もしトランプ政権になれば その2 NATO離脱ではない
Japan In-depth / 2024年3月21日 11時0分
トランプ大統領は2019年6月には防衛費増額に応じないドイツに対してしびれを切らし、ドイツ駐留の米軍約1000人をポーランドに移した。ドイツ側のメルケル首相らへの抗議の措置だった。ドイツ側は衝撃を受け、防衛費増額への前向きな姿勢をみせ始めた。トランプ大統領のこの措置もNATO離脱ではなく、米側の政策に協力的なポーランドへの支援の強化だった。
そもそもアメリカにとってはNATOは条約に基づく同盟だから議会の3分の2の承認がなければ、破棄や撤退は難しい。トランプ政権はその種の実際の動きをみせたことはツユほどもなかった。
日本側としてもこの種の民主党傾斜メディアのゆがめ報道には十二分に注意すべきである。日本の主要メディアやアメリカ通とされる識者の多くがこの「トランプ次期大統領NATO離脱説」を事実であるかのように伝え始めたのだ。
この種の主張には次期トランプ政権を孤立主義だと断じる要素も含まれる。だが孤立主義が国際的な脅威や危機にも背を向けるという意味ならば、これまた現実に反する批判だといえよう。トランプ政権は中国の脅威、とくに軍事拡張に対して歴史的とも呼べる画期的な対決、封じ込めの政策をとったからだ。
トランプ大統領は就任してまもなく、オバマ政権にいたる歴代政権の対中関与政策の失敗と放棄を宣言した。そして「強いアメリカ」の標語の下に、国防費を毎年、10数%も増す大軍拡で中国の軍事攻勢を抑えたのだ。
ロシアに対してもアメリカ主導の国際秩序の破壊者として対決を誓約した。北朝鮮にはオ政権の「戦略的忍耐」策を放棄し、軍事手段を強調する「炎と怒り」戦略を宣言した。
とくに中国に対するトランプ大統領の姿勢で注目すべきは2018年1月に発表された「国家防衛戦略」での誓約だった。この種の戦略文書は日本と異なり、時のアメリカ政府の実際の防衛の政策や支出を拘束力をもって特徴づけている。トランプ大統領はその誓約として対中戦争の防止方法について以下を言明したのだ。
「中国との戦争を防ぐ最善の方法は想定される対中戦争への対応を準備して、勝利できる能力を保つことだ」
まさに「力による平和」そして「抑止」である。この基本姿勢はトランプ政権の二期目でも変わることはないだろう。そしてこの軍事重視こそいまのバイデン政権の思考とは根幹から異なる点だといえよう。
(その3につづく。その1)
*この記事は雑誌の「月刊 正論」2024年4月号に載った古森義久氏の論文「トランプ氏に関する誤解・歪曲を正す」の一部を書き替えての転載です。
トップ写真:スウェーデンのNATO加盟式典にて。NATO本部での国旗掲揚式に臨む、(左から)スウェーデンのアクセル・ヴェルンホフNATO大使、ウルフ・クリスターソン首相、NATO事務総長イェンス・ストルテンベルグ、スウェーデンのビクトリア皇太子妃、ミカエル・ビデン最高司令官(2024年3月11日、ベルギー・ブリュッセル)出典:Omar Havana / GettyImages
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