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就職、昇格、結婚もストレス源になる…産業医が解説「新生活のストレス」に強い心と体をつくる方法

プレジデントオンライン / 2024年5月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

新年度が始まって1カ月がたった。疲れが出てくる頃だ。環境変化によるストレスへの効果的な対処法はあるのか。産業医の池井佑丞さんは「就職や昇格、結婚といったポジティブな出来事もストレスの原因になる。ストレスへの対処法の選択肢をたくさん持つことがストレスに強い心と体づくりにつながる。いくつか紹介したい」という――。

■仕事や家庭の変化は「ストレスの原因」になる

この春、学校を卒業し新たに就職された方、育休などから復職された方、または生活スタイルの変化から離職や転職をされた方など、環境が変わられた方が多くいらっしゃったと思います。2024年度、大学生(大学院生除く)の就職内定率は2023年12月1日時点で86.0%、短期大学は66.7%(文部科学省「令和5年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(12月1日現在)」2024年1月26日)と、今年も多くの方が社会人としてのスタートを切りました。

また終身雇用の時代からの変化や「働き方改革」によって副業・兼業が認められるようになったことから、離職者数は近年増加傾向にあり、厚生労働省の令和4年雇用動向調査結果の概況によると、令和4年1年間の入職者数は779万8000人、離職者は765万6700人にも上り、新卒生のみならず、多くの方の就労状況に変化があることがわかります。(厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概要」2023年8月22日)

雇用上の変化や家庭の生活の変化、経済状況の変化は、ストレスの原因(ストレッサー)となります。

※「医学や心理学の領域では、こころや体にかかる外部からの刺激をストレッサーと言い、ストレッサーに適応しようとして、こころや体に生じたさまざまな反応をストレス反応と言います」厚生労働省「こころの耳」より

■ポジティブな出来事もストレスの原因になる

ライフイベントと日本人勤労者の職場生活に関するストレッサーを点数化したデータによると、配偶者の死:83、夫婦の別居(離婚):72というスコアに対し、会社を変わること:64、単身赴任:60、労働条件の大きな変化:55、自身の昇進昇格:40という、結果が得られています。ネガティブな出来事ばかりではなく、結婚や出産、就職といったポジティブな出来事も新たな状況に適応するため、それまでの習慣や生活パターンを変化させる必要に迫られることから、ストレス度は低いものの時にはストレッサーとなることが明らかとなっています。[夏目誠、村田弘、杉本寛治ほか「勤労者におけるストレス評価法」産業医学:30(4)、266-279、1988]

今回は就職、復職、離職によって環境が変わられた皆様に、ストレスとの向き合い方について、ご提案できればと思います。

ストレッサーには自然災害やテロといった外傷性ストレッサーや、現実に遭遇していない出来事であっても、「〜かもしれない」「〜したらどうしよう」と考える心理的ストレッサー、人間関係や生活環境の変化による生活環境ストレッサーがあります。

■ストレスの対処法をたくさん持っているとストレスに強くなる

ストレスへの対処法(ストレスコーピング)としては、①ストレッサーとなっている状況や問題に働きかけ、直接解決を目指す問題焦点型、②悩みを打ち明けたり、日記に気持ちを表したりするなど不快な感情を軽減させる情動焦点型、③見方や視点を変える認知的再評価型、④自分だけで解決を図るのではなく、知人や仲間などに協力を仰ぐ社会的支援探索型、⑤体にアプローチすることでストレスを減らす身体型、⑥趣味などによってリフレッシュする気晴らし型があります(日本ストレスマネジメント学会「イライラのマネジメント ダイジェスト版」)。

これらを時と場合によって、うまく使い分け、対処法の選択肢をたくさん持てることがストレスに強い心と体づくりにつながります。

キャンプ場で朝日を眺めながら朝のコーヒーを飲む男性
写真=iStock.com/okugawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okugawa

■「脅威」より「挑戦」の気持ちが強くなれば自信を持てる

就職、復職、離職のような、起こりうる時期や状況が予測できるイベントに対しては、本来であれば、事前にそれぞれの状況に備えることがおすすめです。例えば、ご自身のキャリアプランと照らし合わせながら、新しい職場へ適応するために必要なことを時間軸と共に整理します。プライオリティを設定した時間管理や健康的なライフスタイルを維持するための計画を具体的に立てると良いでしょう。また事後であっても、理想像と現実のギャップを洗い出し、必要な対策を講じることでストレス軽減を図ることができるでしょう。そしてその際には、細かくギャップを洗い出すことで多角に問題を捉えることができると思います。

いずれにおいても、そのような場面においては自分ひとりで解決せず、周囲の人たちとのコミュニケーションを大切に、よりよい解決の糸口を見出すことが大切です。家族や信頼できる同僚のほか、離職時には、キャリアカウンセリングや離職手続きのサポートを、また就職や復職時には労務人事や産業医などからの支援も活用できると良いでしょう。

環境に変化がある時、不安な気持ちやネガティブな感情を持つことは自然なことです。素直に気持ちを受け入れて、感情をコントロールすることが大切です。環境の変化から起こりうる問題を正しく認識して、漠然とした不安から解放されましょう。心理学者のリチャード・ラザルスは、問題解決への自信には、問題を「脅威/挑戦」のどちらに捉えるかが影響すること、「脅威(恐怖、不安、怒りなどの否定的な情動によって特徴づけられる)」よりも、「挑戦(熱意、興奮、陽気などの肯定的な情動によって特徴づけられる)」が優位となれば自信を高くもてるとしています(Richard S. Lazarus, PhD (2006) . Stress and Emotion: A New Syntehsis: Springer Publishing Company )。ストレスの原因を挑戦と捉え、自信を持って問題解決に取り組めると良いですね。

■日常生活でセロトニンを増やすことを意識

ストレス発散の方法は千差万別です。アウトドアで日光を浴びることを心地よく感じる方もいれば、ゲームに没頭することで、ストレスから解放される方もいるでしょう。自分なりの気分転換の方法を取り入れられると良いです。

ホルモンの観点からお話しすると、ストレスに関係のあるホルモンの一つにセロトニンがあります。セロトニンは精神的な活動に影響を与える働きがあり、セロトニンの増加が怒りや焦りなどのマイナスな感情を抑制すると言われています。下記を参考に、日常生活でもセロトニンを増やすことを意識されてみてください。

・食事から摂取する

セロトニンは脳内で生成されますが、生成するためには必須アミノ酸の一つであるトリプトファンが必要になります。トリプトファンは体内で作り出すことができないため、食事から摂取することが必要です。トリプトファンを多く含む牛肉、牛乳、ナッツ類を積極的に取りましょう。トマトジュースもお勧めです。

牛乳
写真=iStock.com/naturalbox
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/naturalbox
・運動で増やす

リズミカルな運動によって、セロトニンの分泌が促されます。ウォーキング、サイクリング、ダンスなどのリズム性のある運動をすることは効果的です。ガムを噛むこともリズミカルな咀嚼(そしゃく)運動になります。

・日の光を浴びる

太陽光によって、脳内のセロトニン神経が活性化され、セロトニンの分泌が促されます。

■従業員が健康的に過ごせる会社は離職率が低い

また組織のあり方としての観点からは、従業員が身体的・精神的に健康で過ごせる、かつ生産性向上を望める組織であることが大切です。長時間労働の是正やワークライフバランスへの取り組みは結果、離職率の改善につながります。離職率の全国平均が11.4%(2019年)のところ、健康経営に取り組む「健康経営優良法人」では5.4%にとどまっており、そのことはデータ的にも結論づけられています。(経済産業省「健康経営の推進について」2021年10月)

ご自身が転職や就職をされる場合のみならず、この時期にはチームメンバーが入れ替わるなど職場環境が変わられる方も多いでしょう。ストレスを感じやすいタイプの人には、真面目で完璧を求めるが故に不満を溜めやすい完璧主義タイプ、自分の思いのままに動かしたい傾向にあり、怒りの閾値(いきち)が低いタイプ、はっきりと嫌だといえない従順な溜め込みタイプなどがあります。いろいろな考え方、性格を持った方が集まっているのが組織ですから、互いが精神的に健康で過ごせるような配慮がなされるべきです。

■「シビリティ」を意識した風土づくりが重要

「シビリティ(Civility)」という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。シビリティとは、「社会的な規範を守った丁寧さ、礼儀正しさ」と訳され、労働者間の礼儀正しいコミュニケーションと協力関係を維持する倫理観を表しています。職場における具体事例としては、傾聴や挨拶などで互いに礼儀正しく接し、チームワークの精神を持って協力して業務を遂行していること、意見が対立する場面にあっても公平に解決される状況をシビリティが高いと評価します。

反対に、会話が最低限しかなかったり、グループチャットや会議などで叱責が起きたりしている状況はシビリティが低いと言えます。互いを尊重し、目標に向かって個々の能力を十分に発揮できる組織力と環境も大切です。労働安全衛生や従業員の健康管理体制の整備と並行して、シビリティを意識した風土づくりができると良いでしょう。

新たな環境で働き始めた方、ステージを変えて新たな生活を始められた方が、ストレスと向き合いながらより良い環境で、自己実現への歩みを進められますよう、応援しています。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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