「加賀屋」50歳の元若女将が選んだ"第2の人生" 震災からの復興への道、仕事術について聞く
東洋経済オンライン / 2024年4月26日 12時0分
「つるや旅館の6代目女将になる」
受け身でも逃げでもない。覚悟を決め、夫と2人、はっきりとつかみに行った。
あわら市は福井県の最北端に位置する。1883年、ひとりの農民が灌漑用の水を求めて水田に井戸を掘ったところ、約80度の塩味の温泉が湧き出たのが芦原温泉の始まりだという。その翌年、「つるや」は数軒の温泉宿とともに開業した。
現在のつるやの建物は1957年、大阪の数奇屋建築の名棟梁・平田雅哉氏の設計施工によるものだ。
改修作業中、街の大火に巻き込まれ全焼する惨事に見舞われるものの、1年後、平田氏本人の手によって再建した。建築の技巧だけでなく、その思い入れの深さが、随所に宿る。木彫りの腕前や独特の意匠に惹きつけられて訪れる客も少なくない。
旅館の近くに新幹線の駅が開業
つるや旅館から車で5分ほど走らせた場所には、2024年3月16日に「芦原温泉駅」が開業した。
9年前、北陸新幹線の金沢駅開業がもたらした来訪者急増のインパクトを、小田夫妻は加賀屋で経験している。当時、宿泊者数は前年より15%、売上高は20%増加し、客室稼働率は過去最高の約90%に達した。
だがそれは新幹線の力だけではなかったことを、絵里香さんは誰よりもよく理解している。
「和倉は能登半島の先にあって、お客さんはまっしぐらにそこを目指して来てくださいました。それは、和倉の旅館の人たちが、目的地になるために昔から一生懸命努力を続けた結果なんです。たくさん温泉地があるのに、和倉を選んでくださった。ありがたい、ぜひまた来てほしいという心からの気持ちで接する。お客様への『おもてなし』を腹いっぱい、自分たちのDNAで持っているんですよね」
よそからやってきたからこそ見えていた、能登、和倉、加賀屋旅館の強さがある。「日本一」や「老舗」にあぐらをかくことなく、人を通して地域の文化の継承と革新に絶え間なく向き合ってきた。その基盤があってこそ発揮された、吸引力なのだ。
そんな地元、和倉温泉を襲った今回の大震災。絵里香さんは震災直後に和倉を訪れ、言葉を失った。資金的にも継承の面でも、元の姿を取り戻す道は険しい。胸が締め付けられた。加賀屋を含め22軒ある和倉温泉の旅館のほとんどが、震災から3カ月が過ぎた現在も、営業再開のめどが立っていない。
千年に一度ともいわれる大規模地震の1年以上も前に、あわらに拠点を移していた意味を、与えられた役割を、考えないわけにはいかない。和倉温泉全体の復興に小田家は必要不可欠な存在になるだろう。だが、あわらにいる自分にしか負えない役目がきっとある、そう考えるようになった。
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