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「お前が殴ったと他の者が言っている」米兵の十字架を建てた兵曹長は偽りを書いた~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#40

RKB毎日放送 / 2024年5月3日 22時16分

1945年4月15日、石垣島で米軍機の搭乗員3人が処刑された石垣島事件。3番目に殺害されたロイド兵曹を誰が銃剣で刺したかを目の前で見ていた炭床静男兵曹長。国立公文書館のファイルから、二通の陳述書のほかに、証言台に立つ際に弁護側から提出された口述書の下書きが見つかった。「共同謀議」に誘導するよう仕向けられた兵曹長が述べていたのはー。

◆命令か、自発的か

「NO.72」と書かれた炭床静男の2通目の陳述書。検事の調べによるものだとみられる。最初は、ロイド兵曹を誰が銃剣で刺したかを聞かれている。命令によるものか、自発的にやったのか、目撃した人物それぞれについて聞かれ、炭床兵曹長は、次にように答えた。まず、銃剣で刺した士官について。処刑現場の指揮をとっていた榎本中尉は、「自発的に」刺した。炭床兵曹長が持っていた杖でロイド兵曹を叩いた北田兵曹長は、「自発的か命令によるか知らぬ」。炭床兵曹長自身が刺したのは「榎本中尉の命令による」。

次に銃剣で刺した下士官について聞かれているが、ここで炭床兵曹長は最初と二番目に刺した藤中一等兵曹と成迫上等兵曹については、「自発的か命令によるか知らぬ」と答えている。この他、二人の下士官については、田口少尉、榎本中尉の命令によるとしていた。さらに銃剣で刺した兵について聞かれているが、一人は「田口少尉の命令による」と答え、あと4人の兵は、「自発的か命令によるか知らぬ」となっている。

◆田口少尉が「仇討ち」を命令?

田口少尉は、二人目の飛行士を斬首しているが、炭床兵曹長は、その田口少尉が自分の隊員に仇討ちを命じていたと書いている。

「私は田口少尉が次の様に一小隊の兵に命令しているのを聞いた。『空襲でやられた三名の仇討ちをやるんだ。猛烈に突け』。この他の小隊については兵が銃剣刺殺を自発的にしたか命令によってしたか私は知らない」

この陳述書は、検察側から裁判に証拠として提出されたものを、弁護人が被告本人に見せて、違うところがないか確認をしたようなものであり、ところどころにメモが入っている。この文中、「猛烈に突け」というところに、「しっかり突け」と訂正するようなメモが入っている。

そしてさらに田口少尉について、「(飛行士の)一名は田口によって自発的に軍刀で首を切られた。後に田口少尉が『俘虜の首を切って私の隊の戦死者の仇討ちをした。これでせいせいした』というのを聞いた」

炭床兵曹長は、最初に福岡でとられた調書の文中、田口少尉が処刑を自分から申し出てやったという部分を「言っていない」と全否定していた。「せいせいした」というのは、さらに田口が自主的に処刑したようにとれる内容だ。前の調書と比べると、この陳述書には、あまりメモが入っていない。重複するところが多いので、訂正を入れていないのかもしれない。炭床兵曹長に関しては、あと一通、「弁護資料」と書かれた文書があった。これが、最終的な炭床兵曹長が述べた真実ということになるのだろうか。

◆証言前につくられた弁護資料

国立公文書館で見る事ができる資料は、原本をコピーしたものが多い。そのため、字が薄くて読めないものもある。炭床兵曹長の弁護資料と書かれた文書は、コピーをさらにコピーしたようなもので、かなり読みにくい。判読不明の部分があるのをご容赦いただきたい。

日付は、「昭和23年1月8日」とかろうじて読めるくらいだ。炭床兵曹長は、およそ1ヶ月後の2月12日に証人台に立っている。その日は、弁護側から証拠の口述書が提出され、朗読されたあとに、検事の反対尋問に炭床兵曹長が答えている。この弁護資料には、線がひかれたり、省略する部分が示されたりしているので、口述書の下書きではないかと思われる。

内容は次の通りだ。

◆自己の意志によって行動せず

起訴状の罪状項目について申し述べます。

1、「共同意志を以て」という部分について私は昭和20年(1945年)4月中旬のある日、正午頃、3人の連合軍飛行士を捕らえた事を知り、同日午後2時頃、防空壕の前で尋問しているのを見ました。同日夕食後、すぐ2人の戦死者の火葬の為、作業員と共に火葬場に行っておりました。午後8時頃、約300メートル離れた野原に灯火があるのに気付いて、1名の作業員をやって調べさせた所、飛行士を処刑するので穴を掘っていると云いましたので、その時初めて飛行士処刑の事を知りました。午後9時過ぎ頃、本部より伝令が来て、「飛行士を処刑するから皆行け」といいましたから、現場に行きました。現場では指揮官、榎本中尉の命令により行動し、又飛行士処刑もいつ決定したかも知りません。故に自己の意志によって行動していません。

◆憎しみで殴るという気持ちはなく

2、「打擲(だてき)し」という部分について私が現場に着いた時は、2人の飛行士の処刑は終わり、3人目の飛行士は柱に縛られていました。これに近づいて右手で持っていた懐中電灯で飛行士の体を照らして見ると、日本国民兵や補充兵に比べて、立派な体格をしていたので、私は思わず「良い体格だ」と云って我知らず無意識に左手に持っていた物差し棒で、彼の右足、膝(判読不明)のであります。この物差しは、始終私は持っていて(判読不明)木製のものであります。この時の私の気持ちは相手に憎しみとか苦痛を与えようというような気はなく、人を呼ぶ時などに肩を叩くのと同様の気で、殴るという気持ちはありませんでした。この事はその時、私の傍にいた○○、成迫、その他、私の近くにいた者は皆知っていることと思います。

◆口述書に偽りを書いた

福岡で調査の際は私が何遍、真実の事を話しても、他の者がお前が殴ったと云う、お前が嘘をついていると云って、調査官に右手で首を絞められ、左手で頬を殴られ、私は真実を話しているのに、真実を云わなければ、いつまでも刑務所に入れて置くと云われましたので、私は致し方なく真実でない、自発的に2回殴ったと口述書には偽りを書きました。私の持っていた物差しは、被告人の○○が作ったものであります。彼は良く知っています。

◆藤中の一突で・・・

3、「且つ之を銃剣をもって突刺したる事により、該俘虜を故意且つ不法に虐待酷遇し、殺害し、且つ死体を毀損せり」という部分について突刺の時の状況を申し上げます。榎本中尉の「皆突け」という命令で、一番に藤中が突刺しました。この時、飛行士が「ガクン」として頭を前に倒し、体全体の力が抜け、膝は曲がりました。藤中の一突で完全に死んだと確信しています。この事は、現場にいた皆の者が良く知っていると思います。二番目に成迫が突刺しました。この時、飛行士の体には何の反応もなく、前同様だらりとして居りました。次に榎本中尉が、説明をして突刺しましたが、飛行士の体は何の反応もありませんでした。

◆引っ込んでいないで「模範を示せ」

二十人位突刺したと思う頃、榎本中尉が私に「炭床兵曹長、引込でいないで、模範を示せ」と命令しましたので、私は近くにいた兵の銃を取り、ただ、命令通り、機械的に一回突刺しました。私が突いた後、5、6名の兵が突いた様に記憶します。私は前述の通り、榎本中尉の命令により、飛行士の遺体を一回突刺しましたが、これは絶体命令により、真にやむを得えない行動であります。起訴項目にあるような罪は決してありません。

◆3個の十字架を建てた

4、処刑の翌日以後、私の行った事を考慮までに申し上げます。翌日私は高さ約30センチの十字架を3個作って日没後、人に知られない様にして墓地に行き、墓地の草の中に3個の十字架を並べて建て、花を供え、念仏を唱えて帰りました。その後、毎週日曜毎に日没後、墓に詣って、花を供え、念仏を唱えました。これは昭和20年7月初旬まで続けました。その後、私は与那国及び台湾へ出張を命じられましたので、墓参りはできませんでした。昭和20年10月、台湾から帰り、墓に詣って、墓は発掘され、3個の十字架がなくなっているのに気づきました。私は、十字架は遺体の処置を行った時に発見され、遺体と一緒に焼かれたのだろうと思われました。

殺害された3人の十字架を作ったという炭床兵曹長。しかし、事件の隠蔽のため、遺体は掘り起こされ、燃やされて海に流されていたのだったー。
(エピソード41に続く)

*本エピソードは第40話です。
ほかのエピソードは次のリンクからご覧頂けます。

◆連載:【あるBC級戦犯の遺書】28歳の青年・藤中松雄はなぜ戦争犯罪人となったのか

1950年4月7日に執行されたスガモプリズン最後の死刑。福岡県出身の藤中松雄はBC級戦犯として28歳で命を奪われた。なぜ松雄は戦犯となったのか。松雄が関わった米兵の捕虜殺害事件、「石垣島事件」や横浜裁判の経過、スガモプリズンの日々を、日本とアメリカに残る公文書や松雄自身が記した遺書、手紙などの資料から読み解いていく。

筆者:大村由紀子
RKB毎日放送 ディレクター 1989年入社
司法、戦争等をテーマにしたドキュメンタリーを制作。2021年「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」(テレビ・ラジオ)で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞、平和・協同ジャーナリスト基金賞審査委員特別賞、放送文化基金賞優秀賞、独・ワールドメディアフェスティバル銀賞などを受賞。

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