国内で7年ぶりに開催。パラアルペンスキーW杯に出場した日本選手たちの現在地
パラサポWEB / 2024年2月20日 9時57分
国内で7年ぶりに開催されたパラアルペンスキーのワールドカップ(W杯)。回転種目3戦連続4位だった、座位のトップレーサー鈴木猛史は、2023年10月から日本チームに合流したイタリア人コーチ、アレッサンドロ・インティリア(愛称サシャ)と、ゴールエリアでこんな言葉を交わしていた。
「(手を合わせるしぐさをしながら)表彰台に届かず、ごめんなさい」(鈴木)
「Don't be sorry」(サシャ)
鈴木は言う。
「自国開催の応援が力になったし、応援してくれている人たちにメダルを見せたかった。それに、成績を残せるように情熱的に指導してくれているコーチにも、メダル獲得をかなえられずごめんねと言いたい。僕も悔しいけど、コーチも悔しいと思うんです」
鈴木のモチベーションは、パラリンピックのメダルを持ち帰り、それを手にした人たちの笑顔をもう一度見ることだ2026年のミラノ・コルティナ冬季パラリンピックで3大会ぶりの金メダルを目指す鈴木。大会前の記者会見では、今シーズンのW杯前半戦を振り返り「厳しい戦いが続いているが、調子が悪いわけではない。滑りを変化させていて形ができてきたところ」と話していた。会場となったのは、サッポロテイネの山頂に近い1972年札幌オリンピック女子大回転コース。得意の急斜面で行われることもあり、今シーズン初の技術系種目の表彰台へと気勢をあげた。
海外勢の牙城を崩せ大回転は7位。回転第1、2戦は4位。そして最終日の第3戦は1本目を終えた時点で3位と好位置につけた。ライバルの一人イェスペル・ペデルセン(ノルウェー)は大会中盤から柔らかくなった雪質に苦戦し、この日は1本目で姿を消す。だが、オランダとイタリアの若手の勢いは止まらない。ニールス・デ・ランゲン(オランダ)が2本目で鈴木を抜き、鈴木は4位に。2本の合計タイムでメダルまで2秒44差だった。
最終日も1本目はリラックスして挑むことができたという。しかし、2本目は「みんなにメダルを見せたい気持ちが強すぎてスキーを楽しめなかった」と唇を噛んだ。
最初から全力で攻めなければ海外勢に差をつけられる。そんな意識が強かったのだろう。力が入りすぎたせいで、2本目は序盤でスピードに乗れなかった。
「スタートしてすぐにリズムを取らなくてはならなかったんですけど、うまく取れませんでした」
新コーチとともにW杯に参戦する日本チームの選手とスタッフそう反省点を口にする鈴木だが、収穫もあった。ひとつは、2本目を3番手でスタートしたことで「久しぶりにいい緊張感を味わえた」こと。もうひとつは、自身が想定していたよりもトップ3とタイム差が開かず、失いかけていた自信を取り戻せたことだ。メダルを目指すと公言しながらも、内心は大敗すると思っていたのかもしれない。
回転2戦目を終えた日に、「思ったよりも若い選手たちと戦えているというのは、自信にもつながっている」と前を向いていたのが印象的だった。
現在35歳。「悔しいという気持ちがあるので、まだまだ成長できる」「僕たちもまだまだやれるんだという姿を見せたい」と気持ちを新たにした元世界王者。
今後は基本である大回転の練習を増やしたい、と鈴木は話す。
「(海外勢と比べて日本勢は)きれいに滑りすぎているのかなと思う。もっと攻撃的な滑りができるようにしたい。どんどんスキーの板を下に落としていく滑りを、2年後(のパラリンピック)までに習得したいと思います」
サシャの指導を受けながら、改造中の滑りを磨いていく。
イタリアのパラアルペンスキーコーチ経験もあるアレッサンドロ・インティリア氏 2年後を見据える日本選手たち今大会の主役候補だったベテラン森井大輝も、初めて滑るテイネのコースを攻略することは難しかった。大回転は転倒し、回転でも表彰台に上がれなかった。それでも「2年後に向けての今なので。今しっかりと悔しい思いをして(2026年のパラリンピックに向けて)悔いのないように過ごしたい」と表情は明るい。
脊髄損傷による下半身まひで体を支えることが難しい森井。状態のいい選手に有利な環境下で上位をうかがった世界10都市で開催されるW杯も、後半に入り、徐々に調子を上げている。札幌大会の回転種目を振り返り「納得のいくターンは数える程度。荒れた雪(の攻略)も、ライン取りももっとうまくなりたい」と力強くコメントした。
今シーズンは高速系のほか、技術系にも力を注力している本堂杏実は、大回転で5位。回転は個人でヨーロッパカップにエントリーするなどしたが、雪不足による大会中止もあってW杯の出場条件を得ることができなかった。
「本当は出たかったですけど……。前走とはいえ回転種目のコースを滑ることができ、タイムもまずまずだった。骨盤や足元の動きなど、課題はたくさんあるけれど、得られるものがたくさんありました」
前走を務めた立位の本堂。エース村岡桃佳が夏季競技に専念する中、唯一の女子日本選手として今大会に花を添えたその本堂と共に次の世代を担う若手として期待される髙橋幸平は、大回転で15位。回転では1戦目に出場し、「急斜面ではインを突くと意識をしていたが、それをさせてくれない難しい雪だった」と課題を挙げつつ、「ゴールできたのはうれしかった」と振り返った。
男子立位のホープ髙橋はコルティナのコースも経験してモチベーションが高まっているという回転3戦に出場した青木大和もテイネのコースに苦戦。そのうち2戦はゴールできず「片斜面になっていて動きが難しかった。直前に行っていた(次回パラリンピック会場の)コルティナよりも難易度が高いと思う」と話した。
「もっとレースを積まないといけない」と課題を口にした青木世界のトップ選手が集結した札幌大会。大会最終日の電光掲示板には、名残惜しくも「Sapporo-thankyou and goodbye」のメッセージが流れていた。
「ブラインド選手の滑りは何度観ても胸が熱くなる。ぜひ生で観て欲しいと思うので、近いうちにまた日本で国際大会ができたらいいなと思います」
そう森井が語るように、世界のトップ選手たちの滑りを楽しむことができるW杯をまた国内で開催してもらえたらと願っている。
日本には選手がいないため、国内ではなかなか観ることができない視覚障がい選手の滑りtext by Asuka Senaga
photo by Takamitsu Mifune
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