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なにかの間違いでは…年金月17万円・74歳夫を亡くした69歳女性〈まさかの遺族年金額〉に絶望【CFPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月7日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

改定が繰り返されて複雑になった年金制度。すべてを網羅する必要はありませんが、基礎的な部分は把握しておいたほうが安心です。今回、遺族年金のしくみと注意点について、具体的な事例をもとに牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。

結婚後“職場復帰”したAさんと、専業主婦のBさん…2人の「年金額」は

現在69歳のAさん(女性)は、短大卒業後、都内の大手事務機メーカーに就職しました。結婚して2人の子どもに恵まれ、一時は会社を離れましたが、出産・育児を経て職場に復帰。その後60歳まで正社員として勤務しました。

子どもたちが成人し独立したあとは都内の一軒家に夫と2人で暮らしていましたが、先日、74歳の夫が病気で逝去。現在は、同じ家に1人で住んでいます。

そんなAさんには、学生時代の同級生で親友のBさんがいます。Bさんも2年ほど前に夫を亡くしており、そのため夫の死後の手続きなど、自らの経験を踏まえて教えてくれました。

Bさんが教えてくれた、「遺族厚生年金」の手続き

そのうちのひとつが、年金事務所で遺族厚生年金を受け取る手続きです。

夫が亡くなる前のAさんは、老齢厚生年金として139万0,800円※1(月額11万5,900円)を受給していました。一方、親友のBさんは専業主婦だったため、振替加算5万3,141円を含む老齢基礎年金を86万9,141円(月額7万2,428円)受給していました※2※1 老齢厚生年金69万5,200円+老齢基礎年金69万5,600円を併給した金額。 ※2 振替加算は、加給年金対象者の配偶者であり、かつ昭和41年4月1日までに生まれ、老齢厚生年金や退職共済年金の加入期間があわせて240月未満の人が、65歳以降(=加給年金の給付が打ち切られるタイミング以降)老齢基礎年金に生涯加算されるというもの。Bさんは昭和30年の10月生まれのため、令和6年度は5万3,141円加算される。一方、Aさんは20年以上厚生年金に加入しているため対象にはならない。

AさんとBさんの夫はどちらも74歳で亡くなっており、老齢厚生年金の受給額はともに月額17万円前後でした。

なお、厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢厚生年金の65歳以上の女性受給権者の平均受給月額は10万9,165円で、男性受給権者の平均受給月額は16万7,388円となっています。また、国民年金の平均受給月額は5万6,316円と、両家とも平均をやや上回った受給額です。

Bさんは、自身の老齢基礎年金に遺族厚生年金約103万円を加えて、約190万円の年金を受け取っているといいます。

この話を聞いたAさんは、早速必要な書類を揃えて年金事務所へ。手続き自体は滞りなく完了しました。しかし……。

専業主婦のほうがよかったの!?…年金事務所で判明した「遺族年金額」に絶望

Aさんは年金事務所の職員に印字してもらった書面で遺族厚生年金の受給額を確認。思わず書面を二度見してしまいました。

34万円!? ……Bは確か103万円くらいと言っていたはず。専業主婦だったBより働いていた私のほうが少ないってどういうこと!?)

「あの……なにかの間違いじゃありませんか?」と、職員に再度確認してもらっても、Aさんの受給額に間違いはありませんでした。

想定よりも大幅に少ない遺族年金額に絶望したAさん。今後の生活が心配になり、夫が懇意にしていたファイナンシャルプランナーである筆者のところへ相談にみえました。

Aさんの遺族年金額が、専業主婦だったBさんよりも低いワケ

Aさんは筆者に、「Bより私のほうが年金受給額は多いのですが、なぜ遺族年金受給額は逆転するのでしょうか。この年金額でこれからの生活に問題はないかシミュレーションしてほしいです」と訴えます。

そこで筆者はまず、年金事務所でもらった書面を見て、Aさんとともに遺族年金受給額の確認をすることにしました。

遺族年金のキホン

遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。故人に生計を維持されていた遺族は、故人の年金の加入状況などによって、片方か両方の遺族年金を受取ることができます。

「遺族基礎年金」は、「子のある配偶者」または「子」が受給対象者です。「子」とは、18歳になった年度(高校3年生)の3月31日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子どものことです。Aさんの子どもはすでに独立しているためこれに該当しません。

また、「遺族厚生年金」は、会社員や公務員といった厚生年金保険の被保険者が亡くなった際に、配偶者、子ども、父母、孫の順番で受給することができます。

Aさんはこの遺族厚生年金受給者の条件に当てはまり、年金事務所で手続きが完了したというわけです。

老齢厚生年金より遺族厚生年金のほうが多い場合、相当額が「支給停止」

Aさんのような、「65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権もある」という場合、平成19年4月1日以降は次のように遺族厚生年金受給額を計算します。

・自身が納めた厚生年金保険料を年金額に反映させるため、老齢厚生年金は全額支給して、遺族厚生年金は、老齢厚生年金に相当する額が支給停止(=支給されない)。

・下記①と②の受給額を比較して、高いほうを受給額とする。

①故人(Aさんの夫)の老齢厚生年金(の報酬比例部分)の3/4 

②故人の老齢厚生年金(の報酬比例部分)の1/2と、自身の老齢厚生(退職共済)年金の1/2を合算した額

※ 本記事では、老齢厚生年金の受給額と報酬比例部分の額は同額として試算する。

つまりAさんは、これまでと同様に老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計約139万円は全額受給できます。加えて、遺族厚生年金の受給額がAさんの老齢厚生年金受給額を超える場合、その超過分は「遺族厚生年金」として受給可能です。

Aさんの夫が受給していた老齢厚生年金の報酬比例部分(139万0,800円)から、Aさんの遺族厚生年金額は、104万3,100円となります。

しかし上記のように、Aさんは自身の老齢厚生年金で69万5,200円が支給されているため、遺族厚生年金は、この金額分が支給停止となってしまうのです。

104万3,100円(本来の遺族厚生年金額)-69万5,200円(支給停止額)=34万7,900円(実際に支給される遺族厚生年金額)

したがって、Aさんの遺族厚生年金受給額は34万7,900円です。年金受給額は、自身の年金受給額に遺族厚生年金を加えて、合計173万8,700円(月額14万4,891円)となります。

なお、遺族厚生年金より老齢厚生年金の受給額が高いときは、遺族厚生年金は全額支給停止となります。

まるで“働き損”?…厚生年金の加入歴がない場合の年金額

一方Bさんは、専業主婦で厚生年金の加入歴はなく、自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金の全額、190万5,791円(月額15万8,815円)を受給できます。

※ Aさんは、産休育児期間中の1986(昭和61)年3月までの5年間、20歳以上60歳未満の会社員・公務員などの被扶養配偶者で、老齢基礎年金の受給資格期間には含まれるが、年金額には反映されない「合算対象期間」があった。

通常、65歳以上で、年間158万円以上の公的年金を受給すると課税対象となりますが、遺族年金は非課税のため、AさんもBさんも課税対象ではありません。余談ですが、Aさんはあと約15万円受給額が増えれば、課税対象となり、その分手取り額が減ることとなっていました。

Aさんは、遺族年金の仕組みと自身の受給額には納得した様子。しかし、「今後の生活は大丈夫か?」という心配は払拭されません。

貯蓄を取り崩しても、100歳まで枯渇の心配なし…安堵したAさん

Aさんの現在の家計収入は主に、毎月14万5,900円の年金です。支出は夫が亡くなって以降毎月18万円と毎月3万5,000円前後赤字ですが、その分は貯蓄を取り崩しているそうです。

ただ、夫が亡くなったことで支出は減少傾向にあります。また、夫の死亡保険金と「へそくり」で、Aさんの貯蓄額は現在1,300万円ほどあることから、このまま貯蓄を取り崩しながら支出を続けても、100歳くらいまで枯渇することはなさそうです

※ 参考までに、厚生労働省「2023年家計調査、1世帯当たり1か月間の収入と支出(単身世帯)」によると、65歳以上の女性の消費支出は14万8,028円。それに国民健康保険料などの非消費支出を加え、毎月約16万円の支出となっている。

「年金のしくみをよく知る」ことも老後準備のひとつ

一連の説明とシミュレーションを受け、Aさんは、「夫が亡くなったら、遺族厚生年金を受け取れるから生活はなんとかなる」と漠然と考えていましたが、制度も私の若いときからずいぶん変わっているのですね。危なく大変なことになるところでした」と、安堵したように話されました。

年金に限らず制度改正があるときは、すぐに施行されるわけではなく準備期間があるものです。最新の情報をチェックし、自分にとって対応が必要な改正ならば、事前に対策を打っておくことが大切です。

牧野 寿和 牧野FP事務所合同会社 代表社員

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