3兆円企業「シーイン」がブチ壊した世界のアパレル会社の常識…「デザインから生産完了まで3日」衝撃の製造プロセスはなぜ成り立つ?
集英社オンライン / 2024年4月23日 11時0分
物流の最新事情に精通する著者が優良企業の物流戦略と、それを可能にする仕組みを紹介した書籍『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』。
本書より一部を抜粋・再構成し、米国での上場間近といわれ、若者の心を捉え続けている中国発のアパレルネット通販サイト「SHEIN(シーイン)」の驚きの戦略を明らかにする。
どのようにして、「シーイン」は3兆円企業に急成長したのか?
この章の最後に、米国企業ではありませんが、3兆円を超える売上のほとんどを米国内で稼いでいる企業を取り上げたいと思います。
ファストファッションを手掛けるオンライン小売り大手シーイン(SHEIN/米国人の発音だとシェインに聞こえます)です。中国発の企業ですが、現在、本社をシンガポールに移しています。
2022年の売上高は290億ドル(日本円で3兆円以上)、純利益は10億ドル(同1000億円超)。ちなみに、ユニクロを展開するファーストリテイリングの売上は2兆7665億円、当期利益2962億円(2023年8月期)です。
米国内では、このシーインがいつ米国で上場するかに注目が集まっており、まもなく上場すると言われています。
シーインは3000万人近いインスタグラムのフォロワー(2023年7月時点で2945万人)を抱え、ティックトックやユーチューブでも注目度の高いブランドです。
同社の特徴に、圧倒的なアイテム数と、低価格があります。
毎日3000〜5000点が新たに追加され、2022年5月31日には1日だけで、2万5077点もの新規アイテムが投入されました。ファストファッションで世界№1のザラでさえ年間で2万5000点の新規投入がせいぜいですから、シーインのアイテム数がどれだけのボリュームになっているのか、よくわかると思います。
また、日本円換算で2000円以下の商品が9割近く、3000円以下になるとほとんどすべての商品が含まれるとも言われています。
こうした圧倒的なアイテム数、低価格での販売を可能にしているのが、オンデマンドでの生産を実現するシステムです。リアルタイムで全製造過程を連携できるITシステム(MES:Manufacturing Execution System、製造実行システム)によってサプライヤーをつなぎ、在庫を極限までに削減することを可能にしています。デザインから生産までの流れをおおまかに説明すると、
●アプリやその他のチャネルからトレンドや顧客ニーズを収集し、AIなどで分析。それらをもとにサプライヤー所属のデザイナーがデザイン案を作成
●シーインのバイヤーにデザイン案の画像を送り、OKが出ればサンプル作成にとりかかる
●サンプルの完成までに2、3回の修正指示が入るのが通常で、正式なオーダーが入ったら3日以内に納品(5日以上かかると取引停止の可能性がある。追加注文が入った場合は9日以内に納品)
という具合になります。
3日で納品の衝撃
デザインから生産完了までに14日が標準(最短3日でも可能と言われています)。相当に速いと言われるザラの場合でさえ、最短21日ですから、製品化までのスピードも圧倒的です(図3-3)。
こうしたスピーディな製造プロセスを支えているのが、独自のサプライヤーネットワークです。
300〜400のコアサプライヤー、1000を超える協力サプライヤーで構成されており、車で1時間の範囲内にサプライヤーの工場を集約しています。
納品からサプライヤーへの支払いまでが早いことも特徴で、納品から90日というところが多いなか、同社の場合、30日で支払われます。サプライヤーはシーインから当座の運転資金の借り入れもでき、シーイン以外で同じ製品を販売することも可能です。
現在、中国に2カ所(広州佛山、南沙)、米国に3カ所(アイダホ、オレゴンポートランド、カリフォルニア)、ヨーロッパ(ベルギー)に1カ所、インドに1カ所、それぞれ物流センターを展開し、約220以上の国と地域(2022年3月時点)で販売可能な体制を構築しています。
日本では、2022年東京・原宿にショールーム「SHEIN TOKYO」をオープンしました。ショールーム内では商品の購入はできませんが、展示商品は、商品タグのQRコードを読み込むと、シーインのウェブサイトおよび公式アプリで購入可能です。
アパレル業界は、これまでの原材料の調達、製造プロセス、在庫処理などから、サステナブル対応の遅れが指摘される業界です。それらに対し、同社では、2022年12月5日に、製造工場の労働環境改善のために今後3〜4年で1500万ドルを投資し、4年以内に300カ所の改善プロジェクトを完了させると発表しました。
また、「SHEIN’s Responsible Sourcing」(責任ある調達)プログラムを立ち上げ、国際労働機関(ILO)の条約や各国の法令条例に沿って生産現場の状況を監査する「シーイン行動綱領」を遵守する合意を全サプライヤーと締結。
さらにサプライヤーの事業、従業員教育、労働環境の改善などをサポートする、「SHEIN Supplier Community Empowerment Program」(SCEP)もスタートさせています。
こうしたサステナブルへの対応も、米国上場を目指す同社には、早めにクリアしておきたい課題なのでしょうか。
図/書籍『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』より
写真/shutterstock
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