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なぜアマゾンは「レジなしスーパー」をあきらめたのか…最先端システムが「話と違う結果」になったワケ

プレジデントオンライン / 2024年5月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LookImages

■「今後はシステムを導入しない」と表明

米Amazonが進めてきた「レジなしストア」が岐路に立たされている。

Amazonはアメリカとイギリスの一部地域で、生鮮食品などを扱う実店舗のスーパーマーケット「Amazonフレッシュ」とコンビニエンスストアの「Amazon Go」を展開。このうちフレッシュの一部店舗とGoの全店舗で、「レジなしストア」を売りにしていた。

レジなしストアは、同社独自開発の「ジャスト・ウォーク・アウト(立ち去るだけ)」システムを配備。好きな商品を手に取って店を立ち去るだけで、クレジットカードに後日請求される。レジはない。利用者は会計に並ぶ必要がなく、Amazonはレジ係の人件費をすべてカットできるという画期的な試みだった。

だが、Amazonは今年後半以降にオープンするAmazonフレッシュの店舗について、レジなしシステムを導入しない方針を表明した。フレッシュの既存店でも、改修のタイミングで撤去する方針だという。

米ブルームバーグは4月2日、「Amazon.com Inc.は、レジ不要の「ジャスト・ウォーク・アウト」を食料品店から撤去する」「野心的な技術からの後退となる」と報じている。

■自動会計は名ばかりという報道も

Amazonは4月現在、アメリカでAmazonフレッシュ41店舗を展開しており、うち24店舗でジャスト・ウォーク・アウトを導入している。このほか、22店舗のAmazon Goはすべてが「レジなし」となっている。

なぜシステム撤去に踏み切ったのか。

米著名テックメディアのギズモードは、ジャスト・ウォーク・アウトの開発チームに近い関係者の証言として、自動会計を謳っていたにもかかわらず、実際にはインドのリモート拠点で約1000人の確認係を雇っていたと報じた。Amazonの担当者が監視カメラの映像を閲覧し、顧客が何を買ったか目視で判定していたという。

記事によると、ジャスト・ウォーク・アウトの立ち上げ当時はほぼすべての顧客を人間が確認する必要があり、現在でも20~50%のケースで人間が判断していると、元上級チームメンバーの情報筋は述べている。Amazonはジャスト・ウォーク・アウトを縮小する意向であり、担当チームは一部メンバーを残して解雇されたという。

ただし、Amazonはこの報道に反論している。同社は4月17日、Amazonはブログ上で声明を発表した。手作業での登録はあくまでAIの精度向上を目的としており、買い物の大部分が手作業で登録されているとの報道は「真実でない」と否定した。ただし同社は、買い物全体の何割が誤認識されているか、具体的な数字は明らかにしなかった。

■AIの画像解析でも誤請求が繰り返される

Amazonの「レジなしストア」が商品を正確に検知できていないという報道は以前からある。

米CNBCが22年8月に配信した記事では、ケイティー・スクーロヴ記者が商品を手に取り、退店したところ、彼女のアカウントに誤った金額が請求された。

「店内でもかなり監視の厳しいエリアを素早く通ったところ、誤請求を受けてしまいました」とスクーロヴ記者は語る。

何も気にせず店舗を立ち去れることがジャスト・ウォーク・アウトの最大の売りであるはずだが、後から届く明細を毎度確認しないといけないのであれば、目の前で登録してくれる有人レジの方がまだ安心で使い勝手がよいだろう。

2021年3月4日、ロンドン西部のイーリングにあるアマゾンの新店舗「アマゾン・フレッシュ」に入店し、携帯電話をスキャンする客。
写真=AFP/時事通信フォト
2021年3月4日、ロンドン西部のイーリングにあるアマゾンの新店舗「アマゾン・フレッシュ」に入店し、携帯電話をスキャンする客。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■アプリで確認しないと気づかないまま

こうした事例は他にもある。ロサンゼルスのニュース局「KTLA」では、リッチ・デムーロ記者が2022年、ジャスト・ウォーク・アウトを導入したAmazon Goのコンビニを訪れている。

何度も利用したというデムーロ記者は、店舗のコンセプトには満足したようだが、「ジャスト・ウォーク・アウトの技術は必ずしも完璧ではない」「私の経験上、間違った商品の代金を請求されることが時々ある」と指摘する。

誤請求された場合、Amazonアプリから比較的スムーズに返金請求できる。だが、そもそもアプリを開いて都度確認しなければ、買った金額より多くを支払ったままだ。さらに、確認に必要な明細は店ですぐ発行されるわけではなく、数分経ってからAmazonアプリに届く。確認の機会を逃してしまうこともあるだろう。

■プライバシーの懸念…360台の監視カメラが客を見張っている

ジャスト・ウォーク・アウトの問題は、正確性にとどまらない。プライバシーにも重大な懸念があると指摘されている。最大の問題は、尋常でない数の店内カメラだ。

CNBCのスクーロヴ記者は2022年8月、Amazon傘下で小売店舗を展開するホール・フーズ・マーケットを訪問している。同チェーンとして初めてジャスト・ウォーク・アウトを導入した2店舗のうち1つだ。

スクーロヴ記者は、「数百台という数のカメラが、野菜やクッキーを手に取る私の一挙一動を監視していました」と語る。

同局が捉えた店内の映像では、倉庫のように高く設けられた天井から、無数の黒いカメラが等間隔で吊られている。店内の棚の間を走る通路1列あたり、少なくとも28台のカメラが設けられていることを確認できる。仮に、店舗全体で通路が10列、横方向の連絡通路が3本ほどあると仮定した場合、店内に吊られたカメラの数は360台を超える。

1台置かれているだけでもプライバシーが気になる監視カメラだが、数百台のカメラに監視されながらのショッピングは異様な体験だ。カートにも秤が仕込まれ、入れたものの重量を把握しているという。

ダッシュカートは、お買い物と同時に商品の価格を表示します。
写真=amazon

レジなしストアの特性上、無数のカメラの設置は避けられない。Amazonとは別にレジなし店舗の設置を進める米コンビニチェーンのLoopでは、ガソリンスタンドに併設された150平方メートルほどの小さな店内に、109台のカメラがひしめく。

■まるでディストピア…入り口で掌紋を読み取られる店舗も

個人情報も心配のタネだ。ホール・フーズの導入店の場合、導入店舗は駅の改札のようなゲートで封鎖されており、身分を証明してからでないと入店できない。ゲートに設けられた小型カメラに手をかざし、「Amazon One」と呼ばれる個人認証・会計システムに掌紋を読み取らせてから入店する。

ほかにクレジットカードやAmazonアプリで入店する方法もあるが、いずれにせよ何らかの個人情報を渡したうえで、数百台のカメラに行動を監視されることになる。行動データは最大で30日間、店舗またはアプリに保存される。

英BBCは、イギリスに無人店舗のAmazonフレッシュが上陸した2021年3月、市民のあいだでプライバシーへの懸念が巻き起こったと報じている。大企業による個人情報収集に警鐘を鳴らす英市民団体「ビッグ・ブラザー・ウォッチ」のシルキー・カルロ氏は、「(Amazonフレッシュは)ディストピアのような、あらゆるものが監視されたショッピング体験をもたらす」と警告した。

■スマートカート導入、買い物客が手作業で登録する方式に

Amazonが個人情報の懸念に応えたとは言い切れないが、いずれにせよ同社は少なくともAmazonフレッシュについて、ジャスト・ウォーク・アウトの廃止を決めた。テックメディアによる先行報道に次いで、4月2日の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが報じている。

ジャスト・ウォーク・アウトに見切りを付けたAmazonは、代わりにスマート・ショッピングカート「ダッシュ・カート」を導入する。店内にカメラを設ける代わりに、車のダッシュボードのような装置をショッピングカートに搭載したものだ。

新型「ダッシュ・カート」
写真=amazon
新型「ダッシュ・カート」 - 写真=amazon

ダッシュボードの下部にはコード読み取り用のスキャナが用意されており、客はカート使用前にAmazonアプリのコードなどをかざしてカートに「サインイン」する。商品をカートに入れる際、ダッシュボード前方のスキャナで顧客自身が商品をスキャンすると、料金に計上される。顧客による手作業での登録に落ち着いた形だ。

ロサンゼルスのニュース局「ABC7」サンフランシスコ・ベイエリア局は、ホール・フーズのカリフォルニア州サンマテオ店などですでに導入されていると紹介している。Amazonのレジなしストアを担うダッシュカートだが、否定的な反応も聞かれる。万引きが横行するサンフランシスコ周辺で、どの程度正しく利用されるか不透明だ。

■セルフレジを設置に逆戻り

カートへの実質的な転換だが、Amazonとしてはあくまで棲み分けを行ったとの立場だ。AP通信によると同社は、株主向けのレターで、小型店を訪れる客はカートなしで素早くショッピングを済ませたい一方、「大型食料品店の顧客は、一緒に移動してくれるショッピング・アシスタントを求めているということに私たちは気づいたのです」と説明している。

広いスーパーにはダッシュ・カートが向いている――との説明だが、万人が納得したわけではない。米有力テックメディアのヴァージは、商品数の多いスーパーではジャスト・ウォーク・アウトが機能しなかった事実を暗に認めた形ではないか、と指摘している。

Amazonはダッシュ・カートに加え、セルフレジも導入する。米ギズモードは4月3日、「Amazonフレッシュの店舗では今後、Amazon会員でない人に向け、セルフレジも設置される」と報じた。

しかしこの動きは、セルフレジを廃止したい小売業界の流れに逆行している。一時期は導入が拡大したセルフレジだが、アメリカでは一部商品をスキャンしないなどの不正利用が深刻化。すでに小売り大手のターゲットが縮退の方針を示していたうえ、米CBSは4月19日、ウォルマートも一部州で廃止や購入点数の制限に乗り出したと報じている。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙もAmazonフレッシュでのセルフレジ設置を報じ、「様々なセルフレジを採用した結果、買い物客の不評を買い、数年後に廃止した例が出ている」と言及。3月にも米ディスカウント店のファイブ・ビロウが、万引きの多さを理由にセルフレジの利用制限の方針を発表している

■レジ待ちのストレスは減ったけれど…

私たち消費者の視点から見ても、Amazonは二面性を持つ企業だ。良い面としては、かつて売り手の顔が見えず、不安が付きまとったネットショッピングの世界を一変させ、ワンクリックで当日や翌日に安心して配送を受けられる枠組みを作り上げた。

その一方、ユーザーの購買履歴やカード情報を把握している関係上、個人情報への懸念が付きまとう。モラル面での評判も芳しくない。有料会員「Prime」のキャンセル手続きを複雑化しているとしてFTC(米連邦取引委員会)に訴えられたほか、同社のサイト上で散見される低品質な商品や偽レビューへの対応も十分に行われていない。便利だが、全幅の信頼を置くわけにはいかない。それが多くのユーザーの認識でもあろう。

そんなAmazonが、消費者のふだん利用する実店舗を変えようとしている。将来的には好むと好まざるとにかかわらず、Amazonまたはライセンスを受けたパートナー企業によるレジなし店舗が、日本に進出する展開があるかもしれない。イギリスへはすでに海外進出を果たしている。ひとたび国内に登場すれば、大型モールが地元の商店街を駆逐するように、日本のスーパーを軒並み置き換えてゆく可能性もゼロではない。

地元のスーパーやコンビニで、いつか数百台のカメラに囲まれるようになったとき、立地によってはやむを得ずその店に通い続けざるを得ないこともあるだろう。カメラだらけの店舗が日本に増殖する未来は、受け入れることができるだろうか。レジ列不要のストアと聞けば耳に心地よいが、監視されながらのショッピング体験は快適とはいいづらそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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