SBI傘下入りでも「新生銀行の公的資金3490億円」返済が絶望的なワケ
プレジデントオンライン / 2021年12月1日 9時15分
■土壇場での買収防衛策取り下げ
SBIホールディングスが、新生銀行に対して敵対的なTOB(株式公開買付け)を実施していた件で、2021年11月24日、新生銀行が土壇場でSBIに対抗する買収防衛策を取り下げ、翌日の臨時株主総会も中止すると発表した。SBIに加え、公的資金注入に伴い20%以上を保有する大株主の国(預金保険機構と整理回収機構)が、買収防衛策に反対に回ると報じられ、過半数獲得が事実上困難となったことで、万策尽きた新生銀行は、買収防衛策を取り下げるに至ったとみられる。
もともと、SBIの北尾吉孝社長は「新生銀行に対するTOBで99.9%勝つと思っている」と語っており(日本経済新聞2021年11月12日)、SBIはこのまま12月10日が期限のTOBを続け、最大48%の株式を取得することで、新生銀行を事実上傘下に置くことになる。北尾社長のメディアへの積極的な登壇に加え、金融庁や財務省などの大物天下りOBの存在、さらには米大手投資銀行や大手弁護士事務所も加わったSBIの陣容を前に、SBIが圧倒的に有利との下馬評通りの結果となった。
■TOB成立後も茨の道は続く
もっとも、この先は、SBIにとっても、茨の道だ。新生銀行の株主には、生保など国内外の機関投資家に加え、Bloombergの報道によると、旧村上ファンド系投資会社「シティインデックスイレブンス」や香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」や米国の「ダルトン・インベストメント」など、いわゆる「物言う株主」といわれるアクティビスト・ファンドも相当数の株式を保有している。こうしたアクティビストが、TOBに応じなかったり、株価引き上げなどさまざまな要求をしてきたりする可能性がある。
TOBは成立するものの48%の保有に達しなければ、連結子会社化できず、SBI主導による新生銀行の経営が不安定化する事態も考えられる。
SBIによる今回のTOBにおいては、これらアクティビストや、世界最大の議決権行使助言会社であるグラスルイスやインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)も指摘するように、
(1)少数株主への不利益
(2)SBIのガバナンス、執行能力への懸念
(3)SBIにも明確な公的資金返済プランがない
といった懸念があり、SBIはこうした点を払拭する必要もある。
■SBIも公的資金返済の計画は持っていない
特に、公的資金返済に関しては、北尾社長は、「20年以上にわたって公的資金を返済できない唯一の銀行だ」「自分たちが金を借りてて、返さないなんてありえない。金を返さないっていうのは、泥棒と一緒」と、新生銀行を批判してきた。
しかしながら、実は、SBIも公的資金返済に向けた計画は持っていないのだ。TOB届出書においても「SBIHDらにおいても内部的に具体的な返済方法については本日現在未定」となっている。SBI自身にも何ら具体策はなく、北尾社長もただ「全力を尽くする」「新生銀行と心を一にし、公的資金3500億円返済の大義を果たす」と浪花節で表明するだけだ。
新生銀行における公的資金要返済額3494億円を前提とした場合、必要となる株価は7448円とされ、2021年11月26日時点の株価1935円からみても、はるかに高い水準にある。スタートアップの株価ならともかく、規制業種で斜陽産業となった既存銀行の株価を4倍近くに上げることは、さすがのSBIでもすぐにできるものではない。業績を4倍にするならともかく、株価を4倍にするのは、後者の方が不確実性も高く、より難度は高い。公的資金返済には、秘策も奇策もないのだ。
■「非上場化による公的資金返済策」でも収益は必要
それでも、SBIが新生銀行を実質的に子会社化し、新たなビジネスモデルを導入した上で、非上場化して、市場価格ではない「事業価値」を基にした株価算定により、公的資金を返済するという「非上場化による公的資金返済策」が秘策や奇策として、まことしやかに語られている。日本経済新聞(2021年9月10日)によると、金融庁がSBIによる新生銀の買収容認に傾いたのは、「非上場化して、ビジネスモデルを抜本的に変えてくれるかもしれない」という期待からだという。
とはいえ、現在の株価では返済できない公的資金を、非上場化した後に、時価に関係なく返す手法には違和感がある。また、その場合でも、「事業価値」の核となる新たなビジネスモデルの確立と巨額の返済原資が必要であることに変わりはない。
その新たなビジネスモデルとは、SBIの掲げる「第4のメガバンク」構想の中核に新生銀行を置き、資本・業務提携する地銀との関係強化などにより、「企業価値」を上げ、公的資金の返済にもつなげるというものだ。SBIでは、新生銀行の最終利益を710億円(2025年3月期)と、前期(2021年3月期)の同451億円から1.5倍以上に拡大させるとしている。
しかしながら、そもそも「第4のメガバンク」構想に参加する島根銀行や福島銀行などの地銀は子会社化された訳でもなく、仮にそれら弱小地銀8行に、新生銀行を加えたとしても、たかだか総資産は22兆6000億円だ。
3大メガバンクの一角であるみずほFGの総資産225兆5000億円に対して、10分の1程度の規模であり、上位地銀1行レベルの規模にすぎないのだ。
■新生だけでなく、国も無策だった
2000年の新生銀行発足以来、公的資金返済が課せられていたにもかかわらず、現在でも返済に至っていない。現経営陣を含め新生銀行の歴代経営陣の責任は重い。
無論、公的資金返済は新生銀行だけの責任ではない。監督官庁である金融庁や大株主の預金保険機構と整理回収機構など当局側にも大いに責任がある。
政府も新生以上に無策だった。公的資金返済に向けて、結果的に今まで何もできなかったのだ。政府・金融当局は、SBIの計画に、裏で賛同したり姑息に動き回る前に、新生銀行の経営陣と対話を重ねたり、特別検査などを実施するなどビジネスモデルのあり方や公的資金返済に向けての知恵を絞るのが筋ではなかっただろうか。時間はたっぷりあったはずだ。
■利益の大部分は「ノンバンク業務」
このように、SBIサイドや政府・当局の対応の杜撰さ、懸念事項は多いものの、新生銀行による買収防衛策が取り下げられたことで、SBI主導による新生銀行の運営が進むことになる。公的資金返済を含め、肝心のTOB後のビジネスモデルをどう構築するのかが、SBIには今後より一層問われることになる。
とにもかくにも、公的資金返済のためには、さらなる収益の確保が大前提だ。前期451億円だった最終利益をいかにして増加させて、資本を蓄積し、株価上昇につなげていくのか。
実際のところ、現状の新生銀行は、銀行という名のノンバンクといえる。過去に買収した旧レイクを母体とする新生フィナンシャル、アプラスフィナンシャル、昭和リースの傘下3社による、無担保ローン、ショッピングクレジットなどにより利益の大部分がもたらされているのだ。実際、新生銀行全体の利益のうち、これら傘下3社によるノンバンク業務が占める割合は75%に達している(与信関係費用加算後の実質業務純益、2020年度末)。
■ビジネスモデルが二転三転してきた“伏魔殿”
こうしたノンバンクビジネスへの注力に加え、一足先に公的資金を完済したあおぞら銀行のように、新生銀行もスマホアプリやネット銀行子会社をそろえ、成長性ある個人資産運用や中小企業向けDXサポートなどを強化し、次世代型銀行に変貌する選択もあるはずだ。
大胆なビジネスモデルの変更とともに、大胆なリストラも必要になろう。
新生銀行発足当初は、米系ファンド主導で、リテールバンキングを強化していた。それがうまくいかず、その後は投資銀行業務に傾斜するもののリーマンショックで頓挫、2010年には、あおぞら銀行との経営統合も破談し、現在は、買収したノンバンクからの収益を柱としている。経営陣や経営方針、ビジネスモデルが、二転三転しているのだ。
紆余曲折あり、伏魔殿のような新生銀行を経営するのは、百戦錬磨の北尾社長率いるSBIとて並大抵のことではない。「やっぱり無理でした」と、SBIも匙を投げるという結末だけは、誰のためにもならず、避けなければならない。
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マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『地銀消滅』『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。
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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)
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