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「1年以内に仕事が決まるのは4割」安易に早期退職に飛びつく人が直面する悲惨な現実

プレジデントオンライン / 2022年1月22日 20時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanJaka

多くの企業が早期退職の実施に踏み切っている。応じてもいいのだろうか。中高年専門ライフデザインアドバイザーの木村勝さんは「55歳を過ぎてからの転職は決まりづらく、収入ダウンの可能性も高い。早期退職ではなく、出向を受け入れたほうがいい」という――。

※本稿は、『THE21』編集部編『50歳から必ずやっておくべき10のこと』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■アラフィフが「黒字リストラ」のターゲットに

つい最近までは、新卒で入社した会社に60歳定年まで勤め上げ、そのあとは悠々自適な余生を送るというキャリアプランが通用しました。

しかし、今は寿命が延びたうえに、年金支給開始年齢が60歳から65歳へ引き上げられ、働けるうちは働かなくてはならない時代になっています。

そのような中、改正高年齢者雇用安定法が成立。今までは企業には希望者全員を65歳まで雇用する義務がありましたが、改正法では、70歳まで就労機会を提供することが努力義務とされました。この改正法は、2021年4月から適用されています。

その内容を見ると、定年延長、定年廃止、契約社員など、従来の選択肢に加え、フリーランス選択者との業務委託契約の締結、事業主自ら実施する社会貢献活動への参加、の対応策が新たに認められることになりました。

では、現状、企業の高年齢者雇用の実態はどうかというと、定年を延長する動きはありますが、9割以上の企業が60歳定年のままで、定年以降は「再雇用」で対応しています。法改正が行なわれたとはいえ、70歳までの就労機会の提供はあくまで努力義務ですから、60歳で定年退職して再雇用されたとしても、65歳で雇用が終わるのが現状です。

さらに2019年からは、業績が好調な時期に行なう「黒字リストラ」が増加。その背景には、働き手として最も多い48~51歳の団塊ジュニア世代と、53~57歳のバブル入社世代の割合を減らし、若手にシフトさせたいという企業の思惑があります。もはや、会社が用意するレールに乗っておけば安泰という時代は終わりました。キャリアは自分で築いていく必要があるのです。

では、今後想定されるキャリアにはどのようなものがあるのでしょうか。

極めてシンプルで、

①今の会社で働き続ける
②転職する
③出向する
④独立・起業する

の四つに絞られます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

■①今の会社で働き続ける

まず、大半の人が選択するのが、「今の会社で働き続ける」というシナリオです。気になるのは「60歳以降、給料はいくらもらえるのか」だと思います。

先ほども述べた通り、60歳の定年後は再雇用で対応する企業がほとんどですが、賃金水準は現役時代の半額を覚悟する必要があります。

ある調査結果によると、フルタイム勤務での平均は328.8万円です。しかも、60歳以降は給料が上がることはほとんどなく、65歳以降は収入のあてが途絶えてしまいます。

また、再雇用されたら65歳までは雇用が保証されると思っている人も多いようですが、再雇用の場合は、1年ごとに契約更新する非正規従業員。病気になっても休職規程の対象とはならず、「翌年の契約更新はなし」ということも十分あり得ます。プロ野球の1年契約と同じと考えていただければいいでしょう。

仕事の内容は、これまでは現役時代と同じ職場で同じ仕事をすることが一般的でしたが、これからはそうもいかなくなります。RPA(ロボットによる業務自動化)の導入やアウトソーシングにより、再雇用者に割り当てられていた事務作業がどんどん減っています。

一方、単純作業的なノンコア業務は人手不足が深刻になっており、いわゆる3K職場に再雇用者が充てられるケースも増えていくと予想されます。

自分で考えた結果としてこのシナリオを選ぶならいいのですが、多くの人は60歳で定年を迎えても特にやりたいこともなく、「周りの人が定年以降も働き続けるから、自分も今までの会社で働こう」という理由から選択される方が多いのではないかと思います。何も考えずに会社任せにすることは、人数も多いバブル入社世代にはリスクの高い選択肢と言えるでしょう。

■②転職する

次に、「転職する」シナリオを見てみます。

ビジネスで最高の会社へようこそ
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

30代から50代前半までの男性の約半数は転職経験がないため、転職のシナリオは一般的なビジネスパーソンにとってはハードルが高いかもしれません。また、シニアからの転職でポジションや収入アップを目指そうとするとうまくいきません。

まず、55歳を過ぎてからの転職は、よほど専門的なスキルがない限り、収入の現状維持は困難と考えたほうが無難です。特に給与水準が世間水準を大きく超える大企業に勤める人が、中小企業へ転職する場合、大幅な給与ダウンは免れません。

注意していただきたいのは、これまでの成果は自分の能力だけの結果ではないということです。成果は、「会社のストック」と「自己の能力」の掛け算です。

■安易に早期退職優遇制度に飛びつくのは非常に危険

スコップで穴を掘る場合と、パワーショベルで穴を掘る場合とでは、全然アウトプットが違います。それと同様に、大企業の課長クラスが1000万円の年収をもらえるのは、会社が購入した情報や設備、教育システムなど、会社のストックというパワーショベルをフルに活用しているからです。したがって、転職して会社のストックが異なれば、出せる成果も変わってきます。このことを理解していない人が多いというのが実感です。

有効求人倍率だけを見ると、2019年は1.60倍。2020年は、コロナ禍の影響もあり、1.18倍という低い数字になっています。しかし、これは全職種・全世代を平均した数字であり、ホワイトカラーのシニア世代が希望する事務的職業の有効求人倍率は1以下で、低水準です。離職後1年以内に次の仕事が決まる割合も、55歳以降は4割ほどです。

このように、シニア世代の転職は厳しいのが現実ですから、何も考えずに早期退職優遇制度に飛びつくのは非常に危険です。

ただし、夢を実現するために主体的に選択するなら、転職も悪くありません。わかりやすい例を挙げれば、将来はそば屋を開きたい人が、事前に経験を積むため、そば屋チェーン店に転職するなどは、可能性がありそうです。

■③出向する

「出向する」シナリオは、出向制度のある企業に勤める人にしか当てはまりませんが、もし自分の会社に出向先があるなら、キャリアチェンジの一つとして積極的に検討されることをお勧めします。

テレビドラマ『半沢直樹』(TBS系)の影響もあり、「出向=左遷」というネガティブなイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし、出向の場合、給与を含む主な労働条件は出向元の条件が適用されるため、給料が下がるわけではありません。身分ももとの会社のままです。

仕事の内容も、今までやってきた業務に関連する仕事に就くことが多いため、それまでの経験やスキルを活かすことができます。しかも、子会社や規模の小さな企業に出向する場合は、役職が上がるケースもあります。

私自身、会社員時代は3回の出向を経験しました。出向は将来のキャリアへのスキルや知識を磨き上げる、やりがいのある絶好の機会だと思います。

■④独立・起業する

最後に「独立・起業する」シナリオです。リスクが高いイメージがあるため、多くの人は選択肢に入れていないと思います。

「独立」と「起業」が混同されていることが理由ですが、この二つはまったくの別物です。「独立・起業」と聞いて多くの人がイメージするのが、ネットショップを始めるとか、資格を取得して開業するなどの「起業」ではないでしょうか。今まで経験のないことを想定するため、「絶対に無理」と感じてしまいます。

一方、「独立」はそれとは違い、今まで培った経験の延長で考えます。会社に雇われて給与を受け取る方法から、会社に雇われずに直接社会から報酬を受ける方法に変わるイメージです。シニアからのキャリアチェンジで成功しているのは、この「独立」のシナリオです。

私のように企業から業務を請け負うインディペンデント・コントラクター(独立業務請負人)として働くのも一つの方法です。

私が何をやっているかというと、実は人事という仕事は会社員時代と変わっていません。複数の企業と契約を交わし、人事総務サポート業務を請け負っています。

独立を考えるなら、今の職場でどんなサービスがあったら喜ばれるだろうかと考えてみると、色々なサービスの可能性があるはずです。また、冒頭でも紹介した法改正によって、フリーランスや起業した人への業務委託が推奨されていけば、独立したい人には追い風となるでしょう。

独立直後から現役時代のように稼ぐことは難しいかもしれませんが、小さな仕事を数多くこなすことで収入源が分散され、そこから徐々に広がりも生まれます。再雇用で働き続ける場合と違って、収入は上がる可能性があり、65歳以降も働き続ける限りは長く収入が見込めるのが、独立・起業のメリットです。セカンドキャリアには、今の仕事のままで独立する道をぜひ考えてみてはいかがでしょうか。

■キャリアの棚卸しはできるだけ具体的に

ここまで四つのシナリオを紹介しましたが、どれを選択するにしても、なりゆき任せが一番危険です。自分が納得できる選択をするために、また、自分の力を発揮できる仕事に就くために、ぜひ「キャリアの棚卸し」をすることをお勧めします。

キャリアの棚卸しとは、今まで培ってきた経験や知識、スキルを再整理し、「見える化」することです。その際、「人事」「経理」といった大きな括りではなく、その時々で経験した具体的なタスクと成果を、可能な限り実績数字で表現することを意識してみてください。例えば、社内の改善活動に携わった経験があれば、そのときの役割や成果を「見える化」します。工場立ち上げに関わった経験があるなら、投資規模や効果を数値化してみます。

■「雇用」以外にも選択肢はある

棚卸しする項目は、仕事に限らず幅広く考えるといいでしょう。例えば、消防団やPTA会長など社会での活動は、その人の人となりを最もよく表す部分です。転職の際の面接でも、そういった話題から話が弾むことはよくあります。

これまでの仕事を細かく棚卸しすることで、「人事」や「経理」などで単純に括ることのできない専門スキルも見えてきます。

『THE21』編集部編『50歳から必ずやっておくべき10のこと』(PHP研究所)
『THE21』編集部編『50歳から必ずやっておくべき10のこと』(PHP研究所)

例えば、3社合併の経験がある場合、文化の異なる3社が一緒になるときどのような問題があり、どのように解決したのかは、その人が培った独自の専門性です。こうした専門性は、企業や業種を問わずどこでも使える「ポータブルスキル」になり得ます。自分のポータブルスキルは何かを見極めることが重要です。

キャリアの棚卸しは、在職中に進めておくとよりいいでしょう。実績データは在職中でなければ入手することは困難ですし、退職してから「あれはいつだったっけ?」と思い出そうとしても、記憶が曖昧になるからです。

棚卸しができていれば、早期退職優遇制度が適用された際にも、行き当たりばったりで会社を辞めることなく、主体的に動くことができます。

大事なことは、キャリアを棚卸ししたうえで、自分が納得するキャリアを選択することです。20年以上も働いてきた人が、専門スキルを何も持たないはずはありません。雇用に縛られない選択肢を準備し、自分で決めていくことが、これからの時代を生き残るには必要です。

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木村 勝(きむら・まさる)
中高年専門ライフデザインアドバイザー
1961年、東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業後、 1984年に日産自動車に入社。人事畑を25年間歩み続ける。2006年には全員が人事のプロ集団である関連会社へ転籍。2014年に独立し、人事業務請負の「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。30年間で培った知見をもとに後進を指導している。『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(共著/WAVE出版)など、著書多数。

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(中高年専門ライフデザインアドバイザー 木村 勝)

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