三菱『トライトン』新型のデザインを“体感”してわかった「パジェロ復活」の伏線
レスポンス / 2024年4月1日 15時0分
公道では紳士だが、オフロードでは逞しい。そんな新型三菱『トライトン』の乗り味を、デザイン視点でどう解釈すべきか? いろいろ考えたら、『パジェロ』復活への道筋が見えてきた…かも?
◆ビースト=野獣ではない紳士のふるまい
新型トライトンのデザインをとりまとめた三菱自動車の吉峰典彦氏は、「何事も恐れない強い心を持ち合わせた真のビーストの佇まいを表現するために、コンセプトを『ビーストモード、勇猛果敢』とした」と語る。その背景には、ピックアップトラック・ユーザーがデザインに求めるのは「力強さ、逞しさ、タフさ」だという調査結果があったという。
そんな新型トライトンに試乗し、デザインを体感してみた。まず一般公道では、野獣を意味するビーストの言葉とは裏腹のリラックス感覚。大柄で重たいボディだから、ワインディングでクイックに向きを変えるわけではない。でも、「大船に身をまかせる」ようなゆったりとした乗り味に心が和む。
思い出したのが、90年代にSUVが流行り始めた頃の経験だ。当時のオフロードタイヤは直進性に曖昧な部分があったのだが、出来の良いSUVは重たいタイヤのジャイロ効果を巧く活かして真っ直ぐに走ったものだ。運転するこちらも細かい修正舵はせず、クルマにまかせて走らせるとジャイロ効果の恩恵を感じやすくなる。
そうした古き良きSUVの美点を、現代の最新技術で進化させたのが新型トライトンだと思う。1トン積みトラックを空荷状態で試乗したせいか、舗装路面の微妙な不整でリヤの縦揺れが残りがちだが、それはプレミアムな乗用車でも「ちょっと気になるかな」というレベル。リヤがリーフスプリングだというのが信じられないくらい洗練された乗り心地だ。
それはそれでよいとして、ビーストという言葉から連想するワイルドさはない。一般公道での新型トライトンはむしろ分別をわきまえ、何事にも余裕を持って対処する紳士のイメージだ。だからって、このデザインが乗り味に相応しくないとは思わないけれど…。
◆オフロードでロバストさの真価を実感
次にオフロードコースで試乗。前日は雨だったそうだが、この日は“あいにくの”晴天。コースはほぼドライ路面なので、あらかじめ「通れる」ように設定されたコースを新型トライトンは苦もなく「通って」しまう。ドライブモードを路面に合わせて選べば、という条件が付くけれどね。2周目に急な下り坂でヒルデセントコントロールをオフにしても、何の不安もなかった。
そんなオフロード試乗で感じたのは、全幅の信頼を寄せられる逞しさ。それを体感してあらためてデザインを眺めると、なるほど調査結果にあった通りの「力強さ、逞しさ、タフさ」が表現されている。
わかりやすいのがフロントだろう。三菱顔を特徴付ける「ダイナミックシールド」について、吉峰デザイナーは「史上最もロバスト(屈強)なデザインだ」と語る。注目したいのが、グリルとコーナー部の間に入れたガーニッシュだ。「GLS」ではメッキ、上級「GSR」ではブラックのガーニッシュが入る。
『エクリプス クロス』や『アウトランダー』とは異なり、新型トライトンではこのガーニッシュがヘッドランプ下から真っ直ぐ垂直に下りる。斜めに降ろさず垂直にしたところが、ロバストさのポイントだ。
垂直線は重力に従ったラインだから、地面に突き刺さるような安定感を生み出す。同時に垂直線は重力に逆らって起立する力強さも表現する。この真逆のイメージの相乗効果がロバスト表現には欠かせない。だからダイハツ『タフト』からランドローバー『ディフェンダー』まで、ロバストさやタフさを重視したいSUVはフロントやリヤに斜め線より垂直線を多用するのである。
さらに悪路を走るオフローダーでは、ドライバーが車両姿勢を把握しやすいように、ベルトラインやカウル、ボンネット前端などドライバーの視界に入るラインを水平基調にするのが原則。自ずとサイドビューは水平基調になるし、フロントとリヤは水平線と垂直線をがっちりと組み合わせてロバストな表情になってくる。
新型トライトンはそうしたロバスト表現の定石をしっかり踏まえながら、ひと目でそれとわかる個性を表現したデザインだ。とくに上級GSRはボディ共色の四角いグリルを前に押し出して厚みを持たせ、ロバストな個性を強調。グリルがボディ色だから、そこに刻んだ水平基調の黒い開口部が目立つのもロバストさを印象づける。
そう言えば、映画や舞台でお馴染みの『美女と野獣』の野獣の正体は心優しい青年だった。オフロードをものともしない屈強なビーストが、実は穏健な紳士の一面を隠し持っていても不思議はないのかもしれない。
◆エンジン搭載位置の進化は何を示唆する?
日本では販売しなかった先代に対して、新型トライトンはホイールベースを130mm延ばしつつ、リヤオーバーハングを125mm切り詰めて、ベースのGLSでは全長を+15mmに抑えた。大事なのはここからだ。
「タイヤを目一杯外に出しながら、前輪を前方に移してホイールベースを延長し、フロントをショートオーバーハング化した」と吉峰デザイナー。しかし実際のフロントオーバーハングはGSLで10mm、グリルに厚みを持たせたGSRでは50mm、それぞれ先代より延びている。
歩行者保護要件が強化されるにつれ、フロントオーバーハングは延びがちだ。そこで新型の開発陣は前輪を前に出した。前輪を基準にすれば、エンジン搭載位置を後ろに引いたわけだ。これがなかったらフロントがもっと長くなってしまうが、レイアウト変更でそれを最小化した。吉峰デザイナーの言う「ショートオーバーハング化」とは、そういう意味だ。
トライトンのルーツは1978年に発売された初代『L200』(日本名『フォルテ』)。試乗会でお目にかかった三菱ラリーのレジェンド、増岡浩氏は初代パジェロより早く、80年代にフォルテの4WDで海外ラリーに挑戦したという。
初代パジェロは初代L200のシャシーをベースにエンジン搭載位置を後ろに引いて前後重量配分を改善し、リヤサスをリーフから3リンクに変えた。その一方、95年発売の3代目L200(日本では2代目『ストラーダ』)をベースに、SUVの『チャレンジャー』が96年に誕生した。
90年代の日本では、パジェロなどのクロカンSUVが飛ぶように売れていた。そこでピックアップのL200をベースに、もう少しお買い得なSUVを提供しようとしたのがチャレンジャーだ。しかしそれが功を奏せず、01年に国内販売を終了。海外名『パジェロスポーツ』は存続し、以後は新興国に活躍の場を見出していった。
だから…と言うべきか、99年に2代目パジェロが発売されたとき、その開発陣は「チャレンジャーとはエンジン搭載位置が違う。あちらはピックアップ派生車だ」と、本格オフローダーのプライドを隠さなかった。今回の新型トライトンがエンジンを後ろに引いたと聞いて、思い出したのがこのエピソード。新型トライトンは「パジェロDNA」を取り入れたのである。
新型トライトンを試乗・取材した翌週の3月22日、日本経済新聞が「三菱自動車が早ければ2026年度にも『パジェロ』ブランドのSUVを国内で発売する」と報じた。新型トライトンのプラットフォームをベースにするという。
次世代パジェロスポーツを日本で「パジェロ」の名で販売するというのは、充分にあり得る話だろう。レイアウトを見直して「パジェロDNA」を取り入れたのも、史上最もロバストなデザインにしたのも、パジェロ復活を視野に入れてのことだとしたら…。これはもう、楽しみと言うしかない。
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