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<ビブリオエッセー>その色にこめた願い 「百年の藍」増山実(小学館)

産経ニュース / 2024年5月8日 12時52分

5月の日差しに光る海と、のどかな空。季節ごとの青は多彩だが、この物語の「あお」は藍の色、インディゴのブルーだ。1923年8月31日、関東大震災の前日に始まり、2023年9月1日までの「百年」を、東京や岡山の児島、大阪、神戸を舞台に、一本の古いジーンズでつなぐ物語である。

恭蔵は竹久夢二に会いたいと児島から東京へやってきた。雑誌に応募した絵を審査員の夢二がほめてくれたのだ。夢がかない、会うことができた夢二から「スケッチにこそ、画家の命が宿る」と励まされた翌日、東京は一変する。

大震災で母を亡くした少女、りょうを助けた恭蔵は焼け跡の町で「青いズボン」と出会う。それはアメリカ製で「ところどころ擦り切れて色落ちすらしている」藍の布地を恭蔵は美しいと思う。実は恭蔵は色をうまく識別できない。しかしジーンズの「あお」はわかった。

児島は綿の産地で恭蔵の実家は足袋を製造していた。そこでジーンズの国産化を夢見たが、児島に連れ帰り、恭蔵の世話で育ったりょうもまた、製法の謎を探ろうと協力する。

実家の仕事は学生服製造から軍服へ。戦時中にりょうが、着たい服を我慢しなければ守れない国なら国が間違っていると語るセリフは印象に残った。物語は家族の歴史をなぞり、世代、背景の違う様々な人物の視点や生活が描かれていく。やがて国産ジーンズが現実に。

この小説は丁寧な取材を重ねたフィクションだ。後日、著者の講演を聞き、たとえば夢二の日記を読みこんでリアルなセリフを書いたことなどを知った。藍の物語に託して人のやさしさや寛容な社会への願いが描かれているようにも思う。私も美しい「あお」を感じてみたい。

大阪市都島区 藤久燈果(50)

投稿はペンネーム可。650字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661 産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本や漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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