雄性不妊にかかわる新規の遺伝子を発見-精子形成の減数分裂に熱ショック因子が関与するメカニズムを明らかに-
PR TIMES / 2024年4月30日 18時45分
・精子が作られる際に減数分裂進行のコントロール役として働く遺伝子「HSF5」を特定しました。
・HSF5遺伝子に障害が起きると精子が作られず不妊となることを明らかにしました。
・HSF5は熱ショック因子と分類されるタンパク質の一つですが、予想外に熱ショック応答には関係せず、減数分裂の終了プロセスと精子の形成の調節に役割を果たす新規の重要な遺伝子であることを明らかにしました。
今後の無精子症や精子形成不全を示す不妊症の原因解明など生殖医療の進展につながる可能性があります。
熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎教授、大学院医学教育部博士課程4年次の吉村早織大学院生及び島田龍輝助教のグループは、精子形成において減数分裂のプログラムの終結を制御する新しい遺伝子を発見しました。これまで、精子が作られる際に、減数分裂のプログラムに関わる遺伝子の発現を不活性化させる仕組みの詳細は明らかになっていなかったため、今後の無精子症や精子形成不全を示す不妊症の原因解明など生殖医療の進展につながる可能性があります。
本研究成果は、日本時間2024年4月 29日(月)18時(ロンドン時間 4月29日10時)に、Springer Nature社が刊行する科学学術誌「Nature communications」のオンライン版に掲載されました。本研究は文部科学省 科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて、熊本大学生命資源研究・支援センター及び徳島大学先端酵素学研究所との共同で実施したものです。
【研究の内容】
卵巣や精巣では減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて、染色体の数が元の半分になることにより卵子や精子が作り出されます(図1)。卵子や精子形成過程のいずれにおいても、おおむね減数分裂は同じ仕組みで起きますが、雌雄でコントロールのされ方が異なることがわかっています。特に精巣では減数分裂の完了後に精子形成に特徴的な大きな形態変化が生じます。この精子形成に向けて、減数分裂を実行するために活発であった多くの遺伝子の発現が不活性化されます。石黒教授らの研究グループは、これまでの研究で減数分裂のスイッチを入れる遺伝子MEIOSINを発見し、それによって数百種類におよぶ精子・卵子の形成に関わる遺伝子が一斉に働くことや、MEIOSINの働きによって体細胞分裂から減数分裂に切り替わるメカニズムを明らかにしました(Ishiguro et al., Dev Cell 2020)。
しかしながら、精子形成に向けた遺伝子の活性化と減数分裂を終結に向かわせるメカニズムの詳細は不明であり、男性の不妊などの生殖医療とも直結する重要な問題でありながら、世界的にも長年解明されない課題でした。
【展開】
今回の成果はマウスを用いて検証されたものですが、HSF5はヒトにも存在することがわかっています。ヒトに見られる不妊症は原因が不明とされる症例が多いことが知られていますが、今回の発見は、特に精子の形成不全を示す不妊症の病態解明に資することが期待されます。また、近年の晩婚化傾向や不妊治療への保険適用が開始されるなどの社会的背景からも、将来的には減数分裂のクオリティを担保する技術開発の応用など、生殖医療に大いに貢献することが期待されます。
【論文情報】
論文名:Atypical heat shock transcription factor HSF5 is critical for male meiotic prophase under non-stress conditions.
著者:Yoshimura S, Shimada R, Kikuchi K, Kawagoe S, Abe H, Iisaka S, Fujimura S, Yasunaga K, Usuki S, Tani N, Ohba T, Kondoh E, Saio T, Araki K, Ishiguro K
掲載誌:Nature Communications 15 (2024)
DOI:10.1038/s41467-024-47601-0.
また、本研究は以下の支援を受けて行われました。
日本医療研究開発機構(AMED)
・革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」研究開発領域「疾患モデル動物を用いた生殖可能ライフスパンに関する研究開発」(JP21gm6310021)
日本学術振興会(JSPS)・文部科学省科学研究費
・新学術領域研究19H05743「減数分裂における高次クロマチン構造の確立機構の解明」
・基盤研究(A)23H00379「体細胞分裂と減数分裂との本質的な違いを決定するメカニズムの解明」
・挑戦的研究(萌芽) 22K19315「メス生殖細胞に特異的な減数分裂制御機構の解明」
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240429
[画像: https://prtimes.jp/i/124365/101/resize/d124365-101-d6a68175f74ed96cb1e6-0.jpg ]
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