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お荷物のアリババを切り離したが…過去最大の赤字に苦しむ孫正義社長に残された大きな課題

プレジデントオンライン / 2022年8月15日 9時15分

記者会見するソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長=2022年8月8日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■収益源のアリババが減収→株式売却へ

2022年4~6月期、ソフトバンクグループ(SBG)の最終損益は、3兆1627億円の赤字だった。ビジョンファンドの投資先企業の株価下落が響いた。

株価下落の原因の一つはインフレ退治のために米国の連邦準備制度理事会(FRB)が大幅な追加利上げを余儀なくされていることだ。それによって期待先行で株価が上昇したIT先端銘柄が下落した。世界のIT先端分野ではサブスクリプション型のビジネスモデルの行き詰まりも鮮明だ。

中国経済の失速もあり、世界全体で景気後退懸念が高まっている。そうした要因を背景にSBGが出資してきたIT先端分野の企業の株価が大きく下落した。今後、SBGは一段と厳しい事業環境に直面するだろう。FRBや欧州中央銀行(ECB)はインフレ退治のために大幅の利上げを余儀なくされるだろう。ビジョンファンドなどが保有する株式の追加的な下落リスクは高まっている。

それに加えて、SBGの投資事業を根底から支えた中国のアリババ・グループが共産党政権のより強い締め付けに直面している。4~6月期、アリババは上場来初めて減収に陥った。これを受けてSBGは10日、アリババの株式を使った資金調達の一部をアリババ株で返済すると発表した。調達額は約1兆3000億円に上り、アリババは関連会社ではなくなる。資金調達の源だったアリババの株式売却は、SBGの厳しい経営環境を示している。

■株価と共に急拡大、急降下を繰り返している

SBGが計上した3兆1627億円の最終赤字は、4~6月期における本邦企業として過去最大だ。SBGは孫正義会長兼社長の眼力によって企業家の資質を見抜き、人工知能などIT先端分野で高い成長が期待される企業に出資を行う。その上で高値で新規上場株(IPO)を実施して利得を確保してきた。

成功例が中国のアリババだった。同社の業績は世界の株価の変化に大きく影響される。世界的に株価が上昇すると、SBGの業績は拡大する。反対に世界経済の先行き懸念が高まり出資先企業の業績が悪化して株価が下落すると、SBGの業績は急速に悪化する傾向にあった。

例えば、2020年3月23日から2021年11月の半ばまで、世界全体で株価は上昇した。特に、米ナスダック市場などに上場するIT先端企業の株価上昇が鮮明化した。コロナ禍などによって世界経済のデジタル化が加速し、ネット通販企業などの業績が拡大した。FRBなど世界の中央銀行は景気下支えのために超低金利環境と、過剰な流動性供給を実施した。それはIT先端分野の成長期待を一段と押し上げた。

■孫社長は「有頂天になっていた」

一部では“神話”というほどにITプラットフォーマーなどの成長は間違いないという強い期待が膨らんだ。その結果、2021年3月期、SBGは前年の赤字から一転して4兆9880億円の純利益を計上した。有望なITスタートアップ企業などに投資する“ビジョン・ファンド”などの利得が急増した。

しかし、いつまでも株価が上昇し続けることはない。2021年11月末、FRBのパウエル議長は物価上昇が一時的との見方が誤っていたことを認めた。それ以降、利上げと量的引き締め(QT)の同時進行懸念が高まり、期待先行で株価が上昇したIT先端銘柄が売られた。

ウクライナ危機の発生後は物価上昇圧力が一段と高まった。FRBは金融引き締めを急がざるを得なくなった。それに加えて、米国では競争激化やコスト増などによってIT先端分野の業績悪化懸念が高まった。SBGが出資してきた企業の株価は大幅に下落し、過去最大の赤字に転落した。巨額赤字に関して孫氏は「大きな利益が出ている時に有頂天になっていた」と反省の弁を述べた。

■SBGへの逆風はさらに強まる恐れ

今後、SBGの事業環境は厳しさを増すだろう。世界的に金利は上昇し、株価はさらに調整する恐れが高まっている。最大の要因は、世界経済が“グローバル化”から“脱グローバル化”に転じたことだ。1990年代以降、世界経済はグローバル化した。中国は世界経済の仲間入りを果たし“世界の工場”としての地位を確立した。

自由貿易協定などに関する交渉も進み、国境の敷居は低下した。米国などの企業は生産コストを引き下げることが可能になった。人件費などコストのより低い国で企業は生産体制を強化した。ジャスト・イン・タイムのサプライチェーンが強化され、需要の変化に合わせて迅速に、より価格が高い市場で製品を供給する環境が世界全体で整備された。その結果、世界全体で景気が良くなっても物価は上昇しづらくなった。

しかし、米中対立やコロナ禍、ウクライナ危機などによって世界経済は脱グローバル化している。ロシアがドイツなどに対する天然ガス供給量を減らすなど、国境のハードルが引き上がっている。企業の事業運営コストが増えている。その中で景気が悪くなっても、足許のように物価は下がりづらくなるだろう。労働市場が逼迫し賃金が上昇している米国では、FRBが金融引き締めを強化して需要を抑えなければならなくなっている。

■低金利が株価を支える環境は変わり始めている

それによって金利は上昇し、企業の資金調達コストは増えるだろう。米国などで株価は追加的に調整する恐れが高い。その後、景気が回復すると需要が伸び、企業は価格転嫁を急ぐはずだ。グローバル化とは反対に、景気が良くなると物価が急ピッチで上昇しやすくなると考えられる。その結果として、金利は一段と上昇しやすくなるだろう。グローバル化によってもたらされた低金利が株価を支える環境は大きく変わり始めていると考えられる。

それに加えて、中国では不動産バブル崩壊などによって4~6月期の景気が失速した。IT先端企業の締め付けも強化されている。いずれも世界の株価にマイナスだ。そうした懸念の高まりによって、決算発表時、孫氏はコストカットを徹底して守りを強化する考えを示していた。

■アリババを切り離しても課題は山積み

SBGは財務と出資先企業のリスク管理をさらに強化しなければならない。特に、アリババはSBGにとって最大のリスク要因と考えられていた。SBGはアリババ株を担保にして資金を借り入れ、有望なIT先端企業などに投資してきた。

オフィスビルアリババ
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

しかし、アリババの事業運営体制は急速に不安定化し、SBGはアリババ株の一部を売却してでも財務基盤を維持せざるを得なくなった。創業者のジャック・マー氏はフィンテック企業であるアント・グループの支配権を手放す計画だと報じられた。中国共産党政権はアリババへの締め付けをさらに強め、党の意向に沿った事業運営を徹底させようとしている。それはアリババの事業運営の効率性を削ぎ、業績の悪化懸念を高めるだろう。

また、アリババ以外にも過度な成長期待の高まりによってSBGが出資してきた企業が、過剰な人員を抱えている恐れもある。かつてのウィーワークのように、出資先企業のビジネスモデルの問題が顕在化する可能性も否定できない。

■今後、大規模なリストラも考えられる

SBGはこれまで以上に出資先企業の長期の成長力を見極めて、ビジョンファンド全体で価値の下落リスクを削減しなければならない。必要に応じて資産売却を積み増し、借り入れへの依存度を低下させることも必要になるだろう。それは、アリババ株に頼ってきた資金調達体制からの脱却につながる。

それに加えてSBGは英半導体設計会社であるアームのIPOを可能な限り高い値段で実現しなければならない。足許、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどがサブスクリプションからクラウドへ、ビジネスモデルの軸をシフトし始めた。そうした取り組みにアームの半導体設計技術は不可欠だ。

ただし、世界経済の後退懸念の高まりによって、各国で企業の設備投資は徐々に絞られる可能性が高まっている。世界のスマートフォン需要も減少している。アームの成長ペースは鈍化するだろう。このように考えると、成長期待の高い高ベータ株に投資して成長を目指すSBGはより強い逆風に直面する恐れが高まっている。状況によってSBGが大規模なリストラや、ビジョンファンドの銘柄入れ替えを余儀なくされる展開は排除できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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