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恨まれたくない! 父の遺産「自宅」売却金を兄弟3人で分割することになったが…禍根を残さないための対策は?【弁護士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月8日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり、相続人は長男(相談者)と2人の弟の計3名です。遺産は自宅のみであるため、相談者が自宅を相続したのち売却して売却代金を3等分し、弟2人に送金するつもりです。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「相続不動産の売却における遺産分割方法の選択」について解説します。

相続不動産の売却における遺産分割方法の選択

父が亡くなり、相続人は長男の私を含めた兄弟三人です。父の遺産は、父と私が住んでいた自宅のみなので、将来的に自宅を売却して、売却代金を兄弟三人で分けることにしました。弟たちは遠方にいて多忙なので、長男である私のみで自宅を売却し、売却代金を三等分して弟たちに送金してほしいと言われています。

紛争の予防・回避と解決の道筋

◆換価処分のために、便宜的に相続人一名への単独の登記名義にすることは可能だが、換価代金を他の相続人へ送金する行為が、税務上贈与と認定されて贈与税の負担が生じる可能性がある。これを回避するために、遺産分割協議書において換価分割による送金であることを明確にする必要がある

◆換価分割と代償分割のいずれの手法を選択するかによって、適用される税制が異なるため各自の税引き後の最終的な手取り額に差が出てしまい、不平等が生じる可能性がある。実質的に平等な配分をするためには、事前に適用される税制を調査の上、手取り額を確認する必要がある

◆相続人間で、売却時期、金額について意見がまとまらず、なかなか売却ができないという事態が生じる可能性があるので、あらかじめ、遺産分割協議書の中で、売却条件や決定権者を定めておくことが有効である

チェックポイント

1. 換価分割または代償分割の結果としての金銭支払が明記してあるかを確認する。換価分割の場合、リスクを踏まえて相続登記名義を検討する

2. 事前に、売却に伴う課税関係と各相続人の手取り額の見込みを確認し、予想外の不平等が生じないかどうか確認する

3. 遺産分割協議書に、不動産の売却方針や決定権等が定めてあるかを確認する解説

解説

1. 換価分割または代償分割の結果としての金銭支払が明記してあるかを確認する。換価分割の場合、リスクを踏まえて相続登記名義を検討する

(1)換価分割と代償分割

遺産分割において、相続した不動産を売却して、売却代金を相続人間で分ける手法としては、換価分割と代償分割の二つの方法が考えられます。

換価分割は、相続人全員で不動産を売却し、売却代金から諸費用を控除した残金を相続人間で分配する方法であり、代償分割は、特定の相続人が不動産を単独で取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。

代償分割の手法をとる場合は、当該不動産を売却しない場合が多いと思われますが、比較的早い段階で当該不動産を売却して売却代金を原資に代償金を支払う場合には、換価分割とほぼ同じ状況となります。

なお、換価分割の場合、不動産を一旦相続人全員の共有名義で登記することが多いと思いますが、相続人の一部が海外にいるなどの事情で共有名義にすると売却が困難となる場合には、換価分割の実行のために、便宜的に、特定の相続人の単独名義に相続登記をした上で(国税庁質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」でも、換価の都合上、共同相続人のうち一人の名義に相続登記ができることを前提に、贈与税がかからない旨を明記しています。後述。)、その相続人のみで売却活動をすることもできるとされています。

登記面・税務面において想定される「2つのリスク」

(2)贈与と認定されないようにする

遺産分割協議書において、長男から弟たちへの送金が、換価分割または代償分割に基づく送金であることが明記されていないと、長男から弟たちへの現金の贈与と認定され、弟たちに贈与税の負担が生じる可能性があるので注意が必要です。

なお、換価分割を選択し、長男の単独名義で一旦相続登記を入れる場合も、国税庁の質疑応答事例では「共同相続人のうちの一人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものであり、その代金が、分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはありません。」とされており(国税庁質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」)、長男単独名義の登記が換価分割を実行するための手段であることが遺産分割協議書に明記されていれば、長男から弟たちへの現金の送金について、原則として贈与税は課税されないと考えられます。

(3)換価分割のために長男単独名義にすることの妥当性

換価分割のために長男単独名義にするメリットは、換価手続を簡便、機動的に行うことができるという点に尽きますが、共有名義になっていたとしても、次男と三男から委任状を取得することで、実質的に長男一人で換価手続を進めることができるため、手続面でそこまで大きな差はないように思われます。

他方、長男の単独名義の相続登記がなされると、次男と三男にとっては、自分たちの意見が反映されないまま不動産を売却されてしまうリスクがありますし、長男にとっては、自身が単独での固定資産税・都市計画税の納税義務者となり、また、不動産に起因して第三者に損害が発生した場合には自身が損害賠償責任を負うことになるというリスクがあります。

また、売却までに長期を要した場合(もはや便宜的に単独名義にしたとは評価できないような場合)や換価代金と費用の配分が不適当な場合には贈与税が発生する可能性もあるため、長男の単独名義にすることが特別要請されているケースでなければ、相続人全員の共有登記を入れた上で換価分割をする方が、リスクが少ないと思われます。

長男の単独名義にするか否かは、登記面と税務面のリスクを事前によく確認した上で、慎重に判断する必要があります。

売却時に想定される「課税関係」に注意しなければならないワケ

2. 事前に、売却に伴う課税関係と各相続人の手取り額の見込みを確認し、予想外の不平等が生じないかどうか確認する

(1)譲渡所得税の申告・納付義務

換価分割と代償分割のいずれの方式を採用する場合でも、相続税とは別途、不動産売却時に売却対象不動産の売主に譲渡所得税が課税されるため、譲渡所得税を考慮に入れておかないと、実質的に、売却代金を平等に分けることができないという事態が発生するので注意が必要です。

譲渡所得税額は、「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)- 特別控除額(一定の場合)」で算出した「課税譲渡所得金額」に税率を掛けて計算します。

この税率は、売買が「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」のいずれに該当するかによって異なります。不動産を売却した年の1月1日現在で、売却した不動産の所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり税率は39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)ですが、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」となり税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)

です。なお、所有期間が10年を超える場合には、軽減税率の特例があり、これが適用できる場合は、課税譲渡所得が6,000万円までの部分の税率が14.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%、住民税4%)となります。

なお、復興特別所得税は、2037年まで加算されます。

(2)換価分割・代償分割の際に検討すべき税金控除・特例制度

不動産売却により発生する譲渡所得税については、一定の条件を満たすことを条件に、これを軽減することのできる制度がいくつかあります。そのうち、相続した不動産を売却する場合に検討すべき制度として、以下の制度があります。なお、これらの制度は、いずれも執筆時(令和5年7月)現在の制度であり、将来的に廃止、変更等が生じ得ますので、随時最新の情報を入手するようにしてください。

① 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、売主の居住用の不動産であること、買主が配偶者等の特別な関係ではないこと等の一定の条件を満たせば、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります(以下「マイホーム特例」といいます。)。

なお、売却時に居住していなくても、居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までであれば本特例を使うことができます。

② 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

相続した不動産を平成28年4月1日から令和5年12月31日までに売却した場合、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたことや、区分所有建物登記の建物ではないこと、相続直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと等の一定の条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円まで控除することができる特例があります(以下「空き家特例」といいます。)。

③ 相続した不動産の場合の取得費加算特例

相続した不動産を、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売却した場合、売主が不動産を相続や遺贈によって取得したこと、相続税が課税されていること等の一定の条件を満たせば、納付済みの相続税のうちの一定金額を、課税譲渡所得額算出の際の「取得費」に加算することができる制度があります(以下「取得費加算特例」といいます。)。

「換価分割」と「代償分割」それぞれのメリット・デメリット

3. 遺産分割協議書に、不動産の売却方針や決定権等が定めてあるかを確認する

(1)換価分割の場合

換価分割の場合、譲渡所得税を申告・納税しなければいけないのは、売却代金を受け取る相続人全員であり、便宜的に特定の相続人の単独名義に相続登記をして売却した場合でも、売却代金を受け取る相続人全員に申告・納税義務が発生します。

本事例のように、売却対象不動産に居住している相続人と、居住していない相続人がいる場合、そこに居住していた相続人(本事例の長男)だけがマイホーム特例を使うことができるため、次男と三男には譲渡所得税が課税されるが、長男には課税されない(あるいは、次男と三男よりかなり低額になる)という事態が生じ得ます。

そのため、遺産分割協議書の中で、単に「換価の上、売却代金を各自が1/3ずつ取得する」という内容で合意してしまうと、手取り金額を比較した場合には不平等が生じるので、それを避けるためには、あらかじめ、各自の譲渡所得税額を検討した上で、三者で分配する割合や金額を調整する必要があります。

他方、売却対象不動産に居住する相続人がいない場合は、空き家特例を使うことができるかを検討する必要があります。

なお、譲渡所得税の計算に当たっては、売却代金を取得する相続人全員について、一定の条件を満たすことで取得費加算特例を使うことができ、全員について相続税の一部を取得費に加算することができます。

(2)代償分割の場合

代償分割の場合、譲渡所得税を申告・納税しなければならないのは、遺産分割で売却対象不動産を取得した相続人のみであり、代償金を受け取るだけの相続人には譲渡所得税は課税されません。本事例でいえば、長男のみが譲渡所得税の申告・納付を要し、その際に、長男が一定の条件を満たせば、マイホーム特例と取得費加算特例を適用することができます。

長男が、マイホーム特例や空き家特例の適用を受けることができない場合や、特例の適用を受けてもなお譲渡所得税が発生する場合には、予想外に長男の手取り金額が減り、不公平が生じるため、あらかじめ、長男が負担する譲渡所得税を検討した上で、代償金額を定めておく必要があります。

なお、譲渡所得税の計算に当たっては、売主となる相続人(本事案では長男)についてのみ、一定の条件を満たすことで取得費加算特例を使うことができ、相続税の一部を取得費に加算することができますが、長男が、次男と三男に払った代償金を取得費に加算することはできません。

売却手続を円滑に進めるコツ

(3)相続税における小規模宅地の特例の適用と売却時期

本事例では、長男が、被相続人の相続開始の直前に、被相続人と自宅で同居しているため、長男が相続で自宅土地を取得する場合、一定の条件を満たせば、自宅土地の一定の面積までを、相続税の課税価格の計算上減額する特例があります(以下「小規模宅地の特例」といいます。)。

本事例で、小規模宅地の特例が適用されると、相続税の課税価格の計算に当たり、長男が取得した自宅土地の相続税評価額が80%減額されます。

例えば、自宅土地の相続税評価額すなわち路線価が1億円の場合でも、2,000万円で評価されるため、大幅に相続税を圧縮することができます。

しかしながら、小規模宅地の特例を適用するためには、原則として、自宅土地を取得する者(ただし、配偶者を除きます。)が、被相続人の相続開始時から相続税申告期限(相続開始から10か月)まで、同土地を保有し続けていることが要件となるため、小規模宅地の特例を使う場合は、相続税の申告期限後でなければ、自宅土地を売却できないことに注意が必要です。

そのため、自宅土地を売却して相続税納税資金を調達するということができないので、長男は、一旦は納税資金を別の方法で用意する必要があります。

(4)売却手続の円滑化

一般に、不動産については、その売却時期によって売却代金に変動が生じ得ることから、換価分割の場合、売主となる相続人の間で不動産の売却時期や代金をめぐって意見が対立すると、売却手続が事実上進まないという事態が考えられます。

このような事態を避けるためには、遺産分割協議書の中で、長男に売却に関する決定権がある(次男と三男はこれに異議を述べない)ということを明記したり、売却の期限を合意しておくといった対応が考えられます。

代償分割の場合、長男に不動産を売却しなくとも代償金を支払うだけの資力がある場合には、長男は、代償金を支払った後、自分の望むタイミングで売却を実施することができます。

他方、代償金支払のために不動産を売却しなければならないという場合には、不動産の売却時期が代償金の支払時期に影響を与えるため、不動産売却の時期を見据えて、代償金の支払期限を設定する必要があります。

〈執筆〉 大畑敦子 オリゾン法律事務所 弁護士 1995年3月 慶應義塾大学法学部法律学科 卒業 1999年4月 最高裁判所司法研修所 入所(第53期) 2000年10月 東京弁護士会に弁護士登録 小野孝男法律事務所(現弁護士法人小野総合法律事務所)入所 2005年~2017年 国立大学法人九州大学にて非常勤講師(財政法特別講義担当) 2011年1月 同期弁護士と共にエトワール総合法律事務所 設立 2011年~現在 東京地方裁判所鑑定委員(借地非訟事件) 2022年5月 オリゾン法律事務所 開設 〈編集〉 相川泰男(弁護士) 大畑敦子(弁護士) 横山宗祐(弁護士) 角田智美(弁護士) 山崎岳人(弁護士)

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