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「鳥貴族より店舗数が多い」日本一の焼き鳥チェーン大吉がコロナ自粛でも強いワケ

プレジデントオンライン / 2021年1月22日 15時15分

やきとり大吉 西池袋店(筆者撮影)

新型コロナウイルスの影響で居酒屋チェーンは大打撃を受けている。そんななか、好調を維持しているのが「やきとり大吉」だ。店舗数は640店と「鳥貴族」よりも多く、焼き鳥チェーンとしては事実上日本一。ただし、どの店舗も駅から遠い不便な立地にある。その儲けのからくりをライターの石田哲大氏が解説する――。

■チェーンと個人店のいいとこ取り

「やきとり大吉」(以下、大吉)の魅力をひと言で表すと、「チェーンと個人店のいいとこ取り」ということになる。原稿を書くにあたって久々に都内の店をまわってみたが、あらためてその強みを実感した。

このご時世にもかかわらず、比較的都心に近い店は日曜の早い時間に満席。ほかの店でもカウンターには常連の年配客、ボックス席には近所に住んでいるだろう夫婦や女性同士というように、どの店もそれなりに客が入っていた。若いアルバイトスタッフの友達が彼氏を連れて飲みに来ていたり、小さな子供を連れたお父さんが焼き鳥をテイクアウトして行ったりといったほほ笑ましい姿も見かけた。老若男女が思い思いに楽しむ居酒屋のあるべき姿が、そこには存在していた。

■今後加速する3つの潮流に合致している

以前、「居酒屋チェーンはもう限界だ 『コロナ後』の酒場に起きる3つの大変化」(2020年11月16日)という記事を書いた。そのなかで今後、以下の3つの流れが加速すると指摘した。

(1)都心の繁華街立地→住宅地に近い立地
(2)大箱店→従業員の顔が見える小箱店
(3)チェーン的な店→「人の魅力」を売る店

すなわち、繁華街に店を構えた大箱のチェーン店の淘汰がさらに進む一方で、都心から離れた従業員の顔が見える小さな店に需要がシフトしていくというわけだが、この3つの潮流にぴったり合致しているのが大吉なのである。

大吉は1978年、兵庫県尼崎市に1号店をオープンして以来1000店以上を出店し、現在も640店を展開する焼き鳥チェーンである(テレビ東京系「ガイアの夜明け」、1月12日)。「鳥貴族」が622店(2020年12月末時点)だから、それより店舗数が多い。焼き鳥チェーンとしては事実上日本一だといえる。

店舗数については拮抗(きっこう)している両チェーンだが、大吉と鳥貴族の出店戦略は対照的だ。鳥貴族が都心の駅前が中心なのに対し、大吉の店舗は街中にはなく、「こんなところに?」という辺鄙(へんぴ)な場所であることがほとんどだ。これは大吉が住宅街に特化して出店するという独自の戦略を採用しているからである。

■わざわざ「不便な立地」に店を構える理由

ダイキチシステム社長の牟田稔氏は、著書『“不滅”の小さなやきとり屋 開業・成功の極意』(旭屋出版)のなかで、その立地戦略を「戦わずして勝つ」方法と称している。大吉は駅前どころか、駅の近くにすら店がない。最寄り駅から徒歩15分以上かかることも普通だ。業界では3等立地と呼ばれる場所。当然、繁華街のように集客は見込めないが、そのぶん家賃が安い。

標準店舗規模は、10坪20席程度。20人で満席の小さな店である。これなら店主1人と奥さん、あるいはアルバイトを1人使って計2人で店をまわせる。1日20人も集客すれば利益が出るという。「3等立地は不便でなんにもない」と思うのはよそ者の発想で、地元の人にとっては家の近くに思いがけず飲み屋があってラッキーということになる。住宅街ということは、人はたくさん住んでいる。そのうち一定の割合を常連客として取り込めば商売として成り立つわけだ。

焼き鳥に調味料をかける店主
写真=iStock.com/Kohei Shinohara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kohei Shinohara

この理屈はなにも大吉に限ったことではなく、町の小さな飲み屋にはみんな当てはまる。ただ、大吉が興味深いのは、それをビジネスモデルとして体系化し、チェーン展開をしたことにある。素人がいちから店を出すのは、料理の技術を習得して、経営の勉強をして、物件を探し……と、並大抵のことではない。

■少ない開業資金と丁寧な「修業」

大吉では開業にあたって、店舗を借り受ける「ユーザー方式」とオーナーとして開業する「グループ方式」の2つの方法を用意。「ユーザー方式」であれば店舗の場所は本部の指定になるが、加盟金150万円と開業資金約100万円の計250万円という少ない資金で開業することができる。毎月固定の運営費用は、家賃10万~13万円、店舗使用10万~13万円(管理費1万円含む)、ロイヤリティー3万円、大吉グリラーフィー1万円だ。

「グループ方式」であれば、初期費用は加盟金150万円と開業資金が1200万~1400万円程度。家賃は大家に直接支払い、店舗使用料はかからないという仕組みである。

また、開業前の初期研修は3カ月にもおよぶ。1カ月ごとに研修店が変わり、最初の1カ月は飲食店の基本である身だしなみや衛生管理からはじまって、包丁の持ち方、肉の切り方、串の打ち方といった技術を習得する。2カ月目にはより実践的な研修となり、最後の1カ月で研修のおさらいと、開業準備を行う。ほかのフランチャイズ店の初期研修は、せいぜい2週間~1カ月だから、大吉のそれは研修というより「修業」といっていい(以上、公式HPと前掲書による)。

■ラクして稼げないのになぜ続けられるのか

やる気さえあれば、誰でも開業できるといえるかもしれない。その一方で、物件が小さいので売り上げの上限は目に見えている。ガイアの夜明けでは「1日当たり5万円程度の売り上げで店を維持できている」という話も紹介されていた。

店を広げたり、多店化したりして大儲(もう)けしたい、あるいはラクして稼ぎたいという人にはまったく不向きなパッケージである。個人店ではないから、業種、業態を勝手に変えることはできないし、新商品を投入したりするにも縛りがあるだろう。

まじめにコツコツと営業を続けられる店主ならばいいのだろうが、それでも病気になったらどうするのか、老後の資金が本当に貯まるのだろうかと不安をおぼえなくもない。ただ、前掲書によると10年以上店を続けている店主が全体の8割にのぼるという。多くの飲食店が開業から数年のうちに閉店していることを鑑みると、その数字自体は驚異である。

ねぎまを返す店主の手元
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

冒頭で書いたチェーンと個人店のいいとこ取りと書いたが、これは店主にとっても客にとってもいえることである。店主にとっては、開業支援や営業サポートを受けられる一方で、接客マニュアルなどはなく、自分の色を出すことができるから、やりがいが大きいだろう。むろん、客が離れれば自分の責任ということになるが。

■チェーンであっても「チェーン的」ではない良さ

それがそのまま、客にとっての魅力になる。「大吉」という看板の安心感があるから入店しやすい。流行(はや)りのメニューや個性的な商品はないかもしれないが、そのぶんチェーンならではの安定した品質の酒や料理を低価格で楽しめる。それでいながら、「地元の飲み屋」でもあるから、店主や従業員と親密な関係を築くこともできる。今回まわった店でも寡黙な店主もいれば、カウンターの客に愛想よく話しかける店主もいた。それもその店次第というわけだ。

こうした店の個性を表現すること、すなわち「チェーンであっても『チェーン的』ではないこと」が、これからの酒場には求められると考える。先日、人気ラーメン店のオーナーに取材した際に「実際のところ、『何(ラーメンの味)』を提供するかより、『誰(オーナーや従業員)』が提供するかのほうが重要なんです」という話を聞いた。従業員と客の距離が近くなりやすい酒場であれば、その傾向はいっそう強くなる。

新型コロナウイルスに対する政府、自治体の施策によって、居酒屋業界はこれまでにない逆風にさらされている。そんななかでも「店がなくなってほしくない」、「店主を助けてあげたい」と来店してくれる常連客をどれだけ持っているか。それが、その店の真の実力である。地元密着の戦略を徹底している大吉の存在は、そのことをあらためて気づかせてくれる。

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石田 哲大(いしだ・てつお)
ライター
1981年東京都生まれ。料理専門の出版社に約10年間勤務。カフェとスイーツ、外食、料理の各専門誌や書籍、ムックの編集を担当。インスタグラム。

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(ライター 石田 哲大)

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