【スニーカー解説】「シャネル」「グッチ」「ヴィトン」続々…ハイブランド参入で市場変化も「顧客層はほとんど一致しない」
ORICON NEWS / 2024年4月17日 6時0分
スニーカーをあらゆる側面から解説した『スニーカー学』(KADOKAWA刊)が発売された。著者は、スニーカーショップ「atmos」創設者で、スニーカービジネスの表と裏を知り尽くす業界のキーパーソンとしても知られる本明秀文氏。二次流通、プレ値、SNS消費 インバウンド 投資 NFT 真贋鑑定 コラボ テック系といったキーワードをもとに、スニーカーブームのからくりや、「投資財」としての役割なども解説する。同書から、ハイブランドが続々と参入した90年代以降の市場の変化について解説した内容を、一部抜粋して紹介する。
【画像】「プーマ×アレキサンダー・マックイーン」40万円のシューズ
■プレイヤーの増加によるスニーカー市場の変化
約10年ほど前までのスニーカー市場は二大巨頭である「ナイキ」と「アディダス」を筆頭に、その他のブランドが続くという状況で、いわば特定のブランドによる寡占状態でした。そのため「ナイキ」が売れている時は「アディダス」が不調で、残ったパイのなかで「プーマ」が売れたり「ニューバランス」が人気を博したりという形でパイの取り合いをしていました。
潮目を変えたのが、ハイブランドのスニーカーのリリースです。
98年に「ジルサンダー」が「プーマ」とコラボをおこない、その後も「シャネル」のランウェイに「リーボック」のポンプフューリーが登場するなどハイブランドが徐々にスニーカー市場に接近してきましたが、その流れを大きく変えたのが「アレキサンダー・マックイーン」が06年に「プーマ」とコラボしたコレクションです。
その後、2015年に「ヴェトモン」を営むデムナ・ヴァザリアをデザイナーに据えた「バレンシアガ」がダッドスニーカー(※)で大成功を収めたのを受け、「グッチ」や「ルイ・ヴィトン」などのハイブランドが次々とスニーカー市場に参入してきたのは記憶に新しいところでしょう。
そして特徴的なのが、メゾンブランド(※)が独自にスニーカーを仕立てるのではなく、既存のスニーカーメーカーと共同でコレクションを展開している点です。
「ナイキ」は「ルイ・ヴィトン」と、「アディダス」は「プラダ」や「グッチ」、「バレンシアガ」、「リーボック」は「メゾン マルジェラ」や「シャネル(ファッションショーのランウェイ用のみで未発売)」といった風に、主要スニーカーメーカーがほぼすべてハイブランドとコラボするような状況に一気に変わりました。
ハイブランドが参入してきた結果、今のスニーカー市場がさらに盛り上がったかと言うと、必ずしもそうではない。何故なら、それらのハイブランドが作るスニーカーと既存のスニーカーメーカーが抱えている顧客層はほとんど一致しないからです。
先日、某ハイブランドがニューヨークで開催した展示会に参加しましたが、スニーカー1足の値段が4000ドルを超えていて、さらに年間1000万円ぐらいそのブランドのアイテムを買うお得意様だけにしか売らない。そうなるとバイヤーも顧客も「見るだけでいいや」と半ば諦めてしまうものです。
なにより、みんなが買える価格だけれど自分しか持っていない、というのがスニーカーマニアの心を掴むものです。しかし、ハイブランドのスニーカーはそうではない。あくまで一部の富裕層を対象として売り買いされるものであり、ある意味で未公開株と同じ仕組みと言えるでしょう。
ただし、既存のスニーカーファンに支えられてきた市場に加えて、ハイブランドの参入によって新たな市場が誕生したことで、スニーカー市場全体の経済規模はここ数年の間で確実に拡大しましたし、新たな影響が生まれつつあります。
また、ある程度の棲み分けがなされているとはいえ、スニーカーファンでありハイブランド好きという層もゼロではありませんし、今までハイプスニーカーにしか興味がなかった顧客がハイブランドのスニーカーに興味を持って購入したり、というケースも増えてきました。
変な話ですが、以前は量販店で売られていたブランドの「クロックス」が400ドルで売り買いされるなど誰も予想もしていませんでしたが、今や当たり前になった。
つまり顧客の価値観が変わり、スニーカー市場全体の裾野や視野が広くなったように思います。
先ほどスニーカー市場は寡占状態だったため、特定のブランドの売上が好調だとその他のブランドが不調になるというシーソーゲームを繰り返していると述べましたが、プレイヤーが増えた現在はその波が頻繁に起こるようになったと感じています。
※ダッドスニーカー…直訳すると「オジさんのスニーカー」の意で、80~90年代にかけて量販店で売られていたスニーカーのように、分厚いソールを備えたスニーカーのこと。
※メゾンブランド…狭義ではパリ・クチュール組合に加盟し、オートクチュール部門を持つハイブランドのこと。広義ではトップレベルのハイブランドを意味する。
■本明秀文プロフィール
atmos創設者。元Foot Locker atmos Japan最高経営責任者。1968年生まれ。90年代初頭より、米国フィラデルフィアの大学に通いながらスニーカー収集に情熱を注ぐ。商社勤務を経て、1996年に原宿で「CHAPTER」をオープン。2000年に「atmos」を開き、独自のディレクションが国内外で名を轟かせ、ニューヨーク店をはじめ海外13店舗を含む45店舗に拡大。2021年8月、米国の小売大手「Foot Locker」が約400億円で買収を発表。スニーカービジネスの表と裏を知り尽くす業界のキーパーソン。
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