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子どもが初めて歩いた瞬間を見られなかった…「もう仕事は無理です」と号泣した私が女性部長になるまで

プレジデントオンライン / 2022年8月19日 8時15分

ツヴァイ セールス3部(中部・北陸信州エリア) セールス部長兼CS部長 深見志津さん - 写真提供=ツヴァイ

結婚相談所・ツヴァイでセールス部長として35名のメンバーを率いる深見志津さんは周囲に期待されると応えたいと思う熱血タイプ。そんな深見さんが、これまで一度だけ涙ながらに上司に訴えたことがある。「もう、できません。もう仕事は無理です……」と――。

■1枚のチラシがはじまり

ポストに投函されていた、1枚のチラシがきっかけだった。それは名古屋市内にオープンするショッピングセンターの広告で、テナント店舗の求人情報がずらりと並んでいた。なかでも気になったのが、婚活業界大手のツヴァイが初出店する店舗の求人広告。

結婚して岐阜で暮らす深見さんはずっとエステショップで働いていたが、その会社が倒産。次の仕事を探していたところ、名古屋の夫の実家でたまたま目にしたのがそのチラシだ。「マリッジコンサルタント」という営業職を新規採用する求人を見て、すぐに応募する。31歳のときだった。

「昔から友だちのお世話係というか、私の結婚式で引き合わせて結婚した人も多かったので趣味のようになっていて(笑)。チラシには幸せのお手伝いをする仕事と書かれていて、何だかすごく楽しそうだなと思いました」

■「もっと経験がある人と代わってちょうだい」

2009年3月に採用され、アルバイトとして入社。研修中は覚えることの多さに圧倒されつつも猛勉強し、熱い思いで現場へ飛び込んだ。そもそも「マリッジコンサルタント」とはどんな仕事なのだろう。

「来店されたお客さまには、今までの恋愛観や婚活のご経験などをいろいろお伺いします。入会を迷っている方や、通りがかりで興味を持ったという方も多いので、婚活して幸せになろうという気持ちを促せるように背中を押す仕事ですね。専用アプリがあって、お客さまが選んでどんどん活動していくケースと、こちらから自動的にご紹介するパターンもあります。自分から積極的に会えない方にはお見合いのセッティングをしますし、結婚までのお手伝いもさせていただいています」

交際が始まっても、「メールが途絶えた」など相談を受ければアドバイスをし、婚活サポートを続けていく。当人同士で順調に進んでいけば退会の連絡がくる。ツヴァイで出会った二人が結婚するケース、さらには婚活を通して新たな場で出会いを得る人もいるという。

当時、マリッジコンサルタントといえば、40代から50代の結婚歴が長い女性たちが活躍し、30代の深見さんは新米だった。最初は問い合わせの電話を受けても、「あなた、若いわね。もっと経験のある人と代わってちょうだい」と言われてしまう。わが子の婚活相談をする母親も多く、若い担当には任せられないと躊躇された。

だが、深見さんはひるまなかった。そこでひるんでしまうと、同じ理由で電話を変わり続けるループに入ってしまうと思ったからだ。相手が不安に思うポイントを解消することを意識しつつ、自分なりの営業スタイルを試行錯誤しながら身に付けていった。

■男性には、気づきを与える質問を

「お客さまには、とにかくはっきり正直にお話しすることを心がけました。サービスの説明はしっかり納得していただくため、曖昧な点がないようにお伝えする。婚活のアドバイスをするときは、その方の良い点も悪い点もはっきりお話しします。もちろん言い方には気を付けますが、正直な態度で向き合うことでちゃんと伝わるだろうと思っていたので」

男性の場合は自分に自信を持っている人多く、ストレートに伝えると傷ついてしまいがち。そのためにはまず信頼関係を築くことが大切で、丁寧にコミュニケーションをとりながら「あなたはどう思いますか?」と相手の気づきを引き出していった。

ツヴァイ セールス3部(中部・北陸信州エリア) セールス部長兼CS部長 深見志津さん
(写真提供=ツヴァイ)

逆に自分に自信を持てず、女性と話すことが苦手という人もいた。そんな人には「用事がないときも、気軽にカウンターに立ち寄ってください」と声をかけ、何気ない話をすることで話すことに慣れてもらうようにした。その人はそのうちジムへ通い始め、服装も気遣うようになり、サークルで出会った女性と結婚したという。

「婚活に一歩足を踏み入れることで気持ちが前向きになり、どんどん魅力ある人に変わっていく。そんな姿を目の当たりにすると、うれしくなりますね」

■“説明したつもり”が生んだ返金

仕事は楽しかったが、つらい失敗も何度か味わった。入社まもない頃、3カ月間活動しても合わなければ入会金を返金するというキャンペーンがあった。深見さんは入会時にお客さまに説明したつもりでいたが伝わっておらず、3カ月後に入会金と月会費の返金を求められる事態が発生。最後は上司が対応し、一部返金することになってしまう。自分の確認ミスで会社に迷惑をかけたことで、自責の念にかられたという。

また店舗でいかに丁寧に説明を尽くし、再来店の約束をしても、それきり連絡が途絶えることも度々あった。そうした苦い経験もバネに実績を積み、アルバイトから契約社員に登用される。その後、社内でトレーナー職の公募があり、教育の重要性を感じてきた深見さんも手を挙げた。

トレーナー職に就くと、新人のマリッジコンサルタントを教える立場になった。深見さんは過去の経験を基に熱心に指導するが、そこでまた壁にぶつかることになる。

「自分のペースで教えると付いて来れない人がいて、何でわからないんだろうと思ってしまう。人それぞれスピードが違うのに相手のペースに合わせられず、めちゃくちゃ厳しかったと思います」と苦笑する深見さん。

■救急車からの実母の電話に頭が真っ白に

採用するのは40代の人たちが多かった。家へ帰っても子育てや家事に追われて「時間がない」と、あきらめて辞めていく人もいた。

その大変さを実感したのは、自分も一人目の子どもを授かった後だった。2012年に出産。育休を経て、トレーナー職へ復帰。フルタイムで働き始めたものの、仕事と育児のバランスがどんどん崩れていった。

「復帰したときは出産前と変わらぬ意気込みで仕事に臨みました。私はやりたいことをどんどん提案していくタイプなので、どうしても前のテンションでやってしまう。上司もすごく尊敬している方だったので期待に応えたいという思いもありました。けれど、そのうち何かがおかしいと思うようになって……」

復帰後まもなく、深見さんは沖縄で店舗をオープンする仕事に携わった。上司は「大丈夫?」と気遣ってくれたが、深見さんは「やります!」ときっぱり。1歳の子どもを夫の実家に預け、隔週で2、3泊の出張へ。会員数100名という目標を達成するために新規獲得に力を入れた。

出張中、あるとき実母から電話があった。子どもが舌を切るけがをしてひどく出血し、慌てて救急車を呼んだという。その車内から連絡してきたのだった。

「もう動転して、どうしよう……と。すぐに駆け付けることもできなくて」と深見さんは言葉に詰まる。子どものけがは大事に至らずに済んだが、自分を責め続ける日々が続いた。

「あの頃は保育園から呼ばれることも多く、お母さんに迎えに行ってもらったり、職場で早退させてもらったり。その度、皆に『ごめんなさい』と謝ってばかりでした。私は子どもが初めて歩いた瞬間も見ていないし、そばにいて子どもの成長を一緒に感じることはできない環境下で、自分は何のために仕事をしているんだろうと思うようになったのです」

■働き方を180度変えたワケ

つらい気持ちが溢れ、上司に泣きながら電話したことがあった。

「もう、できません。もう、仕事は無理です……」と。すると上司も、「あなたができるというから信じちゃって、ごめんね」と謝るのだった。もともと上司は気遣ってくれていたのに、自分だけが先走っていたことに気づき、深見さんは恥ずかしくなったと振り返る。

それからは子どもと一緒に過ごす時間を増やし、2016年には二人目の子も出産。復職したのはトレーナーの仕事ではなかった。深見さんは現場を離れ、マリッジコンサルタントの営業数値管理を行うセールスマネージャーを任されたのだ。

しかし、そのときも葛藤があったという。マリッジコンサルタントの仕事は店舗での営業なので、週末の土日が一番忙しい。子育て中の自分は日曜に出勤できないため、マネージャーとして役に立てないと思った。それでも上司には「平日いるときにちゃんとやればいい。あなたは期待されているのだから、まずやってみてから考えなさい」と背中を押され、休日は上司が対応してくれたという。それまでマネージャーは男性が多かったが、会社としては、女性が活躍できる環境をつくりたいという意図もあったのだ。

「私も期待されると、ついがんばろうと思う性格なので(笑)」と深見さん。

■毎朝欠かさないメンバー全員との電話

マネジメントで力を入れたのは、マリッジコンサルタントの心のケアだった。現場ではお客さまの悩みを受け止め、クレーム対応にも追われる。営業数値もモチベーションに関わるので、一人ひとりと面談する機会を設け、毎朝必ず全員と電話することを欠かさない。毎日電話することで今日は声に元気がないなど、ささいな変化に気づけるのだという。

昨年10月にはセールス部の部長に就任し、現在は35名の部下のマネジメントを行っている。やはり不安は大きかったが、管理職になることで現場を担う女性たちの声を上部に伝えていければと努めてきた。

30代で婚活業界に転職し、出産、子育てなどライフスタイルの変化と向き合いながら、ステップアップしてきた深見さん。その中で考えてきたことは、子どもの成長に合わせて優先順位を変えていくことだ。子どもたちが小さい頃は優先順位も子育てが9割を占めていた。だが、成長するにつれて仕事モードに少しずつ切り替えられるようになった。最近ではさらに子どもから手が離れ、今後のキャリアを考え始めている。

深見さんが忘れられない言葉として大事にしているのは、かつて沖縄出張中に経験した子どもの事故後に上司から言われたひと言だ。

「あのとき上司から『頑張り過ぎちゃダメだよ』といわれ、肩の力がすっと抜けました。あ、すべて頑張らなくてもいいんだと思えたら楽になり、人生の中で自分が今やるべきことは何かと取捨選択できるようになったんです」

深見さんは最近10年ぶりにサーフィンを再開した
写真提供=深見さん

今はその言葉を部下の女性たちにも伝えたいと思う。マリッジコンサルタントとは「幸せのお手伝いをする仕事」。そのためにはまず自分自身も幸せであることが大切だろう。

深見さんは最近10年ぶりにサーフィンを再開した。かつて夫と二人で通っていた海で波に乗ることが幸せなひと時になっているようだ。

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歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。

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(ノンフィクションライター 歌代 幸子 文=歌代幸子)

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