、支出額を少し減らしても、いまの生活水準を保つことができそうです。
具体的には、
・保険の保障内容
・自家用車の維持管理費
・外食の回数
・動画配信サービスや音楽ストリーミングサービスなど、「サブスク」といわれる定額制のサービス
などを見直すことで、現在の支出額を1割程度(毎月3万円超)減らすことができます。収入を増やすことを考えるより、こちらのほうが容易ですよと伝えたところ、Aさんも同意。無駄な浪費を減らすことを決めました。
収支を見直したことで、支出だけ減らしても家計は赤字になることなく(収入:約35万円・支出:約35万円)、支出を減らしたうえに年金の繰下げ受給を行えば家計は80歳まで黒字です(収入:約35万円、支出:約37万円)。
なお、現在57歳のBさんの年収は1,000万円です。55~59歳の男性の平均給与は702万円※ですので、平均より高い給与であるといえます。
※ 参考:国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」
また、65歳以上の家計収支の平均値[図表2]をみると30万円を下回っていることから、今後の支出の仕方しだいではありますが、今後のB家の収支も平均値を上回り、余裕を持った老後を過ごすことができそうです。
老後に向けたAさんの“新たな戦略”
Aさんは、「息子夫婦にもうすぐ子どもが生まれるみたいで、自宅に孫が来るのを楽しみにしているんです」といいます。その一方で、「亡くなった義父母のもとには子どもたちを連れていかずお金ばかりせびり、自分のことばかり考えていました。反省しなくちゃいけませんね……」と苦笑い。
筆者は、「相続放棄の件は非常に残念だったかもしれませんが、お義父さまのお金を生前もらっていたということです。これからはおひとりで抱え込まず、老後に向けた新たな戦略を立てていきましょう」とエールを送りました。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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