JAL新社長・鳥取三津子の〝二正面作戦〟航空・非航空事業を共に伸ばす!
財界オンライン / 2024年4月16日 15時0分
コロナ禍から約4年が経ち、「マグマが噴出した」(旅行会社幹部)かの如く足元の航空業界は活況を呈する状況が続く。その中で反転攻勢の姿勢を鮮明にしたのがJAL(日本航空)。新機材の導入を成長に向けた原動力に位置付ける。4月1日から社長に就く鳥取三津子氏に課せられた使命は、いったん縮んだ本業の航空事業の推進と非航空事業の拡大となる。
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国際・国内の新機材計画
「国際線は需要が戻っている。このチャンスをしっかり捉える」─。JAL新社長の鳥取三津子氏は力を込める。苦境が続いた航空業界にあって、コロナ禍からの回復段階へと移った同社が打ち出したのが新機材の導入と非航空事業の拡大だ。
同社の23年4―12月期の連結決算では、本業の儲けを示すEBIT(利払い・税引き前利益)が前年同期の3.7倍となる1289億円を達成した。インバウンドを中心に国際線も国内線も回復し、単価向上も収益を押し上げる格好となっている。
そんな中で同社は2025年―33年度に仏・エアバスと米・ボーイングの新機材42機を国内線・国際線で導入すると決めた。多くは中型機「ボーイング767」(座席数約270席)の後継機材で、置き換えの理由は老朽化が進んでいたからだ。
社長(4月1日から会長)の赤坂祐二氏も「かなり使い込んでいる機材」と語る。新機材の購入予定金額は公表されていないが、カタログ価格(定価)で計1兆8700億円とも言われている。これだけの新機材の導入は18年以来のこと。
同社は13年に「エアバスA350」(同約360席)を31機確定発注し、そのカタログ価格は当時の為替レートで9500億円に上った。当時社長だった植木義晴氏は「契約書に書かれたトータルの金額を見て、手が震えたのを覚えている」と振り返る。今回はそれを上回る額だ。
計画では国際線で30機、国内線で12機を購入。内訳はエアバスが32機、ボーイングが10機だ。これにより傘下の格安航空会社(LCC)を含め、JALの輸送能力を示す有効座席キロは国際線で30年度に23年度の1.4倍に拡大する形だ。
ただ、ボーイング767の更新でも国際線と国内線とでは性格が異なる。国際線はインバウンド需要などの伸びを見据えて大型化する一方、国内線は小型機に切り替えてネットワークの維持を図る。赤坂氏は「日本のインバウンド拡大状況などを見る限り、少なくとも日本発着の需要は必ずある。これから伸びていくと確信している」と話す。
JALブランドを擁するフルサービスキャリアの国際線では、25年度の事業規模は19年比で96%を見込むが、中長距離LCCのZIPAIRは25年度には23年度比で1.51倍を見込む。他にも国際線と国内線の両方を手掛け、短距離路線中心のスプリング・ジャパンが1・75倍、ジェットスター・ジャパンは1・19倍と予想する。
その一方で国内線はビジネス需要が戻り切らないという前提に立ち、25年度の事業規模は19年比で98%を見込む。グループ最高財務責任者の斎藤祐二氏は「(国内線はコロナ前比で)需要の95%ぐらい回復しているが、若干、路線方面によって回復具合に差がある。もしくは、ビジネス需要が戻りきらないことが今後続いていく」と語り、投入する新機材も「エアバス321neo」(座席数180~220席)と小さくしていく考えを示す。
「関係人口」の増加に注力
そこでJALが次なる成長に向けた礎とするのが地域との関わりを持つ「関係人口」の増加だ。この領域で鳥取氏の手腕が試されることになるだろう。同社はコロナ禍で減便・運休が増え、搭乗機会が激減したとき、客室乗務員が地方に移住して地域活性化に取り組む活動を行った。「ふるさとアンバサダー」といわれるものだ。鳥取氏が客室本部長だったときに始めた。
ふるさとアンバサダーは地域を巻き込むことで関係する人口を伸ばす一面を持つ。例えば、焼き物で有名な佐賀県伊万里市に出向していた客室乗務員が農産物にも注目し、凄腕シェフが最高食材を使った料理を手頃な価格で提供する飲食店「俺のレストラン」と協業し、東京・大手町にあるレストランで伊万里の食材と伊万里焼の器を楽しめるディナーイベントを複数回開催したりした。
JALによれば、マイル会員のうち1年に2回以上同一地点に航空移動した関係人口は約110万人(23年度)、関係人口の同一地点への平均移動回数は4回(同)と試算。この440万人・回を30年には1.5倍の660万人・回に拡大させていく。そのときに客室乗務員の出向した経験が生きると考える。
鳥取氏は植木氏が社長だった時代から将来の社長候補だったようだ。同社の社外取締役を務めた人物によると、「当時から植木氏は『将来有望な女性社員がいる』と言っていた。それが鳥取氏だったのだろう」と話す。
10年の経営破綻までは同社の社長は労務や財務、経営企画などの間接部門出身者が当たり前だった。しかし、故・稲盛和夫氏(京セラ創業者)が再建に乗り出すと、それも変わる。整備士、パイロット出身者といった「派閥に属さない現場出身者」(同)が社長となり、今回の鳥取氏の登板へとつながった。
鳥取氏に稲盛氏から何を学んだかと尋ねると「一見、志や情熱といった情緒的な価値を強調する印象が強かったが、それ以上に財務的な数字に対する姿勢が非常にシビアだった。経営者としての姿勢を学んだ」と回答。現実を見据えた経営を実践する。
「安全とサービスがキャリアのすべて」と話す鳥取氏。ライバル企業からは「お手並み拝見」と言われる中、客室乗務員出身者ならではの航空需要の掘り起こしに挑むことになる。
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