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7分に1人が「心臓病」で死んでいる…専門医が「突然死リスク」を見抜くために患者に尋ねる"ある質問"

プレジデントオンライン / 2022年5月18日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

突然死を防ぎ、健康で長生きするにはどうすればいいのか。心臓血管外科医の渡邊剛さんは「日本AED財団によると、日本では心臓突然死で年間7万9000人が亡くなっている。心臓が発する不調のサインを見逃さないことが重要だ」という――。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

■心臓突然死を防ぐにはどうすればいいのか

昨日まで普段通りに元気だった人が、突然命を落とすことがあります。「突然死」と呼ばれるもので、世界保健機関(WHO)の定義では「瞬間死あるいは発病後24時間以内の内因死」とされています。

総務省消防庁『令和3年版 救急救助の現況』によると、救急搬送された心肺機能停止傷病者数は年間約12万6000人、うち心原性心肺機能停止傷病者数は約7万9000人に上ります。また日本AED財団のホームページによると、心臓突然死の年間死者数は約7万9000人。1日に約200人、7分に1人が心臓突然死で亡くなっていると指摘されています。

原因の大半は虚血性心疾患です。臓器への血液供給が減少してしまい、酸素などが届かなかったり、詰まったりする状態を指します。代表例は心筋梗塞や狭心症などの心臓病です。

心臓突然死がとても恐ろしいのは、高齢者や心臓病の人に限らず、若い世代や心臓病ではない人でも突然起こることです。確かに心臓突然死は動脈硬化の進んだ高齢者に多いことが指摘されていますが、運動中に倒れて死亡する若い世代も少なくありません。

仕事中や運転中、自宅で過ごしている時や寝ている時であっても、意識を失ってそのまま亡くなるケースもあります。

本稿では、心臓突然死を防ぐためにはどうすればいいのかを考えます。心臓突然死は予測不可能ながらも、何らかの「予兆」に敏感になることが大切です。健康で長生きするためにも、ぜひ自身の身体が発しているかもしれないサインを見逃さないようにしてください。

■心臓の不調を示す「5つの予兆」

心臓突然死の主な原因は虚血性心疾患と説明しました。これは高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満、食事、運動不足、ストレスが関係しています。自覚症状があれば、それを見逃さないことで心臓突然死のリスクを減らすことができます。

オフィスのコンピューターの前で疲れを感じているビジネスパーソン
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

私は心臓血管外科の専門医として、これまで数多く患者さんを診てきました。私は問診で必ず尋ねることがあります。「心臓病かもしれない予兆」は以下の5つから判断することができます。

1.胸が痛い。
2.階段を上って息が切れる。
3.疲れやすい。
4.夜中にトイレによく行く。
5.ドキドキという不整脈の症状がある。

これら5つの状況を患者さんに伺い、心電図や造影CT検査の結果と合わせ、診断を確定していきます。私の病院には紹介状を持っていらっしゃる患者さんが多いので、すでに診断名(病名)はついていますから、心臓弁膜症(心臓内の弁に何らかの障害が起きる病気)の人には「おしっこに行く回数が増えたか?」など心不全に関係する質問をします。心不全(心臓の働きが低下する症状)が進んでいる場合はトイレに行く回数が増える傾向があるからです。

狭心症(心筋に供給される酸素が不足して胸部が痛む症状)の人には「どれくらいの頻度で痛みが起こるか?」というように焦点を定めた質問ができます。「胸が痛い」という症状は、狭心症か、大動脈弁狭窄(きょうさく)症のどちらかです。「痛みがない」なら心不全を疑います。

胸が「ズキズキ」「チクチク」「ドキドキ」すると患者さんが表現することがあります。このような場合の重症度はあまり高くありません。「チクチク」だと心臓病ではなく大抵は神経痛です。痛みや違和感が続いたり、締め付けられるような痛みを感じたりしたら要注意です。

心臓専門医は死に至る心臓病を外見や症状から未然にキャッチする名探偵です。「たぶん一過性だろう」「体質だから心配ない」「年だから」などと自分で判断せず、これら5つの予兆をキャッチしたらすぐに心臓専門医を受診してください。

■心臓が悲鳴を上げている「6つの重症サイン」

ところが、以下の6つの症状があったり、症状が長く続いたりする場合は「重症サイン」として危険スイッチが入ります。一刻の猶予もありません。

1.体が冷たい。
2.冷や汗をかく。
3.食後に脂汗がひどい。
4.つかまれるような強い痛みがある。
5.背中に痛みがある。
6.失神してしまった。

これら重症サインの程度が激しく、30分以上症状が続くと、急性心筋梗塞や急性冠動脈症候群、大動脈弁閉鎖不全症、解離性大動脈などの重篤な心臓病が疑われます。救急車で病院へ直行してください。

「大動脈弁閉鎖不全症」の患者さんに「今すぐ救急車で病院に来てください」とお願いし、手術に至ったケースもありました。

2021年3月、患者さんのお嬢さまから、「父が食後に脂汗をかいて救急車を呼ぶと言っています」と連絡がありました。脂汗や冷や汗というのはショック症状です。体の循環が維持できない何らかの不調が起こっている証しです。これは危ないと判断し、すぐに来院いただきました。

血液検査をするとBNP(心臓を守るため特に心室から分泌されるホルモン。心臓の機能が低下して心臓への負担が大きいほど多く分泌され数値が高くなる)の値と心不全がかなり高度でした。すぐ手術をすると危険な状態でした。

2週間ほど心不全の治療をしてから大動脈弁置換を行いました。このように時間が稼げる場合は良いのですが、急性の大動脈弁閉鎖不全症では、心不全が強くてもすぐに手術が必要なケースもあります。

■CT検査やAED、手術で助かる命がある

このように、すでに心臓病の診断がついている人は普段から繊細になっていますから、症状が出ればすぐにかかりつけの心臓専門医に行くことができます。

生まれつき心臓に病気を抱えた先天性心疾患の患者さんでしたら、造影CT検査をすれば、冠動脈の異常がわかります。生まれつき形態的にリスクが高いとわかれば、継続して検査データを蓄積し、問題ない範囲での運動などQOLを保ちながら、万が一発症した場合、迅速に処置ができます。

疲れた表情のビジネスウーマン
写真=iStock.com/PRImageFactory
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PRImageFactory

ある30歳前後の女性患者さんは、右冠動脈が左右の大血管(大動脈と肺動脈)に押しつぶされている先天的な血管走行異常でした。成長するにつれ血管が太くなり、ますます真ん中の血管が圧迫され縦につぶれ、リスクが高まっていました。

ある日、公園でランニング中に突然失神し、倒れて救急車で来院されました。搬送中のAEDで蘇生し、救急受け入れまでの間にカルテを確認し、緊急手術の準備を整え、一命をとりとめることができました。

■日本人に多い無症候性ブルガダ症候群

中でも恐ろしいのが「ブルガダ症候群」です。

特に夜間に突然生じる心停止、心室細動が主な症状です。30~50歳代の日本人を含めたアジア人男性に多く、一過性であれば自然に回復することもありますが、心室細動が止まらない場合は、死に至ることもあります。

普通に生活を送っていた元気な人が朝なかなか起きて来ないので、家族が見に行くとすでに死亡していたケース、いわゆる「ぽっくり病」は「無症候性ブルガダ症候群」ではないかと考えられています。

カーテンの隙間から差す光
写真=iStock.com/Kerrick
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kerrick

日本人として特に注意すべきブルガダ症候群は、定期健診の心電図検査などで特徴的な波形が見つかることで未然に対処することができます。

拡張型心筋症も突然死することがある病気です。「息切れ」、「呼吸困難」、「両下肢や顔面の浮腫(むくみ)」「体重増加」、「食欲低下」、「全身倦怠(けんたい)感」、「手足の冷感」、「尿量の減少」などが症状です。

これは「心臓が大きい」という病気で、レントゲンですぐわかりますので、若いうちから発見でき、未然に対処することができます。

■動悸、めまいを放置してはいけない

心臓突然死は、心房細動によって引き起こされることが大半です。心房細動は重篤な不整脈で、頻脈の一種です。心房が1分間に350~600回、小刻みに痙攣(けいれん)し、血液をうまく全身に送り出せなくなり、「動悸(どうき)」、「めまい」、そして「心不全」を引き起こします。

高齢になるほど発症者が増え、日本における患者数は約130万人、潜在的な患者数は200万人と言われています。誰でもかかり得る、放置していると突然死に至ることもある怖い病気です。心房細動が発症すると、心房の中で「血液の固まり(血栓)」ができ、それが血流に乗って全身に運ばれ、血管を詰まらせてしまうことで脳梗塞の原因になります。

心房細動を予防する第1の選択肢は、保険適応のホルター心電図という24時間記録型の心電図を頻繁につけ、心房細動が起こっているドキュメントをとることです。それにより適切な治療につながります。

最近では心房細動が万が一治らなくても、心原性脳梗塞を予防する手術(2022年4月に新たに保険適用となった左心耳切除術のウルフーオオツカ法)も開発されています。最先端の心臓外科手術の技術革新は、安全で確実な治療の選択肢を与えてくれています。

もう1つの技術革新は、「アップルウオッチ」などのウエアラブル端末です。ウエアラブル端末の進化の波が、心臓血管外科治療の最前線にも押し寄せてきたのです。

■ホルター心電図やウエアラブル端末が強力な味方になる

ウエアラブル端末は常に装着するだけで、24時間365日、脈拍や心電図を管理し、異常を速やかにキャッチしてくれます。ウエアラブル端末に心電図の波形が記録され、心拍数の1日の変化やイベントが記録されます。

心房細動治療のためにウエアラブル端末を取り入れる医療機関も増えてきました。データを主治医に送り、定期健診の心電図や造影CT検査ではキャッチできなかった危ない「予兆」が表れて、すぐに手術に至ったケースもあります。

いつも身につけていれば、先述した心臓病「5つの予兆」や「6つの重症サイン」があったときにすぐにデータをかかりつけの心臓専門医に見せ、診断の手掛かりとしてもらうことができます。

ウエアラブル端末には、心房細動検査の1次スクリーニングとしての広いニーズを感じています。いずれ、いろいろな生体情報を取り出して記録できる端末になると思います。心電図から心筋梗塞や狭心症も判断できるようになりそうです。

心臓の病気は最後の最後にならないと症状として感じる事はできません。それゆえに突然死が後を絶ちません。最後の最後が「人生の最期」となるかもしれません。

心臓病の診断がついた人も、そうでない普通に生活している人も、日常から「予兆」を意識してほしいと思います。「予防」のための検査を心掛け、ウエアラブル端末を活用することも有効です。

突然死は無縁ではありません。少しでも気になったら、早めに心臓専門医を受診しましょう。

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渡邊 剛(わたなべ・ごう)
心臓血管外科医
1958年、東京都生まれ。心臓血管外科医、ロボット外科医(da Vinci Pilot)、医学博士。日本ロボット外科学会理事長、日伯研究者協会副会長。麻布学園高等学校卒業後、医師を志す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に入局する。海外で活躍する心臓外科医になりたいという夢を叶えるためドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてドイツHannover医科大学に留学。金沢大学心肺・総合外科教授、国際医療福祉大学三田病院客員教授などを経て、2014年にニューハート・ワタナベ国際病院を開院。著書に『医者になる人に知っておいてほしいこと』(PHP新書)などがある。

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(心臓血管外科医 渡邊 剛 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)

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