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「プロテインを飲んではいけない」健康のために運動する人に多い根本的勘違い

プレジデントオンライン / 2021年5月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nutthaseth Vanchaichana

患者数が2100万人を超えて糖尿病以上に多くなっている「新・国民病」がある。「慢性腎臓病(CKD)」だ。発症すると様々な病気の死亡率が平均4倍に上昇し、新型コロナをはじめウイルス感染症の悪化リスクも高まる。一度人工透析になれば、一生やめられない。「実は、人間ドックや健康診断では予兆を捉えることができないのです。働き盛り世代は一刻も早く対策が必要」と、20万人の患者を診た牧田善二医師が警鐘を鳴らす──。(第4回/全6回)

※本稿は、牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「プロテインを飲むと腎臓が悪くなる」は本当か?

一般の人が「良いつもり」で積極的に摂取しているものの中には、腎臓を悪くするものがあります。その代表格が「プロテイン」です。

私は、プロテインについて強い危機感を持っており、あちこちで繰り返し発信しています。というのも、多くの人が「タンパク質をたくさん摂ることは健康に良い」と信じ、しかも「プロテインでタンパク質を摂ればより効率的だし、筋力の低下も抑えられる」と、積極的に摂取しているからです。

かつては、ボディビルダーなど一部の人が用いていたプロテインは、今では誰でも簡単に手に入るようになりました。溶かして飲むパウダータイプに限らず、棒状のバーやゼリーなど、より手軽に摂取できる形になってコンビニエンスストアでも売られています。それを食事代わりに口にしている人もいます。

こうした状況にあって、私がその危険性を説くと、疑問を呈(てい)されたり、強く反発されることもあります。

「牧田さんがすすめる糖質制限を行えば、タンパク質が多くなるのに、どうしてプロテインはダメなの?」
「原料は牛乳や大豆など天然のもので、それを摂るのがなんで良くないのだ!」

■人工的なタンパク質が腎臓を悪くする

まず知っておいていただきたいのは、私たちが食事の肉や魚、豆腐などから摂取するタンパク質(=プロテイン)は極めてわずかだということです。

国の定めた1日の推奨摂取量は、男性で60グラム、女性で50グラムとされています。しかも、これでも必要量より10グラム多く設定されています。一般の人が必要とするタンパク質はそもそも少なく、運動したからといって、あえて「補充する」必要などありません。

以下、3つのことを明言しておきます。

①筋トレをしてもタンパク質を摂取する必要はありません。
②タンパク質を摂取しても筋肉はつかないし、運動のパフォーマンスも上がりません。
③タンパク質を摂りすぎることで腎臓を悪くします。

とくに、自然の食べ物からではなく、人工的につくられた粉末やゼリー、液状のタンパク質(プロテイン)、アミノ酸は避けたほうがいいのです。たとえ、それが牛乳や大豆からつくられたものでも、同じく腎臓を悪くします。

実際に、私のクリニックでも、腎臓病のリスクをはかることができる検査である尿アルブミン検査を行い、その値がいきなり上がった患者さんに話を聞くと、「スポーツクラブですすめられたプロテインを飲み始めた」というケースがありました。すぐにやめてもらうと、また元に戻ってほっとしましたが、飲み続けていたらと思うとぞっとします。

■「運動したらタンパク質」は致命的な間違い

私たち医師が学生時代に必ず習う科目に「生化学」があります。化学式をいじくり回す退屈な内容であるため、多くの医学生から嫌われています。

ところが、私は生化学が大好き。今も『リッピンコットシリーズ イラストレイテッド生化学』などの専門書を愛読しています。

それら生化学の教科書に書かれていることを読めば、不自然なタンパク質を摂ることでどういうリスクが生じるか明確にわかります。ちょっと専門的になりますが、とても大事なことなので説明しましょう。

肉や魚や豆腐など(もちろん人工的なプロテインもですが)を口から入れれば、消化していく過程で、タンパク質はすべて「アミノ酸」という物質に変わります。このアミノ酸は、私たちの体にあるタンパク質の材料となります。私たちの体のタンパク質は、絶えずつくりかえられており、その材料となるわけです。

一方で、運動をしようがしまいが関係なく、筋肉も含め体のタンパク質は絶えずつくりかえられています。だから、「運動をしたらタンパク質の補給が必要」という考えは間違っています。運動の有無は関係ないのです。

では、どのくらいつくりかえられているのでしょうか。1日にだいたい400グラムのタンパク質が壊され、400グラムが新しくつくられています。前述したように、その材料はタンパク質が分解されたアミノ酸です。

■「アミノ酸プール」で体内に大量にストックされるアミノ酸

さて、ここで、あなたは思うはずです。

「だったら、やはりたくさんタンパク質を補充しなければ、つくりかえるためのアミノ酸が足りなくなってしまうじゃないか」

ところが、そうではないのです。もし、補充しないとタンパク質が足りなくなってしまうのなら、山で道に迷ったり、災害に遭遇(そうぐう)して数日ろくな食べ物を得られなくなったりした人は、すぐに命を落としてしまうでしょう。そんなことにならないように、私たちの体はパーフェクトにできているのです。

私たちの体には、「アミノ酸プール」というシステムが備わっています。名前の通り、アミノ酸を大量にプール(ストック)しておくシステムです。

具体的には、体の細胞の中、血液の中、細胞の外の細胞外液などに、約100グラムのアミノ酸がいつでも貯蔵されています。

■タンパク質が壊されて得られたアミノ酸は再利用される

そして、このアミノ酸プールは、3つの生成経路と消費経路によって、絶えず量が保たれています。

まず、アミノ酸生成経路を見てみましょう。

①筋肉など体のタンパク質が分解されることによってもたらされるアミノ酸
②食事から摂ったタンパク質由来のアミノ酸
③体の中でつくられるアミノ酸

このうち①に注目してください。つまり、タンパク質が壊されて得られたアミノ酸は再利用されるということです。また③のように、自らつくりだす機能も備わっています。

次に、アミノ酸消費経路です。

①体(筋肉も含まれる)のタンパク質を合成する
②過剰なアミノ酸を尿素窒素などに変えて尿から排泄(はいせつ)する
③ブドウ糖や脂肪を合成する

ここでは、②が重要です。過剰なアミノ酸があれば、それを尿素窒素などに変えて尿から排泄する(濾過(ろか)する)腎臓の働きが強く必要とされるわけです。それによって腎臓は疲弊し、機能が落ちていきます。医学的には、「過剰濾過による腎機能障害」が起きます。

■プロテインは要らない、肉や魚や大豆で十分

タンパク質を摂りすぎると、過剰濾過が生じて腎臓を悪くするというのは、1982年に発表された有名な腎臓病医のブレンナー教授の論文で確立されています(N Engl J Med 1982;307:652-659)。さらに、世界的に有名な腎臓の教科書『The Kidney』(編集者はブレンナー教授)にもしっかりと書いてあります(The Kidney 2020, 11th edition Elsevier, P650,P1775)。

健康的な食事
写真=iStock.com/fcafotodigital
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fcafotodigital

当然のことながら、腎臓病専門医には常識ですし、腎臓が悪くなったらタンパク質を減らした食事をしなければならないことは、どんな医師も知っているはずです。ただ、プロテインの害については、多くの医師にとって理解の及ばぬ事柄でしょう。

アミノ酸プールの仕組みによって不足することなどないタンパク質を、プロテインパウダーなどで大量に摂取し、かえって腎臓を悪くしているのが現代人なのです。

もちろん、タンパク質は重要な栄養素ですから、必要量を食事から摂ることは大事です。しかし、それは普通に食べていれば十分です。もし不足するなら、プロテインなどではなく、肉や魚や大豆を食べるのが良いのです。

■「運動時にタンパク質の補給が必要」はまったくのウソ

アスリートやボディビルダーにとってプロテイン摂取は有効か。これは、長きにわたって議論が続けられてきた問題です。

しかし、この議論には、決着がついています。

1994年にイギリスのダンディー大学の研究者が17ページにもわたる膨大な研究報告を行っており、そこで明らかに否定されているのです(Proceeding of the Nutrition Society 1994;53:223-240)。

そのチームによる実験では、男女26人のボディビルダーに対し、体重1キロあたり1.93グラム(60キロの人なら115.8グラム)という高タンパク食を毎日摂ってもらいました。しかし、筋肉にはなんの良い効果も出なかったそうです。

また、イェール大学で行われた実験で、5カ月間にわたり、アスリートに1日のタンパク質を55グラムに制限させたところ、筋力は逆に35%も増加したそうです。

こうした結果を見れば、「運動するときにはタンパク質の補給が必要だ」というのは、まったくのウソだということがわかるでしょう。

■プロテインは「販売上のイメージ戦略」

でも、プロテインなどを売りたいメーカー側は、なかなかこういうデータは出してきません。そして、なんとなくわかったような、わからないようなイメージ戦略で「体に良さそうだ」と思わせるのです。

たとえば、スポーツクラブのインストラクターなどが、「運動をしてブドウ糖が消費されると、エネルギーが足りなくなって筋肉が使われてしまうから、タンパク質の補充が必要だ」と言って、そこで販売しているプロテイン製品をお客さんに売っているという話を患者さんからよく聞きます。

彼らに悪気がないのはわかっています。しかし、生化学から見ればその理論は明らかに間違いです。

■「体のため」の勘違いで逆効果…

ブドウ糖(グリコーゲンなどに形を変えて体に保存されていたものを含む)がエネルギーとして消費されてしまうと、次に使われるのは筋肉ではなく脂肪です。一般的な体格の人(たとえば体重60キロの男性)で、1カ月くらいはエネルギー不足にならないくらいの脂肪を、私たちは体に溜め込んでいます。

これら脂肪を消費し切ったとき、最後にやむを得ず、筋肉のタンパク質がエネルギーとして使われます。

なぜ最後かといったら、筋肉をつくっているタンパク質が簡単に不足してしまっては大変だからです。そんなことにならないよう、私たちの体は完璧に設計されているのです。

牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)
牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)

そして、タンパク質までエネルギーにしなければならないようなことは、文明社会ではあり得ません。ましてや、スポーツクラブで運動したくらいで、そのような状況になるはずがないのです。

それよりも、プロテイン摂取は腎臓への害が大きすぎることを考慮すべきです。なんで最近、こんなにコンビニでもスーパーでもそしてジムでも、プロテインを売るようになったのかわかりません。

働き盛りの年代が、忙しい時間をぬってせっせとスポーツクラブに通うのは、健康を維持したいからでしょう。体を守るためにやっているはずのことが、逆効果にならないようにしていきましょう。

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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)

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