ラーメン「1000円の壁」に挑み続けた仙台の超人気店店主が目指す次のステージ「温泉入ってラーメン食べて3000円、の遊び場を作ります」
集英社オンライン / 2024年3月30日 11時0分
〈「このままだと死者が出ます」と言われるほどの行列ができた仙台の超人気ラーメン店が閉店「オープン初日は上手く作れず、看板を見上げて泣いていました」〉から続く
宮城・仙台を代表する人気ラーメン店「五福星(うーふーしん)」が、宮城県道泉塩釜線の道路拡幅工事に伴い、現店舗での営業を終了することを決めた。「五福星」は仙台市泉区野村にある老舗ラーメン店で、1992年の創業以来、30年以上愛された名店だ。突然の閉店発表にショックの声が集まっているが、店主の早坂雅晶さんはこのままでは終わらない。今回は名店の今後の展望について早坂さんに話を聞いた。(前後編の前編)
閉店後は温泉に入ってラーメンを食べて3000円の遊び場を
営業終了の原因となった今回の道路拡張についてはコロナ禍に決定が下され、拡張後の敷地だと製麺所がなくなり、駐車場は4台のみになってしまうそうだ。それでも店を続けようと模索したが、5年10年先のことを考えると厳しいという判断になった。
店主の早坂さんは東北初の日本ラーメン協会の理事を務めたほか、長年の食への貢献が認められ、2021年11月には「東久邇宮文化褒章」を受賞した人物である。ラーメン業界で慢性的に人材不足が続く中で、今の従業員に働き続けてもらう将来を考えると、それぞれが独立してもらったほうがいいというのが、早坂さんの結論だった。
「とにかく今は働き手がいません。そうなると、合理化していく道しかないのですが、うちは合理化とはかけ離れたやり方をしてきました。今はお客さんの数も制限し、お店に入れない待ちのお客さんには駐車場の車で待ってもらっている状態です。そんなやり方で少ないスタッフでギリギリ回してきました。もともと、この辺でそろそろ将来を考えないと、とは思っていたんですよね」(早坂さん、以下同)
「五福星」はもともと奥さんのてる子さんと二人で始めたお店。ここまで伸ばしてきたが、最初の状態に戻ろうという話になり、「解散」という道を選んだ。解散後の展開については、早坂さんには野望がある。「温泉地の小さなラーメン店」として再出発しようというのだ。
「これから、さらに格差社会が広がっていく中で、一般の人たちが誰でも楽しめる遊び場を作ろうと動き始めています。温泉に入ってラーメンを食べて3000円、みたいな、そんな誰でも楽しめる遊び場を作りたいなと」
「1000円の壁」に代表するラーメンの価格がなかなか上げられない問題や、原材料・水道光熱費の高騰、さらには人件費の問題など、日本のラーメン店はさまざまな課題を抱えている。その中で、勢いのあるお店はつぎつぎと海外進出し、活動の場を移しつつある。ただ、店主の年齢が高い個人店においてはなかなかそこには踏み出せないのが現状だ。
「みんな海外に行ってしまうのは楽しくない。今40~50代の店主が10年先に生きる道を作れたらなと思って、温泉地での展開を始めたいと思っているんです」
60代のラーメン職人が挑む「湯上がり中華そば」
なかなか遊ぶところや飲食店のない地方の温泉地でおいしいラーメンを提供することで人が集まり、お店とともに地域が活性化するのではないかというのが、早坂さんの考えだ。
大都市ではないので一日50~80食ぐらいでよく、するとワンオペないし二人で回せるお店が可能になってくる。つまり、奥さんのてる子さんと二人で回せるお店ができるのである。この先、店を続けることで苦しんでいくのは誰もが悲しい。早坂さんは60代になってからのラーメン職人の新たな生き方を提案しようとしている。
その名も「湯上がり中華そば」だ。
場所は宮城県内のとある温泉地。
その温泉地には5~6年前まで一軒のラーメン屋があったが、やむなく閉店してしまい、この跡地でお店をやらないかという提案が早坂さんにあったという。この後、このお店は火事で全焼してしまう。一時この話は途切れたが、早坂さんは隣の空き家を買い、そこに店を建て、火事の跡地に駐車場を作って「湯上がり中華そば」のプロジェクトをスタートさせようとしている。
「未来の見えない世界にしたくないなと。これからの個人店の生き残り方を提案していくことで、お世話になったラーメン業界への恩返しをしていきたいなと思っているんです」
広い駐車場はRVパーク(車中泊施設)にし、キャンピングカーの集まる場所にしたいと考えている。
キャンピングカーの拠点になり、温泉とラーメンを楽しめる新しいスポットを作ろうという考えだ。
「周りのエリアにはワイワイ人が集まっています。ここもきっとそうなれるはず。町おこしの意味合いも含めて、新たな展開にチャレンジしていきたいなと思っています」
「五福星」は8年前から“朝ラー”を提供するなどしており、風呂上がりに食べてちょうどいいラーメンとは何かも知り尽くしている。すでに朝・昼・夕で異なるスープを使い、時間帯に合わせて味わいを変えている。
「例えば、ビジネスホテルであっても朝食・ランチ・ディナーとメニューを分けていますよね。24時間同じものを作って威張っているのはラーメン屋だけだなと(笑)。温泉帰りに食べるラーメンであれば、それに合わせた味づくりが必要だなと考えています」
「子どものいない我々夫婦にとっては店が子ども」
朝起きて人が欲するものは、熱源・水分・ミネラル・タンパク質、そして若干の塩分だ。一見、一般的なラーメンとは真逆だが、「五福星」の朝ラーではそれを実現させている。丁寧にとった和出汁に、少量のぬちまーす(塩)とカツオを加えたお湯を注ぎ、体が求めているような味わいを作っている。清湯だがスープが分厚いと話題だ。
「子どものいない我々夫婦にとっては店が子どものようなものです。それをいったんなくしてまでスタートすることなので、絶対的な成功に持っていきたいと考えています。それも、自分たちだけでなく人が喜ぶ成功にしていきたいのです」
早坂さんが考えるのは“三方良し”の展開。自分のやりがいだけでなく、来るお客さんが楽しめ、さらに他にやりたい人がいればやり方を提供できる……それでこそお世話になったラーメン業界への恩返しになる。
仙台のレジェンドの挑戦はまだまだこれからだ。未来を見据えた展開にますます期待したい。
取材・撮影・文/井手隊長
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