ISは復活し、イスラム過激派が活性化...モスクワ劇場テロで狼煙を上げた「テロ新時代」を地政学で読み解く
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月12日 17時37分
中央アジア諸国など周辺の国々も慎重姿勢を取りつつタリバン政権に関わり始めている。これらの国々は地域紛争が再燃し、過激なイデオロギーが広がるのを防ぐために、タリバンを緩衝材として利用したいのだ。
パキスタンは長年タリバンのパトロンだったが、自国に拠点を置く「パキスタン・タリバン運動」(TTP)とは以前から交戦状態にある。一方インドは、タリバンと付き合うことの戦略的利益と長期的コストをてんびんにかけ始めたところだ。
タリバンのような武装組織が政治的正統性を獲得することは、今や世界的な潮流になりつつある。例えばイスラエルのパレスチナ自治区ガザを揺るがすイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦争。発端は昨年10月にハマスが仕掛けた残酷な奇襲攻撃だったが、今ではハマスの言い分が国際社会で一定の支持を得ている。自分たちはテロ組織ではなく、パレスチナ解放を目指す革命的な勢力だというハマスのナラティブ(語り)が受け入れられたようだ。カタールに拠点を置くハマスの政治部門の指導部は、モスクワで起きたテロを非難する声明まで出した。
イスラム過激派のテロ組織が別のイスラム過激派組織が行った残虐なテロ行為を非難する──そんな茶番がまかり通るほど、今の世界は愚かしい状況に陥っているのだ。
ハマスの政治部門の指導者たちは支援拡大を求めてイランとロシアを訪問。中国は戦闘中止を呼びかけているが、いまだにハマスを名指しで非難することを控えている。中ロとイランは程度の差はあれ、アメリカの影響力と覇権を切り崩すためなら、ハマスのような武装組織とも喜んで手を組む、ということらしい。
9.11同時多発テロ後に生まれ、「グローバルな対テロ戦争」を支えてきたテロ対策の強固な国際協力の枠組みは今や急速に瓦解しつつある。ロシア政府は15年までアフガニスタンに軍事物資を運ぶNATOの輸送機が自国の領空を飛ぶことを許可していたが、今ではそんなことは考えられない。
ISのような組織にとって、これは願ってもない状況だ。覇権を争う国々の多くはISを安全保障上の脅威と見なし、軍事的解決が必要だと考えている。だが覇権争いの激化で世界は分断され、深い亀裂に引き裂かれている。その巨大な裂け目こそテロ組織がぬくぬく育つ温床となる。
「自由の戦士」として勢力拡大するテロリスト
こうした「新しい現実」の下では、テロとの戦いで一致団結した効果的な国際協力の枠組みなどとうてい生まれそうにない。
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