「親は見て見ぬふりです」ソープ嬢、AV女優、パパ活を掛け持ちする25歳音大生の経済事情
プレジデントオンライン / 2021年12月8日 12時15分
※本稿は、中村淳彦『パパ活女子』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■夏休みは週5~6日、毎日ずっとパパ活
「パパ活、はじめて3カ月くらいです」
酒井亜弓さん(仮名、25歳)は、都内の芸術系大学3年生だ。学費を貯めるために3年間社会人を経験したので、いまは25歳である。
夏休みなので朝から晩までパパ活しているようで、一日のすべてのパパ活スケジュールをこなした後の21時に待ち合わせた。山陰地方出身、東京の下町で家賃8万円の部屋でひとり暮らししている。
「夏休みなのでとにかく動いているけど、パパ活のペースはまちまち。たぶん男性のお給料のタイミングだと思うのですが、男性からのメッセージが殺到する時期と、全然捕まらない時期があります。いまは夏休みなので週5日か6日、毎日ずっとパパ活をやっています」
品のある女性だ。女優の高畑充希に似てなくもない。受け答えから育ちのよさが伝わる。
パパ活サイトで気にいった異性にメッセージを送り、条件が合えば顔合わせする。淑やかさが伝わる写真を掲載していて、男性からメッセージはたくさんくる。危なそうな男性以外には返信し、顔合わせ&食事を繰り返している。
■ソープ嬢とAV女優も掛け持ち
「顔合わせは0.5(5000円)か1(1万円)です。たまに0.3を提示してくる方がいるけど、それはよほど暇だったらって感じ。お食事は相場通り1万円をもらっています。大学に行きながらのパパ活なので、授業がある時期は時間が限られます。値段が高い人から優先的にスケジュールを埋めるので、顔合わせ3000円って人をわざわざ組み込む余裕がないんです。学校があるときでも、土日とかお休みの日は一日中やります。今日もそうでしたけど、顔合わせと食事で一日5人とか」
今日の売り上げは顔合わせ5000円×2名、顔合わせ1万円×1名、食事1万円×2名で4万円だった。3年の夏休みは、そんなパパ活をひたすら続けている。
「実はソープ嬢とAV女優もしていて、いまは夏休みなので毎日昼間はパパ活、夜は吉原に出勤です。パパ活をはじめたのは、コロナで撮影がゼロになって、ソープのお客さんが減ったから。時間と体力的に大変だけど、お金がかかる大学生をしているのでやるしかなくて。大学のために上京してから、ずっとセックス、セックス、セックスみたいな感じなので、パパ活は食事メインにしています。基本的にいいなと思った人しか大人は受けません。そういうスタンスですね」
そんなことをいいだした。音大生をしながらソープ嬢、AV女優、パパ活女子のトリプルワークだという。
■プロ演奏家になる夢をかなえるために
「進学が決まった2月に、東京での学生生活は、もうそうなるだろうなってわかっていました。貯金はあったけど、普通のアルバイトで学費と生活費を稼ぐのは不可能なので。入学式の前から高収入系の仕事をいろいろ調べて、風俗にも詳しくなりました。キャバクラは学校との両立は難しくて、デリヘルでは必要な額を稼げないだろうと判断したので、最初から吉原に行きました。
70分3万円の店で、バックは1本1万6000円くらい。週4日出勤して、一日2本つけば必要なお金は稼げる計算でした」
亜弓さんはシングル家庭育ちだった。どうしてもプロ演奏家になりたい夢があり、高卒で働いて300万円を貯めてから音大に進学することにした。高校を卒業して非正規OLになった。収入は月19万円くらい。毎月10万円を貯めることを目標にして300万円を貯めるのに3年かかった。
■「借金するんじゃなくて、稼げるときに稼ぐ」
上京前は2年間付き合った恋人がいた。2歳年上の社会人でプロポーズもされたが、ひとりで上京して大学生になった。
「母親が大学の費用を払うのは絶対に不可能です。本当にギリギリの生活なので東京までの交通費もだせないと思います。大学に行くって決めたのは自分だから、上京してすぐに吉原のソープ嬢になって、AV女優になったのは1年生の冬です。ソープ嬢になってからずっと知らない男性とエッチばかりですけど、覚悟していたし、あまりなんとも思いませんでした」
進学費用を貯金するために3年間非正規OLとして働き、大学4年間自らを知らない男性に捧げ続けて、7年もの月日をかけてやっと大卒資格を手にすることになる。親からの援助や協力がない地方出身の学生は、そこまでしないと学生生活を送ることができない現実があるのだ。
住んでいるのは家賃8万円の部屋、オートロックで2階以上だとどうしてもそれくらいになる。学費は年間150万円で、合わせるとこれだけで年間250万円がかかる。それに食費、光熱費といった生活費も合わせると、月30万円~40万円は必要になる。その金額を学生をしながらアルバイトで稼ぐのは不可能なので、カラダを売るという選択肢しかなくなる。
「奨学金は返済義務があるし、音楽は稼げる仕事じゃないし、借金するんじゃなくて稼げるときに稼ぐという考えです。だから奨学金は借りてません。東京にくる前から、頭のなかはお金ばかりでした。しばらくしてソープランドで働いているだけでは不安になってきて、他にもお金になることないかなって調べたんです。それでAV女優もやることにしました。デジタルタトゥーは残るけど、AV女優って肩書きがついたほうがその先も稼げるかなって思ったから」
■音大は初年度納入金が180万円、年間学費が150万円
高校時代は真面目な吹奏楽部員だった。初めて彼氏ができたのは社会人1年目で、上京前の経験人数は2人だけ。覚悟を決めてソープ嬢になって、東京にきてからは毎日大学で授業か、ソープランドでセックスという日常となった。大学生になってからは恋人はつくっていない。悲しませてしまうし、邪魔になる。
月に60万円くらいを稼いでも、学費と生活費でなくなってしまう。お金が余らないことが不安になって、AV女優もすることにした。
AV業界は斜陽産業である。AV女優がお金になったのはずっと昔の話で、2016年にAV出演強要問題を起こして、業界は風前の灯である。DVDは売れなくなり、無料動画が膨大に出回るなかで有料配信にも限界がある。誰が搾取しているわけでもないのに儲(もう)からない。利益が少ないので当然、裸になるAV女優にも還元されない。
「AV女優は今年が3年目。出演料はそんな高くなくて1本10万円くらい。デビュー作だけ40万円もらいました。企画単体になるのかな。AV女優は月2本くらいしか撮影がないので、ソープランドは辞められないです。兼業しないと生活できない。本当にエッチばかりですけど、慣れるとできますよ」
母子家庭の平均所得は年間243万円、その音楽大学は初年度納入金が180万円で年間学費が150万円。いまは母子家庭は当然、平均的な一般家庭でもとても払えない金額を、大学生本人か親が負担しなければならない。
■コロナ禍で吉原のお客さんが激減
どこの大学も女子学生はキャバ嬢、風俗嬢、パパ活女子だらけなことはすでに述べたが、その具体的な状況は、地方出身でひとり暮らししながら学生生活を送る亜弓さんを見ればわかるだろうか。大学生になってから彼女がしているのは江戸から続く吉原で男性客たちに本番サービスを売り、それからAV撮影現場で撮影された本番映像がバラ撒かれ、そこまでして、やっと大学に通えるという現実なのだ。
そんなセックス漬けの学生生活を送っていたが、コロナによってそれも怪しくなった。母親は一切の援助ができないので、稼げなくなったら大学は除籍になる。
「コロナで撮影がなくなって、吉原もお客さんが激減しちゃいました。特に高齢者と中国人のお客さんがこなくなって、月30万円~40万円くらいしか稼げなくなって。AV女優で仕事があるのは有名な女の子だけ。コロナの影響がでたのは2月だったので、学費の納入も近かった。もう、どうしようってなりました。もう直にお客さんを見つけるしかないじゃないですか。だからパパ活です」
お客が激減した吉原で待機している間にパパ活サイトに登録した。もっているお金をすべてかき集めて、3年前期の学費納入はなんとか切り抜けた。でも、まったくお金がなくなった。
■90分刻みで「パパ」とアポイント
「そのときは、食費とかだいぶ削らないとやっていけないくらいの感じでした。いよいよ苦しくなってきたので、パパ活サイトに登録したら、いろんな男性からメッセージがきた。できるだけ食事だけで引っ張るって感じでやっています」
顔合わせ5000円~1万円、食事1万円とおおよその金額を決めて、メッセージがきた男性に会いまくった。夏休み中は朝10時、11時半、13時、14時半、16時と90分刻みでどんどんアポイントをいれる。そして何人かのパパ活男性と会ってから、19時に吉原に出勤する。家に帰ってくるのは深夜1時を越える。ヘトヘトである。
「いまは昼間にパパに会って、夜は吉原って感じ。学校があるときは17時にパパ活でひとりだけ会って、19時から出勤とか。そういう生活です。パパ活では大人したら5万円もらっています。パパ活では基本的にエッチしないつもりで、茶飯のつもりでやっているんですけど、大人をする場合は相手を選んでいます。この人ならいいかなと思ったらやります。
一番は見た目ですね。少しでも好きだなと思える相手だったらリフレッシュにもなるし、お金にもなるし。素敵おじさんとなら、まあいいかなって」
■「親はわかっていると思います」
顔合わせと食事で一日何人もと会っても、大人がなければ稼げるのはせいぜい2万円~3万円程度だ。顔合わせ、茶飯は人を選ばずに会っているので、デブ、ハゲはあたりまえで、横暴にセックスを誘ってくる人もいる。お金がないときでも、パパ活ではやりたくない相手はやんわりと断っている。ちなみに大人の関係になるのは、清潔感あるダンディでコミュ力がある男性だという。
「私みたいなのは、いまは大学生として普通だと思います。決して特別じゃないです。たまに家庭のバックアップがある恵まれている子もいます。けど、私みたいなほうが多いんじゃないかな」
お盆と正月には実家に帰る。先日、パパ活漬けだった夏休みの合間に実家に戻っている。母親は東京でどんな仕事をしているのか、学生生活はどうなのか、一切聞いてこない。
「私がなにをやっているのか、わかっていると思います。でも、なにもいってきません。私はなにも口出しはしないからって」
大学進学は本人の決断で成人もしている。娘にセックス漬けの生活はしてほしくなくても、それをやめさせれば、高額な学費を誰かが払わなければならない。やめてといいたくても、いえない。娘を大切に育てても、自分にお金がなければ、大学生になった瞬間に夜職や売春、パパ活の道を選択してしまう。絶望的な現実があるのだ。
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ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター』(コアマガジン)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。
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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)
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