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「どうあがいても無理です」給付金コールセンターでみた非常識なオペレーターたち

プレジデントオンライン / 2021年1月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eyfoto

この夏、政府の持続化給付金をめぐってさまざまなトラブルが起きた。渦中のコールセンターには、一体どんな問い合わせがあり、どんな対応が行われていたのか。元オペレーターがその内幕を明かす――。(第4回)

■絶対に使ってはいけない言葉のはずなのに…

「どうあがいても、入電者様が給付金をもらうのは無理だと思います」

近くの席に着台していた私は、耳に入ってきた彼女の声に耳を疑いました。

どうあがいても?
もらう?

コールセンターのオペレーター、しかもコロナ禍で日々のやりくりにさえ苦しんでいる方々からの問い合わせを受けている人間ならば絶対に使ってはいけない言葉だと、彼女にはわからないのでしょうか……。

■「人選」は行われていなかったのに等しい

持続化給付金という事業は、準備期間がほとんどなく垂直立ち上げで始まっただけに、当初は制度内容そのものから末端の現場での運営にいたるまで、さまざまなほころびや矛盾がありました。

コールセンターで実務に当たるオペレーターや管理者の人選も、例外ではありませんでした。

いや、厳密に言えば、人選は行われていなかったのに等しいのです。

この手記の初回でも触れたように、私が持続化給付金コールセンターでの仕事に応募した際、派遣会社での面接も行われず、登録済みの職歴だけで採用が決まりました。

業務が始まった後、他の派遣会社からのスタッフに聞いてみると、採用までの経緯はどこも同じようなものだったそうです。コロナ禍の最中、多くの応募者との直接の対面は避ける方が賢明だし、おそらくコールセンター運営会社からは大量の人員をすぐに確保せよと発注を受けていて、選考に時間をかけている余裕もなかったのでしょう。

ただ、スタート時は不備も多かった持続化給付金の制度内容やコールセンターの運営体制が日を追うにつれ改善されていったのに対し、センターへスタッフを送り込む派遣会社の人選だけは、いつまでたっても「拙速」としか言いようのないものでした。各派遣会社は、センター運営会社からの発注に応じる形で1~2週間ごとに複数のスタッフを就業させるのですが、毎回その中には、〈どうしてコールセンターでの仕事を選んだんだろう?〉と首をひねりたくなるような人がいたものです。

■立場を利用してやたら女性に接近しようとする

私が所属する派遣会社から送り込まれたスタッフに限っても、多くの方は優秀な熟練者だったものの、唖然とするような“困ったちゃん”が少なからずいました。中でもとりわけ強く印象に残っているのは、こんな人たちです。

(以下、すべて仮名。OP=オペレーター、LD=リーダー、SV=スーパーバイザー)

・小野さん(SV、男性・50代半ば)

SVの中でも、責任者的な立場にあった人です。にもかかわらず、これがただただ呆れるばかりのトラブルメーカーでした。

まず、働く気がない。OPが入電者とのやりとりの最中、不明点が出てきて管理者の指示を仰ぐため挙手しても、他のSVやLDに命じて質問対応に行かせるだけで、自分からはまず動きません。ごくごくまれに手上げ対応することがあっても、OPの疑問に的確に答えてくれないので役に立ちません。

かといって責任者としてどんと構え、押さえるべきところを押さえているというわけでもなく、毎日定時きっかりになると、他の管理者がまだ忙しそうに働いているというのにさっさと帰ってしまいます。

顧客サポートオフィスの机の上に電話とインカム
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

そうした怠慢ぶりもさることながら、この男の何が一番問題かといえば、自らの立場を利用してやたら女性に接近しようとするのです。

■こんな人物が当初、なぜ私たち全体のボスだったのか

何人かいるお気に入りの若い女性OPを相手に、仕事そっちのけでずっと話し込むというのが彼の勤務態度のデフォルト。声をかけられた側のOPも、相手がSVなので無下にあしらうわけにもいかずしばらくはつきあうのですが、やがて彼は必ず、「業後、飲みに行こうか」と誘いをかけてくるのです。あまりにしつこいので断りきれず、一回だけほんの短い時間でいいならと応じた女性OPに尋ねてみたことがあるのですが、「話が退屈すぎて死にそうだった」とか。

さらに彼のお気に入りOPの中には、「俺が持ってるのとお揃いだから」と、とても着る気になれないセンスのTシャツをこっそりプレゼントされ、処分に困っていた女性もいました。

パワハラ、セクハラやり放題の彼の正体は、OP陣はもちろん、SVやLDの間にもすぐに広まったようです。いつの間にか管理者トップの座を降ろされ、ヒラのSVに。こんな人物が当初、私たち全体のボスだったことがむしろ不思議なのですが、他の管理者によれば、「単に一番年寄りだったからじゃないの?」だそうです。

■シャドーボクシングをしながら徘徊するのが日課

・中畑さん(SV、男性・30代前半)

眉毛の上で前髪をまっすぐ切りそろえたおかっぱ頭と、毎日取り換えているのかいないのかわからないお決まりの紺色のシャツ、最近のはやりとは真逆のダボダボのパンツ(というか彼の場合、「長ズボン」という言葉の方が似合います)を、先っぽが腰の後ろまで達しようかという長いベルトでぎゅっと締め上げた姿がトレードマーク。聞かれてもいないのに、「学生時代は野球とボクシングと沖縄空手をやっていた」と触れ回り、鉛筆のようなひょろひょろの体でシャドーボクシングをしながら私たちの派遣会社のエリアを徘徊するのが日課でした。

彼も、他の管理者たちから「使えないやつ」として疎まれていたそうです。毎日平然と遅刻してきて、勤務中には休憩時間でもないのに度々20~30分姿を消すばかりか、自分の退勤時刻が過ぎても職場を離れず、パソコンの前で意味のない暇つぶしをしたり、人目につかないパーテーションの陰で居眠りをしたりして時間をつぶし、遅刻をした分以上の残業代をしっかり稼いで帰るのですから、無理もありません。

肝心の業務知識もあやふやで、LD陣の答えの方がよほど頼りになりました。

コールセンターのデスクに電話、インカム、ノートパソコン
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

そのくせ、前職が学習塾の講師(そんな人間がなぜいきなり、コールセンターのSVとして採用されたのでしょう?)だったせいか上から人に命令する口調が抜けず、働きもしないのにそんな物言いをするものだから、周囲と円滑なコミュニケーションなど取れるはずがありません。LDやOPたちと頻繁にぶつかり、完全に浮いた存在になっていました。

■発注されているスタッフ数確保こそが、最優先事項だった

小野さんにしても中畑さんにしても、他の複数の管理者が何度も、「業務の妨げにしかならないし、職場の風紀も乱れる」と、彼らとの契約解除を派遣会社に進言したのだそうです。しかし派遣会社は、コールセンター運営会社側から発注されている毎日のスタッフ数確保こそが、最優先事項だったようです。事なかれ主義に徹して管理者たちからの言葉を聞き流し、決して二人の首を切ることはありませんでした。

もっとも中畑さんの方は9月末の契約期間満了を待たず、例によっての自身の吹聴によれば、どこかの学校法人の「ナンバー3として迎えられた」とかで、途中退職したのですが。

・大貫さん(OP、女性・30歳前後)

男女を問わずやたら“自分語り”をしたがるのが、このあたりの年代の特徴なのでしょうか。

日本生まれの日本育ちで、帰国子女ではないらしいのですが、本人曰く、外資系の企業や欧米人相手の仕事を転々として世界を飛び回ってきたそうです。でもその割に、彼女をもてはやす若い男性OP陣相手に得意げに語っている英語知識は、私でもはっきりわかるぐらい貧弱だったりします。

そして、外資系にいたから自分は日本の職場での常識に従う必要などないとでも思っているのか、とにかく勤務態度がひどいのです。電話を取っていない時は、ずっと隣りや後ろのOPと声高に世間話をしているか、座面上であぐらをかきながらパソコンでネットサーフィンをしているか(いずれも、職場の規定で禁じられていることです)。

■「どうあがいても、給付金をもらうのは無理だと思います」

時には他のOPが忙しく受電している中、ヘッドセットをしたまま勝手に電話回線を閉じ、“自主休憩”を決め込んでいたことさえありました。それらを何度管理者に注意されても改めないどころか、あとで自分をとがめた管理者の陰口を振れ回っているのだから恐れ入ります。

けれども一番唖然とさせられたのは、私の席のすぐそばで彼女が電話を取っていた時のことでした。

どうやら入電者は、自分の条件で持続化給付金の対象になるかどうかを尋ねてきたらしいのですが、いろいろ伺ってみた結果、給付対象からは外れる方であることが判明したようでした。すると彼女は、気安い口調でこう言い放ったのです。

「どうあがいても、入電者様が給付金をもらうのは無理だと思います」

耳に入ってきた言葉に、私は耳を疑いました。

どうあがいても?
もらう? 

コロナ禍で日々のやりくりにさえ苦しんでいるからこそ、給付対象となるかどうかを問い合わせてきているのに、それを「どうあがいても」と評する無神経さ。

〈人に請うて自分のものとする〉(広辞苑)ことを意味する「もらう」という言葉を、正当な権利を行使しての給付金取得ができるか否かを尋ねている他人に対して使う、日本語力のなさ。

■「名古屋って何県でしたっけ? 名古屋県?」

いずれも、コールセンターのオペレーターとして絶対に使ってはならない言葉だと、なぜわからないのでしょうか。

それから数カ月がたったある日、彼女の大声のおしゃべりが離れた場所にいた私の耳にも入ってきて知ることとなったのですが、9月の契約満了後に、外資系の自動車メーカーだか販売会社だかへの就職が決まったそうです。今も彼女がそこで大過なく職務に就いていることを、祈らずにはいられません。

・松川さん(OP、女性・40歳前後)

大貫さんとはまた違った意味で、〈他にも仕事はたくさんある中、なぜコールセンターのオペレーターに応募してきたのだろう〉と思わずにはいられない人でした。

業務に必要な基礎知識をいつまでたっても覚えようとせず、同じことを何度も管理者に聞いているばかりか、小学生レベルの一般常識も怪しい部分があるのです。いつだったか私の隣に座っている時、入電者の住所を聞いている途中でわざわざ通話を保留にしてLDを呼び、

「名古屋って何県でしたっけ? 名古屋県?」

と尋ねたこともありました。

また、OPは入電者とのやりとりが終わった後、その記録を専用ソフトに入力しなければいけないのですが、そのソフトが「突然ダウンして、入力途中だった記録が消えちゃいました」と言っては、やはり度々管理者を呼ぶのです。

■本人は自身のことを有能だと認識しているのだが…

けれど、あるLDが教えてくれたところによると、

「そっと後ろで見てたことがあるんだけど、あれは嘘。1行書いては消し、1行書いては消しを何十回か繰り返して、最後に自分でソフトを閉じて、『消えた』って言ってるだけ。文章を書きたくないのか、書くのが苦手なのか、どちらにしたってねえ」

だとか。

また、審査結果がなかなか出ないなどで不満を募らせた入電者からきつい言葉を浴びせられると、しくしく泣き出して途中早退してしまったこともありました。かわいそうとは思うものの、同時にオペレーターという仕事上、ヘビークレームは避けて通れない道でもあります。社会経験も少なからず積んできているでしょうに、何を甘えているんだか……。

それでいて本人は自身のことを有能だと認識しているようで、管理者に仕事ぶりの未熟さを指摘されると、ぶんむくれたりします。結局周囲はこの人はこういう人なんだなと、別枠扱いで多くを求めないようにしていました。

■「俺はここにいるべき人間じゃない、お前らとは違うんだ」

・五島さん(OP、男性・40代半ば)

いつもお尻を前にずらして足を投げ出し、デスクの下に潜り込んだような姿で椅子に座って入電を待っている姿が何とも異様でした。

一日中不機嫌そうな表情を浮かべ、周囲の誰とも会話を交わさず、〈俺はここにいるべき人間じゃない、お前らとは違うんだ〉といった雰囲気を漂わせて、休憩時間もいつも一人でいたものです。孤高を気取るのは御勝手に、なのですが、〈あなただってこの寄せ集め的な職場に生活の糧を求めてきたんじゃないの?〉と一度尋ねてみたいと考えていたのは、私だけではありませんでした。

こんな調子ですから、入電者への口調が事務的で冷淡だったのは言うまでもありません。その一方で感情の沸点がかなり低いのか、はたまたプライドばかりが肥大しているのか、電話対応や入電記録の書き方について管理者に何か注意や確認をされると、火がついたように食ってかかるところを何度も見ました。でも彼の残す記録の文章はわかりにくく要領を得ないため、いつも管理者がため息をつきながら、あとで修正を加えていたのですが……。

かつて企業に勤めていて退職し、次の仕事が見つかるまでの腰掛けでオペレーターでもやるか、と応募してくる中年男性によくいるタイプです。

・大神さん(OP、女性・30代半ば)

以前は持続化給付金の審査部門で勤務していたそうなのですが、その割に基礎的な知識もあやふやで、間違った案内を連発。入電者への言葉遣いがぞんざいである上、すぐ感情が高ぶって声が大きくなるので、〈仕事に差し支える〉と彼女の横に着台するのを避けていたOPは少なくありませんでした。こんな人が、きちんと審査業務をこなせていたのでしょうか……。

■「特許でひと山当てて10億円の貯えがある」

・谷崎さん(OP、男性・60代後半)

派遣社員ばかりの職場では、互いの過去がわからないのをいいことに、笑ってしまうような虚勢を張る人物に時々出会います。彼はその典型でした。

配属されるなり会う人ごとに、

「特許でひと山当てて10億円の貯えがある。悠々自適の生活なんだが、カミさんに『このままだとあんたは、世間ってものをずっと知らないままになる』と尻を叩かれたもんだから、社会勉強で働きに来た」

という意味のことを関西弁でかましてくるのです。しかしでっぷり太った体にまとっている服はどれもヨレヨレで、白髪頭はぼさぼさ。話す内容はまったく知性というものを感じさせず、とてもじゃないですが特許で財を成した資産家には思えません。

それだけならただこちらが距離を置いていればいいだけのことなのですが、この御老体がはた迷惑なのは、何をやるにも我流でマニュアルや管理者の指示通りにやれない上、とにかく粗野なのです。

問い合わせに対して、資料にも当たらずうろ覚えの知識で適当に答えたり、誤案内をしてしまったり、勝手に何の根拠もない個人的意見を付け加えるなどは日常茶飯事。文章力もおぼつかないようで、受電記録をデータベースに残す際、大事な根幹部分が抜けていることがほとんどだそうです。しかも、それらを毎日のようにLDやSVに注意されてもどこ吹く風でまた同じミスを繰り返すだけでなく、一日に何度も落ち度が続いて管理者に強めに注意されたりすると、逆ギレして怒鳴り返す始末。その日の職場の雰囲気まで悪くなってしまいます。

■「いえ、私はあなたを馬鹿にしたりはしておりませんよ」

さらに、ものの言い方が根本的に無礼で尊大なので、入電者をしょっちゅう怒らせてしまうのです。その上、電話の向こうの相手にオペレーターとしての言葉遣いを咎められると、

「いえ、私はあなたを馬鹿にしたりはしておりませんよ」

などと平然と反論したりするものだから火に油を注ぐ形になり、結局は対応交替した管理者が電話越しに平身低頭する羽目になってしまいます。

オペレーターも管理者も匙を投げていた人物でしたが、彼も派遣会社からクビを切られることなく、9月末の契約満了まで勤め上げたのでした。夫人の助言のような(それが真実なら、ですが)、世間を知る機会になったとはとうてい思えませんが……。

こうした人たちが、事業者を救済するための国家事業のコールセンターで、入電者からの質問に答えたり、オペレーターに指示を与えたりしていたのです。

新しいコールセンターができたこともあり、旧センターは9月以降、既存の申請者専用の窓口となりました。10月からは規模も縮小され、一部のOPや管理者だけが契約期間を延長して残留しました。

その中には、今回挙げたスタッフたちの中の数人がまだ名を連ねていて、引き続き日々の業務に当たっているのだそうです。

(元オペレーター 飯島 じゅん)

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