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イチゴ、おもち、ロック…ネット銀行の支店名はなぜ恥ずかしい名前なのか

プレジデントオンライン / 2021年7月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi/marcduf

ネット銀行には物理的な支店は存在しない。だが、口座には必ず支店名が付けられている。金融ビジネスとテクノロジーに詳しいベンチャー投資家の山本康正さんは「銀行法が時代に追い付いていない。これからデジタルバンクになれば、こうした支店名も不要になり、銀行を取り巻く環境も激変するだろう」という――。

※本稿は、山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■銀行法が時代に追いついていない

なぜここまでスマホが普及しているのに、スマホ完結型のデジタルバンクが生まれないのでしょう。ネットバンクは実現できているのにです。

金融サービスをスマートフォンで行うことは、テクノロジー的には難しいことではありません。ただし、銀行の運営には銀行法という縛りがあること。そしてこの銀行法が時代に追いついてないのです。

いわゆるネット銀行を見ると、銀行法がいかに銀行のサービスを縛り付けているかが分かります。ネット銀行とデジタルバンクとの違いについて、まずは紹介します。

いわゆるネット銀行は、既存のリアルな銀行をインターネット上に置いただけです。つまり、サービスや仕組み(システム)も、言ってみれば今の銀行の延長線上のサービスです。

そのためネット銀行のサービスを拡充しただけでは競争力を持つ未来の金融サービスにはなりませんし、GAFAをはじめとするフィンテックベンチャーに競争優位性を持つことは難しいでしょう。

使ったことがあればご存じかと思いますが、ネット銀行では何だか愛嬌のある支店名が出てきます。たとえば住信SBIネット銀行はイチゴ支店やキウイ支店、セブン銀行はマーガレット支店やフリージア支店、ローソン銀行はおもち支店やチョコ支店、楽天銀行はジャズ支店やロック支店、PayPay銀行はすずめ支店やはやぶさ支店などとなっています。口座を開設する際には、選ぶか、どこかの支店名がおそらく自動で振り分けられることでしょう。

冷静に考えれば、ネット上の銀行なのですから、支店の意味はありません。しかしここで、銀行法や、過去のシステム仕様の縛りがあるわけです。「支店を設けなければならない」。まさにレガシーです。

支店はあくまで一例ですが、他にも既存の銀行法にのっとったばかりに、せっかくネット上の銀行なのに分かりづらい、使いにくくなっているケースがあります。

■ネット銀行よりデジタルバンクの方が安全

セキュリティの観点から見ても、スマートフォンによるデジタルバンクの方がネット銀行よりも安全性が高いです。ネット銀行はパソコンでの利用のため、複数人が使用する可能性が高いこと。

アカウントならびにログインパスワードを入力する仕組みでも、パスワードが安易であったり、定期的に更新するなどの配慮をしていないとハッカーなどに見破られ、アカウントを乗っ取られる可能性があるからです。

一方、スマートフォンであれば、これは銀行のATMでも導入していますが、指紋や顔などの生体認証でログインできます。

このような旧来のネット銀行とスマホを標準としたデジタルバンクの設計の違いは大きいです。既存の銀行が提供しているスマートフォンのアプリのレビューを見れば一目瞭然です。

確かにスマートフォンで使えるようにはなっていますが、いま紹介したようにネット銀行とデジタルバンクの違いを理解していないため、ネット銀行のサービスをそのままスマートフォンに移行しているからです。その結果、ユーザーにとっては満足のいくサービスになっていない。

言い方を変えると、デジタルバンクであれば行えるサービスが、利用できない。その結果、GAFAのようなテクノロジーカンパニーに、次々とサービスを奪われていくのです。

■テック企業にはデジタルバンク設立のアセットがある

テクノロジーカンパニーは、デジタルバンクを設立するアセットが十二分にあります。資金的なことを言っているだけではありません。技術面においても、です。

今やサービスを始めるのに自前のサーバーを調達する必要はなく、クラウドサーバーを安価で使うことができます。他のプロダクトを作るのと同じ技術チームやスキームで、簡単に作ることができるからです。

そのため、旧来の金融サービスだけに精通している人や、同じく金融システムに詳しい技術者などを採用する必要性が下がります。

一昔前のいわゆるオンプレミスで巨大な、いわゆるレガシー的(旧来の)なハードに基づくシステムを構築することは、プログラミング言語が同じくレガシーなこともあり、コストがかかります。

しかしこれからの金融サービスは、これらのレガシーは必要ないのです。昨今のクラウドを使ったウェブアプリを開発するようなスキームで、十分構築できるからです。

■自前のクラウドがあるから、一気通貫に銀行システムを構築できる

そしてここもポイントですが、彼らはそもそも最初からデジタルサービスを提供してきましたから、セキュリティについても徹底的に研究しており、強い。

もう一つ、クラウドを自前で持っている、という強みもあります。アマゾン、グーグル、などです。マイクロソフトもアジュールというクラウドサービスを持っていますから、今後、提携などもしながらデジタルバンクを設立する可能性は大いにあるでしょう。

アマゾンセンター
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

彼らは自前でクラウドを持っていますから、それこそ安価に、一気通貫に銀行システムを構築できますし、運用においても同じことが言えます。ローン、保険、証券など。金融サービスのあらゆる項目において、安く、スピーディーに提供できるのです。

対して、日本の金融機関はどうでしょうか。クラウドを持っていないどころか、システムは外部のSIベンダーに丸投げしている場合が大半でしょう。当然、そこにはフィーがかかっていますから、すべて自社で行っているアマゾンやグーグルがデジタルバンクに進出した際には、コスト面で不利になります。

GAFAをはじめとするテックカンパニーが、従来の金融サービスをほぼ無料で、そして自前の銀行で提供する。このような未来が迫っています。

■スマホ完結型のデジタルバンク「みんなの銀行」

一方で、明るい話題もあります。スマホ完結型のデジタルバンクを日本の銀行でも提供する動きがあるからです。2020年12月にふくおかフィナンシャルグループから発表された「みんなの銀行」です。

一部の手数料の高さは別にしても理念としては素晴らしいサービス内容で、まさしくデジタルバンク。おそらく日本で初めての、これからのトレンドとなるスマホ完結型の金融サービスを提供するアプリだと評価しています。

地銀がこのようなアプリを開発したことも、これからの日本の金融業界においてとても意義のあることだと思いますし、他の地銀は大いに参考になることでしょう。すべての地銀を変革するのは大変ですから、おそらくそのあたりのことを考えた上で、金融庁も従来の銀行法を改めて見直しての、今回のトピックだと私は捉えています。

いずれにせよ、ふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」のようなスマホ完結型の銀行アプリが、この先のトレンドになります。

■ATM、店舗、窓口の行員――すべてが消える

現在の銀行の実店舗で行われている各種サービス。具体的には、入金や送金、各種ローンサービス、投資相談、ATMでのサービスも含め、これらオフラインのサービスはすべて、フィンテック企業のサービスが置き換えようと挑戦してきます。

ATM
写真=iStock.com/TAGSTOCK1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

言い方を変えると、これまで人が介在することで行われていた各種手続きや審査は、すべてAIによるオンライン上で完結するようになります。つまり、あらゆる銀行業務がスマートフォンで完結するようになる。これも、メガトレンドの一つだと言えます。

スマートフォンですべての銀行業務が完結するようになると、店舗は必要なくなります。支払うお店や相手がすべて電子マネーに対応していれば、当然、ATMも必要ありません。

駅前の一等地に店舗を構えていること自体、かなりのコストがかかっていますし、窓口対応を待っている時間、待っている人の整理や対応を行っている人員のコストなど、改めて現在の銀行が行っているサービスは、負担が大きいです。

これらの負担すべてが解消されるのが、これからのトレンドです。店舗がなくなれば空いた土地を有効活用することができますし、銀行にとっても家賃コストが減り、浮いた分をよりお客様が使いやすいスマホアプリの開発に回すことができる。

■三菱UFJは2023年度までに40%の店舗を閉鎖

現に、店舗は次々と姿を消しています。三菱UFJ銀行では2023年度までに2017年度末の約500から300に。40%もの店舗を閉鎖することを打ち出しています。アメリカの銀行も同様です。そしてこのような動きは加速し、いずれゼロになると私は考えています。

山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)
山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)

店舗がなくなるので、当然、そこで働いていた行員も今ほどの人数は必要なくなります。同じく三菱UFJ銀行ですが、数千人規模単位の人員削減を発表しています。

営業、特に個人営業の仕事は減るでしょう。個人の対応に関しては、データさえあれば、大抵のことに対応できるからです。ただし法人営業に関しては、現時点ではすべてがデータ化しきれないため、2025年の時点では残っていると思います。

しかし昔ながらの自転車に乗って顧客先を走り回る、いわゆる御用聞き。このような法人営業のスタイルならびに人材は、これから先の社会では減っていきます。

インフラがこれだけ発達した社会なのですから、電話やテレビ電話、昨今であればズームを使えば直接行くことなく、対面でのやり取りと近いサービスが提供できます。

もちろん、どうしても会わなければいけないケースもあるでしょう。そうした場合のみ、顧客先を訪問すればいいのです。当然ですが、効率化が進んでいるアメリカでは、リモートが前提の営業になっています。

■エンジニアの採用需要は加速している

一方で、スマホアプリ(デジタルバンク)の新たなサービスを開発したり、運用やメンテナンスを行うエンジニアの採用需要は加速しています。

そして実際に業務を行うのは、エンジニアが開発したスマートフォン、デジタルバンク内のシステムやAIですから、そこも人からコンピュータに置き換わります。これは単に振込対応などを行っている窓口業務担当者だけではなく、バックオフィスで事業ローンの与信などを行っている人たちも該当します。

人員削減は銀行だけに限りません。ありとあらゆる金融業務がスマートフォン内で完結するわけですから、事業会社でこれまで経理や財務といったお金まわりの業務に就いていた人の仕事も、変わっていくでしょう。

■経理担当者の業務も完全自動化する

具体的には、次のような未来です。これまでは毎月、経理担当者が各メンバーから上がってきた数字をExcelに打ち込み。場合によってはPLなどの決算書まで作成し、税理士に提出していた。

この業務が、完全自動化します。たとえばECを展開している企業であったら、売上情報はそのままクラウド会計ソフトがデータを取得する。さらにはExcelよりもはるかに見やすいグラフを自動で作成。これらの決算データも、現時点では人が介在して銀行や税理士事務所に送信していますが、同フローもいずれは自動化されると思います。

売り上げだけでなく、借り入れに関してもまったく同じことが言えます。銀行は、顧客から自動で送られてきたデータや決算書を基に、そして銀行も同じく自動で与信を行い、的確に金利や融資額を決定するように変わるからです。

これらの業務はすべて、スマートフォンの先にあるデジタルバンク上で行われます。つまり人が行うことは、デジタルバンクでどのようなやり取りが行われているのかの、確認やチェックといった業務だけになっていくことでしょう。

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山本 康正(やまもと・やすまさ)
ベンチャー企業投資家
1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)ほかで日本企業のデジタル活用を推進。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム 「US Japan Leadership program」フェローなどを経て、2018年よりDNX Ventures インダストリーパートナー。自身がベンチャーキャピタリストでありながら、シリコンバレーのベンチャーキャピタルへのアドバイスなども行う。ハーバード大学客員研究員、京都大学大学院総合生存学館特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』(東洋経済新報社)がある。

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(ベンチャー企業投資家 山本 康正)

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