性的魅力は強み! 戦うばかりの男達がどうにも勝てそうにない鳥山明作品の「女性像」
マグミクス / 2024年4月29日 21時25分
■言われてみれば「草食系男子」ばかりかも…?
世界的に大ヒットした『ドラゴンボール』を筆頭に、鳥山明先生は多くのマンガ作品をのこしました。その作品には超人的なパワーを持つ男性主人公が数多く登場し、大冒険や熱いバトルを繰り広げています。一方、作品内の女性キャラクターは、どのような描かれ方をしているでしょうか。作品を横断的に俯瞰すると、女性キャラと、彼女たちに対する男性の態度についての傾向のようなものが見えてきました。
●物理的パワーに特化した男性主人公
鳥山ワールドにおいて『ドラゴンボール』の「悟空」に代表される男性主人公の多くは、圧倒的な戦闘力の持ち主です。星をも砕く悟空を筆頭に、『騎竜少年』の「唐童(たんとん)」や『トンプーの大冒険』の「トンプー」、『貯金戦士キャッシュマン』の「ジオラ」、『SAND LAND』の「ベルゼブブ」(保安官の「ラオ」とダブル主人公)など、枚挙に暇がありません。これらの作品では超人が悪を倒すという王道のストーリーが展開されます。
彼らには戦闘力以外にも以外な共通点があります。それは女性に興味を持つ年齢に達していないか、あるいは女性に対して全く興味がない(アセクシャル)か、ほとんど関心を持たないという点です。
悟空にお色気は通用しませんし、ジオラは毛の生えた地球人が気持ち悪いとまで言っています。トンプーは子供のサイボーク(作中表記)なので色気を理解せず、ベルゼブブも子供の悪魔です。そもそも『SAND LAND』には女性がほとんど登場しません。
鳥山ワールドの超人主人公たちの関心事は異性獲得ではなく、冒険や自己研鑽(修行)、次なる強敵との戦いに向けられています。彼らの冒険心や戦闘力が物語をドライブしていく原動力になっているのは間違いないでしょう。
■性的魅力に自覚的で賢い女性たち
確かにブルマは、バトルしなくても強キャラなイメージかも。「S.H.Figuarts ブルマ」(BANDAI SPIRITS) (C)バードスタジオ/集英社・東映アニメーション
冒険やバトルに夢中で性的に淡白な男性に対し、鳥山ワールドにおける多くの女性は自身の性的なパワーに自覚的です。『ドラゴンボール』の「ブルマ」はパンツを見せて悟空が所持している「四星球」を譲り受けようとしていましたし、「亀仙人」の前では「三星球」をもらうために自らスカートをたくし上げていました(この時、パンツを穿いていなかったのは誤算でしたが)。
『トンプーの大冒険』でも、偵察隊員の少女「プラモ」はフリルのついたミニスカートを身に着けて「敵の宇宙人はきっと私のお色気にまいっちゃうわ! そしてスキをみて宇宙船をいただくのよ」などと発言しています。彼女たちは自分の性的魅力が強力な強みになることを十分に理解しているのです。
では鳥山ワールドの女性は単なる性的魅力のシンボルであり「かわいい」だけの賑やかしなのか、というと、そのようなことはありません。ブルマは高精度の「ドラゴンレーダー」を発明し、「スカウター」や宇宙船を修理できるほど賢く、行動力もあります。彼女がいなければ「ドラゴンボール」を見つけられませんし、「ナメック星」へ航行することも出来なかったでしょう。戦闘力に乏しくても物語において欠かすことの出来ない重要な役割を担っているのです。
またブルマに代表される鳥山ワールドの女性キャラは、超人的パワーを持つ男性キャラが行動を起こすためのきっかけやモチベーションになっているケースが多いです。
『ドラゴンボール』では、願いを叶えるドラゴンボールを探すという目的を持ったブルマが、「パオズ山」で暮らしている悟空と出逢ったことで大冒険が始まりました。鳥山ワールドにおいて、ストーリー上の障害を粉砕する推進力が男性キャラにあるのは間違いありません。しかし大抵の場合、男性のスイッチをいれたり行動の方向づけをしたりするのは女性です。
●男性キャラが淡白なのはバランス調整か?
このように男性キャラと女性キャラの役割分担が、かなり明確に描かれている鳥山ワールドですが、それは女性が従属的な立場に押し込められているという意味ではありません。むしろ鳥山先生は女性の賢さや性的魅力の圧倒的なパワーを認めています。だから惑わされてしまわないよう、男性主人公を淡白にしているのかもしれません。性的魅力パワーは極めて強力ながら、それを認める相手にしか通用しないからです。
その良い例が『トンプーの大冒険』です。宇宙人に捕まった少女「プラモ」はパンツ丸出しで色仕掛けを試みましたが全く効果がなく、それどころか食べられそうになっていました。もしも相手が亀仙人や「ヤムチャ」、「海苔巻千兵衛」だったら、プラモの策略は成功していたでしょう。
鳥山明先生は男性主人公の性的志向を淡白にすることで、女性へのアクセスを制限しました。「週刊少年ジャンプ」の少年マンガという掲載誌の都合もあったと思われます。その結果、「男性らしさ」のベクトルが強さの追求や冒険に集中して圧倒的スケールの名作が生まれたのかもしれません。
鳥山ワールドの作品群を読み比べてみると、鳥山先生の初めての長編マンガ『Dr.スランプ』は、例外的な役割分担をしている作品だといえるでしょう。
(レトロ@長谷部 耕平)
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