国連総会、安全で信頼性あるAIの開発や利用に向けた決議案を初採択、米国が主導(米国、EU、日本)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年3月25日 15時40分
米国ニューヨークで開催された国連総会で3月21日、人工知能(AI)の開発や利用などに関する決議案が採択された(注)。決議案は米国が主導し、日本を含む120以上の国・地域が共同提案した。国連がAIの規制に関する決議案を採択したのは今回が初めて。
決議案は、非軍事用途のAIシステムが、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた進展に寄与する可能性がある一方で、その不適切または悪意を持った開発や利用などは、SDGsの達成を脅かす可能性があるとの認識を示した。こうした課題に対応するために、国連加盟国・地域が産学官で連携しつつ「安全で、安心、信頼できるAIシステム」に関する規制やガバナンスの手法・枠組みを策定することを促した。また、AIの技術開発レベルが各国間・各国内でさまざまであり、デジタル格差があることを踏まえ、先進国から開発途上国に対するキャパシティビルディングおよび技術・資金支援を強化することも併せて示した。さらに、人々がオフラインで有するのと同じ権利がオンラインでも保護されなければならないとして、AIの開発や利用などにおいて、人権と基本的自由を尊重・保護・促進することを確かにすることを強調している。
米国政府高官は同日に、相次いで声明を発表した。カマラ・ハリス副大統領は声明で、「過去の技術革新では、その恩恵が公平に配分されず、一部の人が不利益を被ることがあまりにも多かった。今回の決議は、全ての国がAIの恩恵を得るとともに、そのリスクを管理できるようにするための前進に向けた道筋を示すものだ」として、決議案採択の意義を強調した。国家安全保障会議(NSC)のジェイク・サリバン大統領補佐官も声明で、「安全で、安心、信頼できるAIシステムを育むための歴史的な一歩だ」「この技術が急速に発展する中で、われわれは国際連携を強化し、AIの広範囲に及ぶ影響に対応していく」と述べた。
なおEUでは、AIのリスクに応じた規制案が、2023年12月にEU加盟国の閣僚理事会と欧州議会の政治合意を経て(2023年12月13日記事参照)、2024年3月13日に欧州議会で可決された。また、米国ではジョー・バイデン大統領が2023年10月に、AIの開発や利用に関する大統領令を発令した。同大統領令は、商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)でAIの安全性に関する基準策定に取り組むとしたほか、国家安全保障上の観点から先端AIモデルの開発やセキュリティー対策などについて商務省への報告義務を課す(2023年11月1日記事参照)。他方で、米国連邦議会では、下院監視・説明責任委員会のサイバーセキュリティー・情報技術・政府イノベーション小委員長のナンシー・メイス議員(共和党、サウスカロライナ州)が「私が産業界なら、不必要な負担を強いる大統領令には絶対に異議を唱える」と述べるなど、野党の共和党を中心に反発の声も上がっており(政治専門紙「ポリティコ」3月21日)、議会での包括的なAI法制定の道筋は見えていない。
(注)全加盟国・地域の同意により、無投票で採択された。
(葛西泰介)
(米国、EU、日本)
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