中韓「領海広げて」に言い返すための仕事って!? 海保の最新鋭「測量船」は何するフネなのか 間もなく一般公開
乗りものニュース / 2024年4月9日 9時42分
海上保安庁が保有する最大かつ最新鋭の測量船が、お台場で一般公開の予定です。ただ、測量船とはそもそもどんな船なのかでしょうか。実は、島国日本にとって欠かせない役割を担っていました。
警備・救難だけじゃない 海上保安庁の重要任務
海上保安庁には、測量船や航空機などを使用して海の調査を行い、そこで得られた情報を管理・提供する組織として「海洋情報部」が設けられています。同部が手掛ける任務は、日本の海洋権益を確保するために必要なデータの収集や、海上での事故・災害を防止するための調査・観測、船舶の安全航行に必要な海図の製作など多岐にわたっており、島国である日本にとって欠かせない役割を担っています。
その海洋情報部の海洋調査で使用する測量船の中でも最大級の「平洋」が2024年4月12日、東京ビッグサイト横の岸壁(有明西ふ頭)で一般公開されます。これは、日本最大の国際海事展「Sea Japan」におけるイベントの一環で、最新の調査機器を搭載した測量船を間近に見ることができる貴重な機会といえるでしょう。
「平洋」は2020年1月に就役しました。同型船は「光洋」(2021年3月就役)で、2隻とも三菱重工業下関造船所で建造され、海保本庁に所属します。両船が加わったことにより、外洋での調査を行う大型測量船は「拓洋」(2400総トン)、「昭洋」(3000総トン)と合わせ4隻体制に拡充されました。
「平洋」と「光洋」の船体規模は4000総トンと、従来の測量船と比べて大型化しています。また観測データに影響を与える船体の振動や雑音を防止し、長時間の低速航行能力を持たせるため、海保の船として初めての電気推進システムを搭載したのも特徴です。
航行しながら水深1万mの地形がわかる!?
「平洋」と「光洋」の推進機には舵とプロペラが一体化し、360度どの方向にも推進力を向けることが可能なアジマススラスターが採用されています。このアジマススラスターを、バウスラスターや自動船位保持装置と組み合わせることで、潮の流れが速く、波のうねりが大きい海域でも、同じ位置に留まり続けることが可能であり、これにより海底地形や地質の精密な調査を行えます。
長時間にわたって一定の海域を低速で航行しながら実施する水路測量でも、船が自動で位置を調整しながら進むため、測量時に航走する経路(測線)から離れることなく、測量業務が可能だそう。余裕のある大きな船体と、電気推進による静粛性によって、居住性も従来の測量船と比べて向上しています。
観測機器は音波ビームと反射エコーのデータ水深を計測するマルチビーム測深機や、海流の流れの強さを計測し、データ化する多層音波流速計などを装備しています。
マルチビーム測深機は海底に向けて広角に音波を出し、音波の往復時間と水中での音の速度から水深を計測する機器です。船の航跡に沿って、最大約1万1000mの深さの海底地形を明らかにすることができます。
ほかにも「平洋」の特徴として挙げられるのが、無人観測機器を積んでいる点です。自動で海底近くまで潜航していき、精密な海底地形データを取得する自律型潜水調査機器(AUV)や、海底火山など人の立ち入りが危険な海域で水上から調査を行う自律型高機能観測装置(ASV)、そして船上から遠隔操作し、海底の撮影を行う遠隔操作水中機器(ROV)を装備しました。
なお、2番船「光洋」は底質などの採取や地殻構造の調査に特化しています。船上には大容量で超高圧の空気を海中で放出し地下深部まで伝わる音波を発生させるエアガンと、その反射波を受信するストリーマーケーブルで構成された音波探査装置を搭載。ほかにも海底から堆積物を採取する採泥器として、サンプリングコアラーやロックサンプラーも搭載しています。
その「任務」とは 中韓への警戒が背景に
「平洋」と「光洋」の建造が決まった背景には、2012(平成24)年に中国と韓国が、日本側の排他的経済水域(EEZ)と接する中間線を越え、沖縄トラフまで大陸棚を延長するよう大陸棚限界委員会(CLCS)に申請したということがあげられます。
こうした動きを受けて日本は、CLCSに対し「審査入りに必要となる事前の同意を与えていない」と説明。大陸棚延長の申請を検討しないよう求めた結果、同委員会は申請の審査順が来るまで、審査を行うか否かの判断を延期しました。
一方で中韓両国は相次いで新造測量船を整備し、海洋調査体制の強化を図っていることから、日本としても科学的な調査データの収集・整備が必要となっていました。
日本政府は2016(平成28)年に決定した「海上保安体制強化に関する方針」のなかで「海洋調査体制の強化」を明記。これに基づき海保では大型測量船「平洋」型2隻の新造だけでなく、既存の測量船「昭洋」と「拓洋」の高機能化、ビーチ350型測量機「あおばずく」の導入などを進めてきました。
加えて2022年12月には、新たに決まった「海上保安能力強化に関する方針」において「海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力」を構築することが明記されたことで、2024年度予算で老朽化した測量船を代替するために、大型測量船1隻の新造予算(約22億円)が計上されています。
日本にとって海は外国との貿易を支える物流ルートであるとともに、新鮮な魚介藻類を得られる食糧確保の場です。ただ、領海と排他的経済水域(EEZ)と合わせた広さは領土面積の12倍に相当する約447万平方キロメートルもあり、海の恩恵を最大限に得るためには、海の情報を事細かに知る必要があります。
海底地形調査が得意な「平洋」、海底地質調査が得意な「光洋」。それぞれが持つ最新鋭の機器を活用し、海洋権益の確保はもちろん海洋資源や防災といった、海にまつわる多くの調査を担うことを期待しています。
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