アドラー『嫌われる勇気』で生じた2つの「誤解」 「トラウマは存在しない」説と「課題の分離」
東洋経済オンライン / 2024年3月26日 19時0分
ただこの文脈は、経験の一例として「いわゆるトラウマ」と書いているのです。これは、「どんなことを経験しようとも、その経験だけで自分の未来は決まらない」ということです。
例えば、親から虐待を受けた経験のあるすべての人が、非行に走ったり人生が苦しいだけのものになるわけではありません。親から虐待を受けたからこそ、自分の子どもには虐待しないと固く決心し実行する人や、虐待を防止する活動をする人だっています。
つまり、「親から虐待を受けた」という経験だけで、その後の人生は決まらないのです。建設的な方向に行くか、非建設的な方向に行くかは、自分で選べる。そういうことを説いているのです。
もちろんですが、経験の「影響」は受けます。虐待の影響は受けるけれども「決定打」にはならないということです。
「トラウマはある。トラウマの影響は受ける。けれども、それをバネにして、糧にして、自分でその後の人生の方向性を決めることはできる」ということなのです。
アドラー自身も第1次世界大戦のオーストリアの軍医として従軍し、その渦中やその後にトラウマに苦しむ兵士をたくさん治療していました。その経験からも、「トラウマはない」とは言っていません。
「課題の分離」の捉え方を再考する
もう一つ、その本では「課題の分離」でも誤解を与えていました。こちらは、著者というよりも読者側の誤解によるものかもしれません。
「課題の分離」をここで簡単に説明しましょう。
恋人とのデート中に、恋人が不機嫌だったとします。つい「私、何かダメなことを言ってしまったかな」「どこかで機嫌を損ねてしまったのだろうか」と気にする人がいます。
しかしながら、あなたがどんな発言をしようと、どんな態度をとろうと、「不機嫌になる」のは相手の問題です。同じ言葉、同じ態度をとっていても、不機嫌になる人とならない人とがいるからです。
したがって、その人が「不機嫌」なのはその人の問題・その人の課題であって、あなたが気にする必要はない。
こうしたような意味が「課題の分離」です。
たしかに対人関係で、相手の態度に一喜一憂してしまうと、ふりまわされることになります。
相手には相手の考えがある。相手には相手の受け取り方がある。
そうとらえて、気にしすぎないことは大切です。
また、「相手の問題・課題なのだから」と考えると、相手の顔色を気にしすぎずに、自分らしく振る舞い、発言することもできます。
そのため、「人間関係が楽になった」「嫌われる勇気をもつと、人の顔色を気にしないで自分らしくいられる」などと助けになった人も多いことでしょう。これはこれで、大切なことと思います。
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