能登半島地震:国境なき医師団、輪島市で「心のケア」の活動を開始
国境なき医師団 / 2024年2月2日 14時47分
国境なき医師団(MSF)が地震で被災した石川県輪島市に派遣した「心のケア」チームが、現場での本格的な活動を始めた。避難所などで被災者の心理面のサポートを行っている。MSFは能登に、活動を統括するプロジェクト・コーディネーター1人、臨床心理士1人のチームを1月25日に派遣。地元の自治体や医療ネットワークなど各方面と情報交換してニーズなどを調査し、準備を進めていた。
輪島市で活動を開始
1月25日に東京を出発したチームは新潟県長岡市、石川県金沢市を経て、28日に輪島市に到着。行政・医療ネットワークを含む各方面と情報交換を行った後、避難所での心のケアのニーズを確認した。被災した人びとの中には、希死念慮のある人、飲酒で気を紛らわそうとする人などもいるといい、関係機関と調整し、避難所で支援を始めることとした。
チームは29日に、災害派遣精神医療チーム(DPAT)や行政担当者らと状況を共有。避難所の一つで、臨床心理士の福島が外国人被災者のカウンセリングを行った。石川県によると、同県内には約1万6000人(2022年末現在)の外国人が暮らしており、うち技能実習か特定技能の在住資格を持つ人が計約5600人と最も多い。こうした外国人の支援も、今回の地震での課題となっている。
また、別の避難所でも被災者のカウンセリングを行った。その後も連日、各地の避難所などを訪問し、現地の状況を確認しながら活動を続けている。
プロジェクト・コーディネーターの川邊は活動の状況を次のように語る。
「避難所での個人カウンセリングやグループセッションなどを始めています。地震から1カ月が経ち、長い避難生活での肉体的な疲労からつまずいて転倒してしまったり、精神的に疲労している人も多くいるようです。避難生活を続ける方々のストレスの高さが伺えます」
被災地で必要な心のケア
災害の直後は急性ストレス障害(ASD)になりやすく、不安定な心の状態がアルコール依存やケンカなどにつながるケースもある。MSFは、世界各地で紛争や自然災害、避難生活、性暴力などに直面した人びとに心のケアを提供。カウンセリングや心理・社会的支援などを通し、心の健康に影響を受けた人びとが、感情をコントロールし、支援ネットワークにつながることができるようサポートを行っている。
輪島市でも、避難所に避難している被災者を対象に、グループや個人での心のケアのセッションを行う予定だ。さらに不眠不休で被災者の支援をしている自治体職員、病院スタッフ、避難所の運営に当たっている人びとの心理面のサポートも予定。カウンセリングの結果必要であれば、患者の症状に応じて精神科専門医療機関や入院診療のある専門施設などに紹介を行う。
活動に当たっての思い
プロジェクト・コーディネーター 川邊洋三
2011年の東日本大震災で、MSFの第一陣として発災の翌日に東北に入り、3カ月間活動しました。当時、行政の職員の方々が同僚や身内の方を亡くしながら、休みなく窓口で働いていた姿が忘れられません。誰かを助ける仕事をして皆に頼られている方たちが、自分自身については「助けてほしい」という声を上げられずにいることを、強く感じました。
今回の活動では、避難所に避難している方のみならず、不眠不休で被災者の支援に当たっている自治体職員や病院スタッフ、避難所の運営を行う方々の心理面のサポートも計画しています。
MSFのご支援者をはじめ多くの方々が能登に思いをはせていらっしゃると思います。皆さまの気持ちを現場で支援の形にして、被災した方々を手助けできるよう取り組んでまいります。
臨床心理士 福島正樹
震災からおよそ1カ月が経って急性期が過ぎ、けがなどの目に見える傷から次の段階として、心理的な支援へのニーズが高まっています。
コミュニティがバラバラになって孤立している方や、「贅沢は言っていられない」と、声を上げずにいる方も多くいらっしゃいます。お話を聞き、カウンセリングを通して、話すことで気持ちが軽くなったなと感じてもらえるよう、心理的な負担を軽くするお手伝いできればと思います。
人と人、人とコミュニティ、そして人と医療をつなぎ、点を円につないでいきたいと考えています。
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