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日本人の食生活に入り込む「海の奴隷労働」の実態 タイの人権活動家が語る、過酷すぎる漁の現場

東洋経済オンライン / 2024年4月21日 8時0分

乗組員はインドネシアの見知らぬ島に連れていかれ、「お前たちにはこれだけ借金がある。借金を完済するまで給料は支払えない」と通告されました。

乗組員は当初、1年くらい我慢すれば給料をもらえるだろうと思っていましたが、支払いはなされませんでした。

私たちは2014年から2016年にかけて、合計12回、救出のための船を出し、インドネシアの離島に監禁されていたタイ人や近隣国からの出稼ぎ労働者約2000人を船に乗せて助け出しました。

タイ政府は法規制など対策を強化

――その後の状況はどうでしょうか。

救出活動に関するAP通信の報道がきっかけとなり、アメリカや欧州連合(EU)などではタイの水産物に対する信用が失墜し、タイ政府は法規制など対策の実施を迫られました。具体的には労働時間に上限が設けられ、船員リストの作成が義務付けられました。乗組員は給料支払いのための銀行口座を作り、ATM(現金自動預け払い機)を通じて現金を引き出せるようになりました。

以前のように、1年間に数千人もの人たちをインドネシアの離島から救出しなければならないという状況はなくなりました。しかし、すべての問題が解決しているわけではありません。

――それはどういうことでしょうか。

賃金の不払いは依然としてなくなっていません。契約書では賃金として1カ月に1万2000バーツ支払うと書かれているのに、いろいろな名目でピンハネされ、実際には6000バーツしかもらえていない人もいます。

雇い主がキャッシュカードやパスポートを取り上げてしまうケースもあります。負傷や死亡した場合の補償も、必ずしもきちんと行われていません。

8カ月前にミャンマー人の漁船の乗組員を救出しました。この乗組員は2度にわたって逃亡を試みたものの失敗し、捕まってしまいました。そしてロープに縛られたことが原因で腕の傷が化膿し、腕を切断しなければならなくなりました。

このミャンマー人のケースでは、雇い主が契約していた医療保険に上限があり、それに到達した段階で雇い主は支払いを打ち切りました。そこでやむなく、相談を受けた私たちが治療費を負担しました。

2023年12月に救出したタイ人の乗組員は、5年も働いていたのに賃金をまったく受け取っていませんでした。

私たちはこうした人たちにシェルターを提供するとともに、本人を支援して賃金の支払いや補償を求める活動をしています。

日本の消費者との関わり

――こうした「海の奴隷労働」と日本の関わりは?

日本はタイやインドネシアからたくさんの水産物を輸入しています。そのため、食を通じて関係があると言っていいと思います。

しかし日本ではこうしたIUU漁業の問題はあまり知られておらず、輸入水産物のトレーサビリティ(追跡可能性) も十分とは言えません。

――日本の水産物輸入業者や消費者に何を求めますか。

まずは東南アジアでのIUU漁業の実態を知っていただきたい。そしてトレーサビリティの重要性を認識してもらいたい。水産物を購入するとき、鮮度や価格だけでなく、漁業にたずさわっている人たちがどんな生活をしているかについても考えてほしいと思います。

そして、水産物の流通に関する日本の法律を厳格にし、違法な水産物取引の取り締まりを厳しくしていただきたい。そうした取り組みが、海の奴隷労働を根絶することにつながります。

岡田 広行:東洋経済 解説部コラムニスト

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