ロシアに無知だったEUはソ連のように自壊する ロシアを民主主義の反面教師としてきた欧州のツケ
東洋経済オンライン / 2024年4月11日 8時0分
ところが1991年のソ連邦崩壊、そしてその後のロシアのヨーロッパ接近とEUの拡大によって、ヨーロッパは末広がりとなりながら、ヨーロッパたる求心力を次第に失っていったのである。それは、ロシアという敵がいなくなったことで、自らのアイデンティティーが失われたからだ。
もしロシアがNATOそしてEUに入っていたらどうなっていたであろう。ヨーロッパがロシア人を「文明化し」、西欧の高みにまで引き上げていたら、そのときヨーロッパ人であることの意味は失われていたかもしれない。
ロシアが脅威であることにヨーロッパが気づかなかったのではない。脅威でなくなることを恐れたのである。
ロシアの脅威がなくなると、ヨーロッパはヨーロッパを1つにしていた「民主主義と人権」という意識を失うことになる。反面教師という言葉があるが、ヨーロッパはロシアを民主主義と人権の反面教師とみなすことで、つねに自らを振り返る鏡のような役割を求めていたのである。
だからロシアをヨーロッパの外に置くことを決めたのは、ロシアではなくヨーロッパなのだ。ロシアを脅威にしているのは、ロシア人ではなくヨーロッパ人である。だからこそ、ヨーロッパに入れてもらえると期待していたのに、それが実現できなかったことを嘆くのは、ロシア人のほうかもしれない。期待した「待ち人」は来なかったのである。
ロシアという脅威は、ロシアという地域に存在しているだけではない。ヨーロッパからすれば、ロシア以外にも中国、インド、中東などという「別のロシア」が存在している。もし、ロシアがEUやNATOに入っていたら、中国という次なるロシアを見つけねばならないはずだ。
ロシアを文明化した後は中国、中国を文明化した後はインドといった具合に、世界を西欧文明に巻き込み、その価値観を押しつけ続けるしかない。幸いにも彼らが抵抗してくれれば、それらの地域を野蛮な帝国と位置づけ、聖戦として戦うことで、ヨーロッパのアイデンティティーを確認すればいい。
ウクライナよりEUが崩壊する?
とはいえ、文明は1つではないし、歴史も1つの方向に進むものではない。西欧文明はあくまで西欧文明なのである。ロシアは西欧文明ではない。いわんや中国やインドは西欧文明ではない。それでいいのだ。
そうした伝統ある文明は、太陽系の中心の太陽のようにまわりの周辺文明を引きつける。だからそうした文明に挑戦すれば、やがてはその引力に引き寄せられ、引き裂かれて、その系の一惑星になる可能性がある。
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